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彼の鋭い爪になれたなら、と思う。そうすれば彼の代わりに罪悪感を感じる事も出来るし、仕事も手伝えるから。それに毎日彼は爪を綺麗に研いでいるから、おれが爪になれば彼に大事にしてもらえる。別におれが彼に大事にされていないわけではない。ただ、おれは彼の一部になりたい。
彼の牙になれたなら、と思う。そうすれば彼が唇をいつも噛んで傷つける癖を直せるかもしれないから。それに彼の牙はとても美しいから、おれも綺麗になりたい。別におれが汚いわけではない。汚くはないけど、綺麗でもないだけ。

おれは悪魔が嫌いだ。人を平気で引き裂き、その肉を食らうから。悪魔が嫌いだ。だっておれの好きな人が悪魔だから。鋭い爪も、何でも噛み千切りそうな牙も、全てが彼を悪魔だと証明する。おれは彼にいつも銃を向けるのだ。大好きな彼に鈍く光る銃を向けるのは本当に辛い。でもおれは悪魔が嫌いだ。憎くて憎くて仕方がないくらい悪魔が嫌いなんだ。でも、それくらい彼が好きで好きでどうしようもない。おれが悪魔だと証明する爪や牙になれれば、彼を何の躊躇いもなく愛せる。おれは彼を愛す理由が欲しいだけ。
彼は悪魔なのに優しい。きっと完全な悪魔ではないんだと思う。毎日毎日おれに会いにくる彼は優しい人間だ。その度に銃を向けられても笑う彼は、悪魔の皮をかぶった人間なのだ。今日も彼は銃を向けているおれに対して笑って言う。

「…なんだ、またどっきりかよ。驚かさないでくれ」
おれは銃を向けるだけで彼を撃つことは出来ないって自分で分かっている。それはきっと彼も同じ。おれが自分を撃たないって彼は信じてる。だから彼はいつも笑ってどっきりだと言うのだ。どっきり何かじゃないって分かってるくせに。
「もう弾切れしたのか?じゃあ俺がまた弾入れ替えてやるよ。それ貸して」
弾切れなんてはじめからしてない。彼がはじめてそう言った時も、弾は充分にあった。入れ替えなんて必要のないくらい。だけど彼はいつもそう言っておれから銃を取る。そうして弾を入れ替える振りをする。グリーン、おれ、もう分からないよ。
「おまえ毎日毎日何で弾なくなるわけ?」
「…別に、グリーンには関係ないよ」
「……そうだな」

彼はふざけているのか、それともおれの気持ちを分かっているのか。おれにはそれさえも分からなかった。でもきっと、彼はおれの気持ちなんて分かってない。おれは真面目なのに、彼はきっと分かっていないよ。
優しい彼を見ると愛しさが増す。爪や牙が見えると憎しみが増す。そうしておれは明日も彼に銃を向けるのだ。


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