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学パロ

何とおれは自ら望んだわけでもなく(ある意味で望んだけど)、生涯経験する事のないであろう修羅場とかいうものに遭遇した。今日は最悪に良い天気だし、これもおれの日頃の行いが良いからこの世にいないとおれが思っている神様あたりが慈悲をかけてくれた、あるいは一度は修羅場というものを見ていておいた方がいいというお告げ的なものなのだろう。嗚呼、おれ、まともに生きていて良かった!まさかまさかその修羅場に幼馴染が絡んでいるとなればこれ程面白い事はない。時はええっと、今昼休み。場所は屋上。紫外線が降り注ぐ中、日焼けも気にせずに二人の女の子うち、一人が罵声を幼馴染、グリーンに浴びせている。女遊びが激しいからこんな事になるんだ。腕に抱えた購買で買ったパン二個を抱え直して再び屋上のドアからこっそり聞き耳を立てていると、聞こえたのはグリーンの声。…うん、最低。盗み聞きしているおれが言える事じゃないけど、最低。おれの幼馴染はこの世のものとは思えない酷い台詞で相手の子二人を罵っている。放送禁止用語連発。ピー音の嵐。興味本位でドアの隙間から顔を覗かせると視力が異常に良いおれの目に映ったのはそれはもう楽しそうな笑顔で、笑顔で、とても口に出して表現するのも恐ろしい。ふと違う方に目を向けると罵声を浴びせる事もなく、ただただ俯きながら凄く短いスカートを軽く握り締めているそんなに可愛くもないもう一人の女子が見えた。おれの見間違いでなければ、女の涙という武器にもなりえる汚らわしいものを流している。不意にグリーンがこちらを見た。口元はどこか楽しそうで、綺麗に歪んでいる。そうだね、楽しいね。いつものおれを、無口でクールなおれを装ってドアを開けるとおれの存在には全く気付きもしなかった二人が目を見開いておれを見た。

「…邪魔だよね、おれ」
「よおレッド!全然。寧ろ悪かったな。メシ、ここで食べるんだろ?」
「うん。…おれの事は気にしないで、続き、どうぞ」

やはり紫外線を浴びるのはおれにはきつい。よくこんな中、立って頭が沸騰しそうな話しをしているものだ。感心しながら日陰を探し、そこに腰を下ろして一つ目のチョコクリームが入ったパンの袋を開ける。勢いよく二つに裂いて中を確認すれば不況だからなのか、異常に中身が少ない。詐欺だ。それでも入ってないよりはましだと考え、齧りつく。会話を再開したようで、女の声が聞こえた。んー、どっちの声だろう。さっきグリーンに罵声を浴びせた子だろうか。

「あたしたち以外にも、付き合ってる子っていんの」
「当たり前だろ。俺は女の子全員好きだから」
「遊び、だったんですか…?」

これは大人しそうな子の声だなあ。そう考えつつパンを食べているとグリーンの愉快そうな声が耳に入った。

「遊び?まさか。俺はいつでも本気だぜ?」

あまりの嘘っぷりに俺はくすくす笑う。本気とか、グリーンの本気っておれしかいないじゃん。気付かれないように声を噛み殺しながら、それでも腹を捩じらせて笑っているとグリーンのおまえ笑ってんなよ、と咎められる。そんなグリーンの声もどっからどう聞いても笑っているようにしか聞こえなくて、おれは思わず少しだけ声を洩らした。女の子たちの戸惑いと嫌悪の雰囲気がひしひしと伝わってくる。ああ、ああ!あっはははははは!おっと、失礼。

「なーんて嘘。おまえら何か本気じゃない。俺の本気は一人にしかやってねーから」
「…誰よ。教えて」
「ええ?聞いても笑っちゃうと思うけど?」

笑っちゃう。それもそうだ!何たって相手は男なんだ!しかも今ここにいる男。おれはグリーンのものだと、グリーンはおれのものだと皆に知らせるための舞台。演技。全ては最高の役者で行われた。うんうん、台本通りに上手く事が運んだね。観客は二人だけどそれもこの子たちの軽い口から周りにどんどん広がっていくだろう。口コミってやつ?最近の子たちは口が軽くて有り難いよ全く。

「レッド。名前はレッド。こいつは俺のものだから手、出すなよ?」

偶然という名の必然を装い、おれは偽物の修羅場を見て笑った。それも全て、おれが!グリーンが!お互いのものだと確認しあうため!皆に教えるため!学校生活を楽しむためだ!強く握り締めたおかげでチョコクリームが垂れたのも知らずに、おれとグリーンは純粋に笑った。

偶然という形で
(再確認!)





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