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現代パロ

寂しい部屋だな、と思った。必要最低限のものしか置いてないレッドの部屋はあまりにも寂しい。キッチンや風呂は元々このマンションを買った時についてきたものだからカウントしないとして、こいつが自分自身の意思で置いたものといえばベッドとガラステーブル、冷蔵庫、仕事に使うパソコン、ぐらいだ。テレビさえも置いていないその部屋に思わず俺は買ってきた食材が入ったスーパーの袋を落とす。俺がこいつの家に、基こいつの部屋に来るのは初めてだ。落とした袋から葱や豆腐が床に散乱した事にも俺は気付かず、ただただこいつの神経を疑った。

「…何、どうしたの」
「いや、おまえどうしたのじゃなくてだな。こう、ソファーとかさ」
「ああ、置かないのかって?うん、邪魔だからね」

邪魔と言いきったレッドはコーヒーでも準備するよ、と言ってから俺にベッドに座るよう促す。モノクロの世界にいるみたいだ。フローリングを除いては。黒いベッド、黒いパソコン、それとは反対に白い壁。あまりにも寂しい、というか寧ろ違和感さえ覚える。部屋を見渡しているとレッドがはい、と一言発してコーヒー入りのマグカップを俺に差し出した。砂糖多めに入れといたよ。あ、覚えてたんだ。俺が甘党なの。うん。そんな会話。

「洗濯機とかは、あるよな?」
「…近くのコインランドリー使ってるけど」
「ああそうですかですよね」

ずず、とコーヒーを啜ると甘ったるい味が口の中に広がった。幾らなんでも砂糖入れすぎじゃねえ?口に出すなんて到底出来ないから言葉は呑みこむ。レッドはブラックを飲んでいるらしかった。

「食材、冷蔵庫に入れといたよ」
「あ、忘れてた」
「何作ってくれるの?」

鍋。簡潔にそう言うとレッドは目を丸くして二人で?と聞いてくる。ああもうそれは聞くんじゃねーよ俺だって分かってんだよ男二人で鍋食べるとか悲しいってことはな!うっせ、と悪態。レッドは笑ってグリーン、変わってないね、と言った。昔から変わっていないこの関係。何年もレッドには会っていなかったけどそれは少しも変わらなかった。懐かしい、というか嬉しいってこういう事言うんだよな。寄せ鍋だけど文句言うなよ。言わないよ。俺が十代前半の頃、こんな話もしたっけ。…十代前半?俺、良く考えてみればその頃から鍋とか料理してたって事だよな。もしかして俺ってそういう運命なわけ?それでもいいかもしれないけど。

「寄せ鍋」
「…懐かしいね。初めてグリーンが作ってくれたのも寄せ鍋」
「覚えてんのか」
「まあね。美味しかったよ」

だから今日も宜しくね。そう言ったレッドの頭を思いきり撫でてやる。マグカップに入ったコーヒーがちゃぷん、と音を立てて揺れた。甘ったるいコーヒーを淹れるのもレッドの癖だった。昔に戻ったような気がして楽しかった、なんてそんな事は絶対に死んでも言わない。あ。明日はテレビとか買ってきてやろう。

それは何も変わらない





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テーマ「人外ファンタジー」
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