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大好きだよ、と真っ赤な唇を震わせ俺の首に腕を回したレッドの頬に爪を立てる。柔らかい肌に深く突き刺さったその場所からじわり、とレッドの唇と目に負けず劣らずの赤い液体。それは俺の爪にこびり付き、ゆっくりと指を伝った。どろどろと生温いそれはとても血とは思えない鮮やかさで、紅のように思える。頬から手を離すと爪を立てていた場所からは緩やかに血が流れ落ちていた。輪郭を伝い流れる血はやがて地に染みわたる。レッドの純粋な目の奥底に燻ぶる罪の意識に誘惑が混じっているのを確認。俺は笑った。

「ああ、俺も好きだよレッド」

先程爪を立て、傷を付けた場所に唇で僅かに触れる。少しばかり乾いていた唇のざらざらとした感触でもレッドにとっては痛みとなったようだ。眉を顰めて真っ赤な唇から痛いと漏れたのを俺は聞き流し、舌を這わせると独特の香りと味がする。鉄の味がする液体は舌に染み込んだ。

「好きだ。他の何より好きなんだよ」
「…おれは、グリーンしかいらない。他はどうだっていい」

首に回っていた腕が背中に移動したのを感じながら俺は苦笑いしてそれは同じだろう、と言う。レッドもつられるようにして笑い、それは良かったと呟いた。一瞬だった。全ては一瞬のうちに終わる。首に腕を回した時から隠し持っていたのであろう折り畳みナイフが首に添えられた。それと同時に俺も袖からナイフを取りだしレッドの首に向ける。鈍く光るそれはレッドの白い肌とはあまりにも不似合いだ。目の端にレッドが俺に向けているナイフがちらつく。先に口を開いたのはレッドだった。

「好きだよ。だからおれのものになって欲しいんだ」
「何言ってんだよ。俺は元からおまえのものだろ?俺だっておまえを俺のものにしたいんだけど」

レッドの口は笑っていたが目は本気そのものだ。それはきっと俺も同じで、冗談なんかじゃない。冗談じゃないとお互いに分かっているからこそ、今この状況なのだと俺は理解した。全ては欲望のままに動いているのだとレッドも俺も知っている。

「お互いに殺し合うってどうかな、グリーン」
「それは良い考えだがあまりにも悪趣味すぎるな。残念ながら俺はまだ死にたくないんだけどなあレッド」

細められたレッドの目は冷たい。俺も本気だがまだ死にたくないさ。そう言うとレッドは淡々と言葉を紡いだ。おれは生きている方が辛いし怖い。これから何があるか分からないから。だけれど死ぬって事は違う。これから先なんてないんだ。ただ死んだ後、自分がどうなるのかって事がきっと皆怖いのであって、だから何も考えなければ良い。死んだ後には何もないんだから。天国も地獄もないよ。一生懸命生きても、生きているつもりでも、結局は不完全な人生だ。あの時こうしてれば良かったな、なんて後悔もしたくないしするつもりもない。おれはそう思ってるから生きるのが怖いんだ。怖いのは死ぬ事ではない。ただただ普通に死んでいくとか、やりたい事が出来ずに死ぬとか、おれは嗚呼生きているなって実感もなく生きていくのは嫌なだけ。その言葉に俺は納得。それもそうだ。

「ね。死ぬ事は怖くないんだよ」

寂しそうに笑ったレッドが首に添えていたナイフを少しばかり俺の首に食い込ませたのが分かる。冷たい感触と、痛みと、溢れ出る生温い液体。気持ち悪い感触だった。その部分は冷たいのに、周りは暖かいもので濡れる。寒気がした。だから俺もレッドの首に少し食い込ませると嬉しそうに笑った。

「一緒に死んで、何もない世界でまた遊ぼうよ」

俺は分かった。俺は死ぬのが嫌だったのではないと。別に生きていたいわけでもなかったのだと。俺は、ただ、不完全で不十分な人生で終わりたくなかった。それだけ。目の端にちらつくナイフが救いをもたらす神々しいものに見えて俺はレッドに笑いかける。レッドも笑っていた。

本当に恐れるべきものは、
Do not fear death so much, but rather the inadequate life.
(死をそれほど恐れるな。寧ろ不十分な生を恐れよ)


◎病的に愛し合ってる凄く暗いもの、というなんともわたしが好きなリクエストでした。頑張った結果がこれです申し訳ない…!





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