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あいつが苦手だった。無表情で何考えてるか分かんねーし、口数も少ないから会話が繋がる事もない。理由はそれだけじゃないんだろうが、俺はとにかくあいつが苦手だった。勘違いするなよ。嫌いなわけじゃない。ただ、苦手なんだ。
皆は俺とあいつが仲が良いと微笑ましそうに俺らを見るけれど仲が良いんじゃない。幼馴染だからだ。だからあいつと幼馴染じゃなかったら俺はきっとあいつと遊ばないし話しかけない。その自信がある。結論を言わせてもらうと、俺とあいつは幼馴染という面倒で頑丈な、だけれど脆い鎖で繋がれているようなものだ。何をするにも俺より上のあいつ。最初は俺が上だけれどあいつは後から俺を追い抜いて、俺が追いつけないところまで行ってる。それがどうしようもなく悔しくて、妬ましかった。
「…どうかした?」
いつもあいつは心配そうな声色で俺に話しかける。心配そうなのは声だけで、表情はいつものように無表情。だから本当に俺を心配しているのか分からない。きっと、本心は心配なんかじゃなくて、別に興味も何もないのかもしれないけれど。それに俺はあいつに心配されるような事をしていない。ちゃんとあいつと笑って話してるし、苦手だって気付かれないようにあいつの世話もしてる。俺はおまえの事を親友だと思ってるよって。いや、本当は気付いてるのかな。あいつ。

「え、何が?全然平気!ただちょっと仕事多くてさー」
「ジムリーダーも大変だね…。論文、だっけか?」
「そうそう、論文がな。文章力ないってのに論文とかさあ、もう苛めだよな」
仕方ないよジムリーダーだもん。あいつは笑ってそう言った。ああ、おまえは良いよな。ポケモントレーナーの頂点。勝ち続けたおかげで余りまくってる金。だから仕事しなくても食っていけてんだろ?羨ましいよおまえが。そんなおまえが幼馴染だなんて嫌で嫌で堪らない。周りはジムリーダーになった俺を凄いと言うけれどそんなの嘘に決まってる。頂点のおまえと俺を比べてるんだ。どうして比べるんだろうって。いつも思ってる。けど理由は一つしかないんだよ。幼馴染だから。こんなの、重すぎるんだ。お前は大きすぎて重すぎる。俺はおまえに押し潰されるだけ。だから嫌なんだ、おまえが。昔からそうだったから。比べられてばかりで、最後に勝つのはおまえで、嫌なんだ。
「ねえグリーン」
「ん?どうかしたか?」
「無理はしない方が良いよ」
「うん、有り難うな。大丈夫だって。おまえも無理はするなよ」
笑え。笑えよ俺。不自然な笑顔でも笑え。頬が引きつっても笑顔は笑顔なんだ。そうして出来あがる笑顔。貼り付けたような笑い。けれどそれは笑顔に変わりはない。

「ううん、仕事じゃなくて」
「…どういう事だ?」
「嫌いなやつの前で無理して笑う事ないよ。無理して話す事ないよ」
いつも後から追い越される。赤。無限に広がる赤。赤い目が俺を離さない。目を逸らせない。赤だ。緑は赤に、勝てない。黄色にならない。赤が勝つ。緑は負ける。いつもの、こと。なあ、俺何やってんだよ。
「だけれど僕はグリーンの汚れた好意に甘える。こんな惨めな世界なんだ。僕もグリーンも、惨めに生きようよ」
「……レッド、何言ってんの。俺、無理して笑ってないし、おまえの事嫌ってなんか、」
「僕はね、グリーンが好きなんだ。昔から君だけを思ってきた」

だから君が僕しか見れないように、僕だけを考えるように。君の前を行って僕が頂点になったんだ。そうすれば僕を妬んでくれる、嫌ってくれる。好意の反対は無関心。君に好かれなくても良い。ただ、君の特別になりたかった。僕を嫌う事で、君は僕しか考えれなくなるんだ。僕だけを、見て。


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