「えーっと、今日の任務はぁ」
月だけが空の光を彩り闇をより深くする。
光と闇の絶妙なバランスを保つ紫暗の夜空は今日も今日とて美しい。
「たしかヤグルマの森、と。」
「流れ者の不良たちにはもってこいの"遊び場"だな」
そんな夜空を手帳片手に飛び回る。今私たちがいるのはヤグルマの森上空。もうすぐ書類に書かれていた目的地だ。
「目撃情報が入ったのが一昨日だから…うん、余裕だね」
「さっさと終わらせて帰るぞ」
問題の周辺の森は騒がしく、風に乗って四方八方から声が聞こえる。星が出ていない今は夜、おねむの時間だ。私たちも今日はこれがラスト。はやく寮に帰ってあまり柔らかくはないベッドで寝たいものだ。
「で?ここの犯人は?」
「昨日捕まって15年の門(ゲート)通過禁止刑を課せられたそうだ」
「イッシュの住人が温和な人たちで命拾いしたね」
「ジョウトだったら50年は軽いぜ」
目的地に向かって飛び続けていると、私たちの視線の先にじんわりと広がる白い光が見えた。その光はこの森には不釣り合いで、明らかに自然のものではないことがわかる。
その白い光の真上まで飛ぶと、実際の光は目を瞑りたくなるような明るさだった。瞳孔が閉じていくのを感じながら少しでも光を遮断するために手のひらで目を軽く覆った。
書類には、ランタンほどの、もっと小さな光だとあったのだが。
「まあよくあることだけどねー」
「おら、つべこべ言ってねぇでやるぞ」
「はいはーい」
特別なフィルターがかかったサングラスをかけて、光の源を正確に見極める。
攻撃の命中率をより確実なものとするため、二人ぎゅっと手を繋ぐ。すると私の左手と彼の右手から黒い球体が生まれ始める。
それが十分な大きさになったところで光の源目掛けてぶっ放した。
「「"シャドーボール"」」
組織の中でもトップクラスの命中率を誇る私たちの技は見事光の源である鉄の箱にクリーンヒットした。
箱は砕け散って、辺りにはまた美しい闇が舞い戻ってくる。
あたりが紫に溶けたころ、光から避難していたヤグルマの住民もわらわら戻ってきた。口々に掛けてくれる感謝の言葉一つ一つにお返事をしてから、ふわり来た道を帰る。
さあ、これにて今日の任務は完了!
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