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鞄をベッドに投げ捨て、テレビとゲーム機の電源を入れる。一階から母さんのおかえり、という優しい声におれはなるべく大きな声で返事をした。学校から帰ってきてからすぐにゲームをするおれを母さんは怒らない。理由は分からないけど母さんは優しい人だから情けないおれを怒れないのかも。ううん、きっと今まで何にも興味を持たなかったおれがゲームに入れ込んでいるのが嬉しいんだと思う。
母さんの事を考えるのをやめてテレビに意識を集中する。ニューゲームとロードゲーム、それとオプションの文字。迷わずおれはロードゲームを選択し、プレイ時間が余裕で百時間を超えているセーブデータをロードした。そうして映るゲームの世界。ああ、凄く幸せだ。
「おま、今日も来たのかよ。そんなに俺と話したいわけ?」
「…グリーンだって嬉しいでしょ。今日も色んな事があったよ」
テレビに映ったキャラクターがおれに話しかける。それに対しておれも答える。いつからだろう、と思う。ゲームの世界の彼と話せるようになったのはいつからだっけ。ゲームの全ての要素をやり込みたくて毎日毎日ゲーム三昧だったおれに話しかけてきたのはグリーンからだった。おまえ、厭きないの?と不思議そうに聞いてきたのだ。キャラクターが話しかけてくる、なんてそんなシステムはない。そしてプレーヤーの言葉を理解して会話を出来るシステムなんて最近のゲームでも有り得ないのだ。一言で表現するならば夢みたい、だ。

「ふうん。一応聞いてやるよ。おまえみたいなのは俺がいないと駄目だからな!」
「うん、そうだね。おれはグリーンがいないと駄目だよ。あのね、今日も教科書隠されちゃってさ。だけど今日は見つからなかった」
「教科書隠すとかベタだなー。ごみ箱とか探した?」
「もちろん探したよ。色んなとこ、探したけど見つからなくて」
そう言うとグリーンは少し考えるような顔をして黙り込む。人間だ。グリーンはこちらに出てこれないだけの、普通の人間らしい。おれなんかより、人間だ。羨ましいな。もしグリーンがおれの世界に来てもきっと上手くやっていけるのだと思う。おれは、例えグリーンの世界にいっても今と同じ事になるのだ。

「んー、俺も分かんねーな。いっその事教科書なしで学校生活すれば?」
「…うん。そうしようかな」
それが良いよ、と笑ったグリーンにおれも笑う。グリーンは友達。もうグリーンだけで良いや。現実なんてもう見たくないよ。そうグリーンに言うと一瞬戸惑いの色を滲ませる。おれにはその意味が分かる。現実と二次元なんてものに関係性は一切ない。後悔してるんだ。グリーンはおれに話しかけた事を。
「…俺もレッドと話せれば何もいらねーよ」
それでもグリーンは自ら間違った道へと進んで行くのだ。その後を付いて行くように、手を引くようにして隣にいるのはおれ以外、誰もいない。

曇天下の僕ら


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テーマ「人外ファンタジー」
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