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やっぱりな、と以外にもおれは冷静に思った。自分でも驚く程の冷静さ。そして予想外の残酷な思考に少し戸惑いながらも平常心を保とうとしていた。ああ、うん。そんなものかな。
おれの目に映るは幼馴染。ただの幼馴染ってわけじゃないんだ。可笑しな話だけどおれとグリーンは恋人同士。あー、恋人同士に見えない微妙な関係ってところかな。久し振りに山から下りてグリーンの家に来ればこれだ。おれの目に映ってたのは幼馴染だけじゃなくて、女も一緒だった。ソファーの上でべたべたと。女が花の形をしたヘアピンを指差して似合ってる?可愛い?と音を紡ぐ。それに対してグリーンは可愛いよ、似合ってる、と笑った。何て気持ち悪いんだろうねこの光景。どろどろとした得体のしれない感情が全身に巡り巡る。ついには喉からも出そうになって急いで口を噤んだ。

「ね、グリーン。たまってるんでしょ?」

女が吐いた"たまってる"は考えずともおれの頭の中にそのまま入ってきた。まあ普通に考えて性的な意味でのたまってるなんだろう。吐き気がしてくるよ。

「んー、たまってるって言ったらたまってるけどさ。俺、高いよ?三枚」
「…三万ってこと?グリーンって顔が良いからそれくらい払ってもいいよ」

話早いじゃん、と笑ってみせた幼馴染におれは耳を疑った。本当は気付いていた事実から逃げたかった何ともずるいおれは耳を疑うという遠回しな方法で逃避をしようとしている。現実を見なければいけない事なんて、重々分かっていた。少しばかりの衝撃と少しばかりの悲しいという感情。そして少しばかりの憎しみにおれは戸惑う。おれは、グリーンにそんな感情を抱きたいんじゃない。話をすればグリーンだって、今グリーンの服に手をかけている彼女だって、おれだって、分かるはずなんだ。グリーンはおれのものだって。違う、違うよ。おれはそういう事を言いたいんじゃない。そんな事言ったらおれ、ずるいじゃないか。元々ずるいんだ、おれはただそれをグリーンにばれないようにしたいだけだ。最悪、最低。それは彼女もグリーンも同じ。グリーンたちとの空間を隔てている扉に隠れるようにして座りながら考える。おれは、何をしたい?

「金、前払いじゃないと身体なんて貸してやらねーけど?」

ケチだ、何てそんな事を思うと同時に湧きあがる憎しみという名の感情。徐々に渦巻いていくそれの制御方法なんて知らないおれは焦るだけだ。全身に回る毒のようなそれに半分犯されたおれの脳が告げる。彼女を殺すのはどう?欲望に忠実なのはおれだけじゃない。人間全てが欲望に忠実である。だったら人間らしくないおれが人間らしい行動をしてあげようじゃないか。間違っている行動だと頭の隅では分かっていても毒は尚も脳を犯し続けた。それは間違っていない、と言うように。

「グリーン、ただいま。ああ、別に焦らなくても良いよ。続きをどうぞ。ただね、おれの話は聞いて。そう、君も。おれの前で続きをして、おれの話を聞く。これほど効率の良いことはない。あのね、おれ、」

カッターをポケットから出した。それはおれがシロガネ山に籠る前に持っていったもの。役に立っていたそれでまさか肉を裂く事になるなんて思いもしなかったけど。驚いた女とグリーンは硬直しておれを見る。そう、おれだけを見て。グリーンは、おれだけを。

「少し腹が立っちゃった。そう。おれ、腹が立っちゃったんだ」

努めてにこやかに吐く。刃を出したそれを持って女に近付くとグリーンの制止の声が聞こえた。おれはそれを心臓目がけて、


死体となった女の髪から先程グリーンが似合ってるよ、と言ったヘアピンをとって自分自身に付ける。付けにくいなあ、もう。赤く染まったヘアピンを付け終わったおれはグリーンを向いて笑った。付けても特に利益があるわけでもないんだね、ヘアピンって。

「ねえ、見て。見てよグリーン。似合ってる?おれ、可愛い?」

人間的な非人間
君が可愛すぎてそんなもの、見えないよ






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