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生き物が死ぬ、という事は当たり前だけれどその当たり前は俺たちにとって凄く凄く悲しくて残酷な事実だ。その事実を変える事は不可能だから受け入れる事しか出来ない俺たちは無力で、それでいて惨めだと思う。愛するものが死にゆく時、自分に出来る事はただ愛するそいつの傍にいて抱きしめて、それか手を握ったり安心させるように優しく微笑んだりする事しか出来ない。何もしないで愛する者を亡くすのは嫌なのだ。例え意味のない事でも、俺たちはそうやって気を紛らわす他ない。自己満足。その自己満足で愛する者が喜んでくれたら嬉しい。ただそれだけ。

ピカチュウはそろそろ死ぬのだろう。初めてレッドと出会った時と比べれば随分と元気がなくなったように見える。少し丸くて可愛らしい身体も今は細くなっている気がするし、何よりレッドの肩にしがみつくのもやっと、というところだろうか。前はあんなに元気でレッドとよく遊んでいたというのに、今じゃ必死にレッドの肩にしがみつくだけ。俺がレッドに会いに行っても、前までは嬉しそうに俺の元に走ってきてくれたのに今はゆっくりと俺の方を向くのに精一杯に見える。
「ぐりーん、ぴかちゅう、が、ボールに入って、くれ、ないの」
「…うん」
帽子の鍔でレッドの顔は見えなかった。でも泣いているんだっていうのは分かる。ぽろぽろと流れおちる涙の量は尋常じゃない。生き物は何れ死ぬ。俺たち人間も、友達であり仲間であり相棒であるポケモンも然り。俺は昔にポケモンを亡くした事があるから、レッドの気持ちは凄く分かるのだ。けれど俺とレッドの違いといえばやはりずっと一緒にいた相棒、というところか。ピカチュウはレッドの初めてのポケモン。つまりレッドと一緒にいた時間は手持ちの中でも一番長い。相棒じゃなくたって、友達を亡くすのは悲しい事に変わりないが。

「ぴかちゅう、ぴかちゅう。ぼーるにはいって。いいこだから」
ピカチュウは嫌だといわんばかりに首を横に振る。最期までレッドの傍にいたいからなのだろうか。俺がピカチュウの頭を撫でると嬉しそうに、小さく鳴いた。
「……今日は俺、帰るよ。明日、また来るから」
そう言うとレッドはうん、と呟くだけで俺の方を見ようとはしなかった。ピカチュウは笑顔で俺に手を振りながら鳴く。また明日ね、そう言っているように聞こえた。俺が手を振り返すとレッドはピカチュウを強く強く抱き締めたように見えた。


ピカチュウの大好きなポケモンフードとレッドのための食料を持って行くと、雪の降る中、いつものようにレッドがいた。俺はレッドを呼ぶ。それでもレッドはぴくりとも動かず、後ろを向いて佇んでいる。心臓の動きが早まった。
「レッド?」
「ぐりーん、ぐりーん。あのね、ぴかちゅうが」
振り向いたレッドの腕の中にはとても幸せそうな顔で眠っているピカチュウ。そっと頬を撫でてやってもいつものように喜ばない。冷たい。ピカチュウはとても冷たかった。
「ありがとう」
綺麗な涙を流すレッドとそのレッドの腕に抱かれて幸せそうな顔で眠るピカチュウ。とても美しい光景だった。
その日、俺は世界で一番綺麗な生き物たちを見た。
その日、俺は世界で一番幸せそうに眠りについた生き物を見た。
その日、綺麗な涙を流すそいつと俺は泣きじゃくった。




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