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レッドは話す事が出来なかった。否、彼には声がなかった。一生懸命に話そうとするレッドに俺は無理するな、と笑いかけると申し訳なさそうに俯く。頭を撫でてあげようとして俺の手は浮いたのだけれど、ある事に気付いてそれは中途半端に止まった。レッドは正真正銘の幽霊なのだ。トレーナーの間で色々な噂が飛び交う中、レッドは紛れもない幽霊だ。シロガネ山の頂上にいる人は人ではない、と。幽霊であると認識しているやつらが大半で、それは間違いではない。俺だって初めはレッドが死んで幽霊になってシロガネ山にいるって信じたくはなかったさ。というか信じなかったさ。だから確かめに行ってみたんだがレッドはレッドで、色が薄くなってる事もないし、足もしっかりあるしで幽霊だなんて思わなかった。だから普通に話かけたところ、レッドの声は聞こえないし触ろうとしても触れない。そこで初めて俺は本当に幽霊なんだなって理解したわけだ。

「それにしてもおまえ、本当に幽霊なんだよなあ」

笑いながら言うとレッドは苦笑いを浮かべて頷いた。元々こいつは無口だし、あまり喋らない方で俺がいつも意図を汲み取っていたから意志の疎通は困難ではない。レッドの声が聞けなくなったのは残念だけれど。手を伸ばしてレッドの頬に触れるようにしたが当たり前のようにすり抜けて俺の手は空気を掴むこととなった。レッドが不思議そうな、尚且つ悲しそうな顔をして口を動かしたけれど声は聞こえない。グリーンに触ってもらう事も、触る事ももう出来ないんだね、と俺は受け取った。

「あー、そこは大丈夫だろ。俺も死んだら触れる。てか触る」
「………!」
「死んじゃだめって?いやだっていつかは死ぬしさあ」

納得したようにレッドは手を合わせて頷いた。その様子に俺は少しばかりの安堵。ああ、存在してるんだなって安心したのかもしれない。俺はまだ死ぬつもりないよ、と言いレッドに笑いかけるとレッドも安心したように笑った。それからレッドの口がバトルしよう、と紡ぐ。そして俺は思い知らされるのだ。レッドが今存在しているのは自分以上のトレーナーを見つけたいからだと。俺はそれにはなりえない。そしてもしそれが俺だとしてもレッドに勝とうとはしない。何故なら、レッドより強くなったら、強いトレーナーが現れたら間違いなくこいつは消えてしまうからだ。俺の推測でしかないが、間違いはないと思う。だから俺はただただ祈るしかないのだ。こいつに勝てるやつがいませんように、いたとしてもここには来ませんようにと。レッドが不思議そうに俺を覗きこんだ。俺は笑ってボールを手に取る。レッドの目がぎらぎらと光った。その目をしたやつを俺はもう一人知っている。金色の目を脳裏にちらつかせながらボールを投げると小さくバクフーンの咆哮が聞こえた。別れの時は、近い。

最強に勝る努力など
(俺はこいつさえいればそれでいいんだ)





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