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昼休みの屋上、誰もいないその場所でグリーンが例えば、と話を切り出した。それにおれはうん、とだけ相槌を打って先程購買で買ったカフェオレの入った紙パックにストローを刺す。そのまま吸い上げると茶色い液体が白いストローを昇って、おれの口の中に侵入した。
「俺とおまえと、おまえの好きなピカチュウと俺の好きなイーブイがとある場所に閉じ込められたとする。でも逃げるための舟があったんだ。それは二人までしか乗れないんだけど、おまえだったら誰と逃げる?」
「ピカチュウとイーブイと一緒に逃げる」
「おまえ俺の話聞いてた?」
甘ったるい味が口に広がった。少し嫌になってストローから口を離すとグリーンの答えを促す声が聞こえる。ふと、グリーンの持っている弁当に目を移すと、おれの考えをグリーン察したようで箸で卵焼きを摘み、おれに差し出した。あ、と口を開けて入れて貰うと甘くもなく、塩辛くもない丁度良い味がする。さっきのカフェオレの嫌な甘さを驚くほど見事に消してくれた。
「…相変わらず料理するの上手いね」
「それはどうも。今日は少し塩加減変えてみたんだけどさあ、ってそうじゃなくて!さっきの質問に対しての答えは」
おれは噛み砕かれた卵焼きを喉に流し込み、改めて考える。そんな状況に陥る事もないから本気で考えられないな。考えさせて、という意味と飲まないからあげる、という意味も含めてストローをグリーンの口に入れると大人しく紙パックを受け取り、ストローを吸い上げた。いつも通りに自動販売機でブラックコーヒーを買えば良かった、と思っても今更だ。そんな事も考えながらおれはグリーンの質問に対しての答えを考えていると、グリーンがミニハンバーグを箸で切って再びおれの前に差し出した。どうやら甘党のグリーンでさえもカフェオレは無理だったらしく、カフェオレの紙パックはグリーンの横に置かれている。視界の端に入れながら、差し出された箸をおれは咥えこんだ。
「答えは?」
「美味しい」
「違うだろ」
美味しいのは事実なのに。ハンバーグを咀嚼してそう言うとはしたない、とグリーンに指摘される。飲みこんで、おれは質問の答えを口にした。
「ピカチュウとイーブイを逃がす」
「え、おまえはどうすんの?」
「おれはグリーンと一緒にいるよ」
顔を少し赤らめて固まったグリーンを余所に、おれは箸を奪い取りハンバーグを切って口に入れた。やっぱり美味しい。するとグリーンは口を開けたり閉めたりして、おま、と言いかける。
「…グリーンって料理上手だし、何とかしてくれそうだから」
今度は違う意味で固まったであろうグリーンはカフェオレを手に持ち、飲み始めた。あ、ちょっと零れてる。本当の事は言わなくていいんだ。ただ一緒にいたいだけだよ、なんて。


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テーマ「人外ファンタジー」
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