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打倒、あまのじゃく!


足駄をはいて首ったけの続編です。

待機所で気のしれた同僚を発見した時って嬉しい。待機時間が楽しいお茶会になるから。
今日はドアを開けると仲良しの紅の姿を見つけた。
でも、今はそんなうきうきした気分になれやしない。
紅の隣に力なく腰掛けると、ついつい深いため息がでた。
今朝の母とのやり取りは私を酷く憂鬱にさせたから。

「暗いわね。名前どうしたの?」
「紅、聞いてくれる?ちょっと悩んでて…嫌って言ってるのに母にしつこくお見合いを勧められちゃってさぁ。」
「お見合い!?」
「しーっ!声が大きって!」

大きく目を見開き驚いた紅に慌てて人差し指を立て注意した。
周りを見渡すとざわついた待機所の中で私達の会話を聞いている人はいないみたい。よかった。ホッと胸を撫で下ろした。
壁に耳あり障子に目ありだからね。こんなこと待機所で口にする内容ではなかったと思ったが後悔既に遅し。紅の表情はすっかり興味津々だった。

「え、でも貴女…ヤマトがいるでしょ?」
「別に付き合ってるわけじゃないし。」
「よく言うわ。散々、いちゃいちゃしてるじゃない。」
「いっ…いちゃいちゃって!してない!ヤマトとは手を繋いだこともないしキスだってしたことないよ!」

私は顔の前で手をぶんぶんとふり、全力で否定の言葉を口にした。
すると、紅は嘲笑ったのだ。

「馬鹿ね。ヤマトと話すときの名前はすっかり女の顔になってるわよ。サッサとくっついちゃいなさいよ。好きなんでしょ?」

紅の言葉を受け、自分の顔が火が付いたように熱くなった。
周囲にはそんな風に見られているの!?最悪!
でも、“好きなんでしょ?”この問いを否定することなんて到底できない。そう、好きだから。もうすっかりヤマトに落ちているもの。
私にキャンキャン言い寄ってくるヤマトは可愛くて仕方ないし撫で回したい衝動に駆られる。一緒に任務につけば機転がきき頼りになる。
それに最近は…印を結ぶ骨ばった長い指を見てると、どんな風に女性を喜ばすのだろうって考えてしまう。
正直、ベタ惚れ。

「くす、顔が林檎みたいに真っ赤よ。」
「だって…紅が変なこと言うから。」

少しでも自分の熱を冷ましたくて手で顔をパタパタと扇いだが、こんな程度で顔色はとてもじゃないが戻りそうにない。もー恥ずかしい!
紅は更に質問を被せてきた。

「両想いなのは明白なのに、どうして付き合わないの?」
「……………だって、なんだか今更っていうか…散々断っておいてどうやって素直になったらいいのかわからなくて。」
「呆れた。とりあえず好きって言ったらいいのよ。それで万事解決だわ。」
「…それが難しいんだよなぁ。私、ヤマトを目の前にしたら素直になれない呪いにかかってるのかも。」

そう、それだ。
今まで何度もいい雰囲気になったことがある。言えるチャンスは沢山あった。でも、私って駄目な女なのよ。
二人で飲みに行った帰りの人気のない夜道。
ツーマンセルの野宿。頭上に広がる満点の星空の下。
任務帰りにたまたま見た花火大会。
胸がどきどきした。彼の横にいることが、一緒に同じ景色を見れることがたまらなく嬉しくて体中が幸せな気持ちでいっぱいになった。
そんな時、ヤマトはすかさず言うのだ。「名前さん、そろそろ僕に落ちたらどうですか?」とかそんな甘いことを。
そこで素直に頷ければいいのに。
全身に駆け巡るそわそわした気持ちを見透かされたのが恥ずかしくて、悪態をついてしまう。好きな人の前だからこそ可愛い自分になれない。この性分どうにかしないとずっと先に進めそうにない。

「どうしたものやら…ヤマトとのことでも頭がいっぱいだったのに母さんまで面倒なこと言い出すし…」
「せっかくだし会ってみたら?他の男を見たらヤマトの良さが際立つんじゃない?それか、とってもイイ男で二つ返事で結婚しましょうって口走っちゃうかもしれないわね。貴女のその素直になれない呪いを解いてくれたりして。」

頭を抱える私とは対照的に紅はくすくす笑っている。他人事だと思って完璧に面白がってるでしょ。

「もー紅…ふざけないでよ…」
「ふふ、だって面白いじゃない。それに、どんな人か気にならない?」
「母曰く、高身長、高学歴、家柄も良くてイケメンならしい。確かに写真は二枚目だった。」
「いいじゃない。誰にも言わないし黙っといてあげるから。実際に会ってしょうもない男だったら断ったらいいし。しちゃいなさいよ、お見合い!」
「えー……でも紅、その単語はもう少し小さな声で言ってくれる?面倒くさい奴に聞かれたら大変だから。」

私は二度目の注意喚起をした。
そう、お見合いの話が来てるなんて彼の耳に入ったら面倒なことになるのは間違いない。と、いうか好きな人に純粋に知られたくない。
そんなことを考えていると、信じたくない声が耳に飛び込んできた。

「面倒くさい奴って誰のことですか?」

えっ?嘘?
驚き過ぎて瞬時に身が縮まった。
紅と二人顔を見合わせ恐る恐る振り返ると、そこにはヘッドギアをつけた男が腕を組み仁王立ちしているではないか。これは、非常にまずい。
もお…気配消して背後に立つなんてやめてよ。

「あらやだ、もうこんな時間。私は8班のみんなと任務だから。」

険悪な空気を察知し、そそくさと席を立つ紅。
任務までまだ時間に絶対余裕あるよね。
厄介事に首を突っ込みたくないだけだよね。
私を一人おいていかないでよ!

「紅待って!行かないで!」

必死の形相で懇願したが、涼しい顔でひらりと手を振られ足早に待機所を後にしていった。
残された私とヤマトの間に流れるこの重たい空気はどうしたらよいのだろうか。
少しばかりの沈黙の後にヤマトはぼそりと声を落とした。

「お見合い、するんですか?」
「ああ……えっと、母が勧めてきて…でも、断るつもりで……」

すると、彼はとても冷たい声で私の言い訳を遮ったのだ。

「いいんじゃないですか。」

え?

「頑張って下さいね。」

怒りをあらわにするわけでもなく、ただ淡々と告げられた。どうでもいいことみたいに。
そして私から遠く離れたソファーにヤマトは腰掛けた。
いつだって真っすぐに好意を寄せてくれていた彼からの初めての拒絶だった。
気づけば胸元をギュッと握りしめていた。心にぽっかり穴が空いたような、胸がどろどろとした黒い感情に一瞬で覆われ、息をするのが苦しい。
今すぐヤマトに駆け寄ってお見合いなんてしないって言わなきゃ。本当はヤマトのことが好きで好きでたまらない。好きだからこそ素直になれなかったのって言いたい。頭いっぱいに言い訳は浮かぶのに口も足も動かなかった。勇気が出ない。
だって決して私の方を見ようとはしないヤマトが怖くて。

素直にならなかったバチが当たったんだ。
最悪。


ーーー


シンプルなワンピース。
控えめなヒールの大人可愛いミュール。
いつもより気合の入った化粧。
綺麗にブローされた髪の毛。

待ち合わせ場所の時計台の下で一人佇み、思った。

一本やられた。
私、なんでこんなことになってるの?

お見合いはしないと母にハッキリ伝えたはずだった。とてもじゃないが他の男に目を向ける気分にはなれなかったから。

とってもいい縁談なのに、と残念がりながらも「名前にその気がないならしょうがないわね。」て、困ったように笑ってくれたのに。
母は理解してくれたとそこで安心しきった私が馬鹿だったのだ。

――

昨夜は遅くまで任務だった。
今日のオフは一日寝てやると意気込み泥のように眠っていたら、いきなり布団を剥がされた。

「名前、起きなさい!」

え?なになに?緊急の招集!?
何事かと飛び起きると、母と親戚のオバちゃんの襲撃である。
なんでも例のお見合いは今日の予定らしい。え?先方に断ってないの?私はハッキリと行かないって言ったよね!
そこから延々とお見合いをするよう説得され……最後は二人して泣き落とし。いい大人がそんな戦法ズルイよ。

「とにかく会うだけでも会ってみなさいよ」
「お見合い写真見たでしょ?男らしくて、かっこよかったでしょ?」
「こんないい縁談が舞い込んでくることはもうない」
「固い席じゃないから。男の人と二人でちょっと夜ご飯食べるだけよ。」

二人の総攻撃はすさまじかった。それでも私は突っぱねたのよ。
でも、母が発したある一言は私の傷口にクリティカルヒットしたのだ。

「実はイイ人がいるの?それならお母さんだって無理にとは言わないのよ。」

その瞬間、頭一杯ヤマト一色になった。

イイヒトガイルノ?
ええ、いました。つい最近まで。付き合うことなく終わった人が。

ヤマトとはあれからちゃんと話していない。
待機所でもお互い話しかけない。
3日前、ヤマトと同じ任務だった。業務的なことを話しただけで、彼の目に映る私は“ただの忍”だった。前はあんなに熱っぽい目で見てくれたのに。

「貴女のそういう一生懸命なとこが好きです。」後輩のくせにちょっと上から目線で言ってきた彼も
「いつになったら僕と付き合う気になるんですか?」飲みに行った帰りに私の耳元で囁いた彼も、もうどこにもいなかった。

ヤマトとの時間がこそばゆすぎて勇気がなくて逃げ回ってた結果がこれだ。
恋人未満の関係の想い人はついに恋人にならないまま去っていったということ。
早く素直になれればよかった。私って馬鹿。

「ねぇ、名前聞いてるの?」

心ここにあらずの私の思考は母によって引き寄せられた。
正直、今はヤマト以外の人なんて考えられない。未練たらたらなのだ。
でも、自分の手にはお見合いを断るれっきとした理由が何一つなかった。
母と叔母の攻撃に疲れ果てた私は小さく溜息を吐くとついに白旗を上げたのだ。

「会うだけだよ。会ったら断ってもいいんでしょ?」

そこからはあれよあれよと用意された服を着せられ美容室に連れられセットと化粧を施され今に至る。

時計台を見上げると時刻は待ち合わせの5分前。
凄く乗り気じゃない。ええ、とても。地面に視線を落とし、何度目かわからない溜息を吐いた。
相手の方には悪いが任務みたいなものだと思って乗り切るしかない。
すると、一人の男性が話しかけてきた。
来ちゃったよ…はあ…

「名前さん、ですか?」

顔を上げるとそこには爽やかなイケメン。
背も高くて、優しそう。はにかんだ笑顔も可愛い。
これは母も必死になって引き合わせようとするハズだ。
文句のつけようがないじゃない。100点だ。
でも………全然ときめけないのはどうして?
だって、私の心を揺さぶる人はもういるから。
馬鹿みたいに慎重で、私の駄目なとこも全部好きだって言ってくれた人。

「今日はよろしくお願いします。」

私は小さく頭を下げた。
そして、顔を上げた瞬間だった。気づいたのだ。
人混みの中からこちらに強い視線を送る人がいることに。
視線を感じた方に目をやると、そこには…今一番会いたくない人が……!
どうしてヤマトがいるのよ!

ヤマトと私の視線はバチリと交わった。
心臓が大きく跳ねた。目をそらせない。
彼は私を信じられないものでも見るかのように凝視している。しかも、なんだかとっても怖い顔なんですけど。
自分の喉がゴクリと動いた。え、どうしよう?状況に思考回路がついていかないよ。
すると、いかつい形相をしたヤマトは私をぎろぎろした目つきで見つめたままどんどん近づいてくるではないか。
そして、ついには私の目の前に来たのだ!
お見合い相手の男性は私とヤマトをキョロキョロと交互に見て不思議そうな顔をしている。
そこでやっと自分の頭が働きだし口が動いた。

「ええっと……この人は職場の後輩で……」

だが、それ以上は言葉が続かなかった。
なぜなら、ヤマトが信じられない行動に出たから。

「え?ええ…!?…きゃあ!!」

腕を掴まれ引き寄せられると、みるみるうちに自分の視界の高さが変わっていった。ヒョイと俵でも運ぶかのように私を担ぎ上げたのである。
私、今、ヤマトの右肩に乗ってる!?お尻が!ヤマトの顔のすぐ横!どうなってるのよ、勘弁して!パンツ見えちゃうかもしれないじゃない!?

「ちょっと!な、…なにしてるのよ!下ろして!!」
「駄目です。すみませんが、この人は返してもらいますね。」

ヤマトはそう言い放つとお見合い相手に背を向けどんどん歩みを進めていったのである。


ーーー


あれからずっと名前さんと話していなかった。
あの時、お見合いするって話を聞きあまりにムシャクシャして冷たい態度を取ってしまった。
あの人は「断るつもり」って言っていたのに。
それでも自分から名前さんに歩み寄らなかったのはコレがチャンスかもしれないと思ったからだった。その結果、惨敗なのだけれど。

初めはまったく相手にされてなくて、
でも、少しずつ距離が縮まって思い合っていると僕は感じていた。あとは天邪鬼な彼女が素直に頷くのを待つだけだと。
僕が頑張って頑張ってアプローチして必死にしがみついてきたから、ここまでの関係を築けた。だから、今度は名前さんから少しでも歩み寄って欲しかった。

欲しい言葉は沢山ある。

お見合いなんてしない
だってヤマトがいるもの
待たせてごめん

だけど、やっぱり「すき」の2文字が欲しい。
それだけで今まで散々焦らされたこともなにもかも許せてしまうって思ってた。
冷たい僕の態度に少しは焦ってくれたらいい、そんな悠長なことを考えて。
でも、自分は馬鹿だった。

何週間経ってもあの人は歩み寄るどころか僕の方を見ることすらしない。
そしてやっと気付いた。思い合ってなんていなかったということに。哀れだ…

極めつけが3日前のツーマルセル。
あの人の目に映る僕は“ただの後輩”
毅然として任務につく姿からは僕の囁く言葉に頬を染めていた彼女の面影は微塵もなかった。
結局ただの片思いで終わった恋だったということ。
ここがもう本当の諦めどころだろう。
そう悟ったはずだったのに……

どうして僕は今、想い人を担ぎ上げているんだ?
人のお見合いを潰すだなんて我ながらどうかしている。


ー時を遡ること10分前ー


たまたまだった。
待機終わりに忍具屋に寄って帰ろうと商店街を通った。
すると、名前さんが美容室から出てきたのだ。
普段はパンツスタイルばかりの彼女がワンピース?
美しく整えられた髪の毛
普段より濃い目の化粧

嫌な予感がした。もしかするとこれは…
気付けば気配を消し後をつける始末。

彼女は商店街を抜け時計台の前まで来ると足を止めた。誰かを待っている。
その間、彼女の待ち人が女友達だったらいいのにと心から祈った。
だが、願いとは裏腹に一人の男が現れ彼女に笑いかけたのだ。

これはやっぱりお見合い?
断るって言ってたのに、結局のところするんじゃないか
名前さんが僕ではない誰かを選ぶ、その事実に頭にカッと血が上った。誰にも渡したくない。その一心に取り憑かれて、体中にどろどろとした黒い感情が張り巡らされた。
そして気付けば、攫っていて今に至るのだ。

自分が今している行動は間違っている。それはわかる。だけど、やっぱり僕はこの人を諦められないんだ。


――――


「ヤマト、本当に下ろして。」
「せ、せめて俵担ぎはよしてってば!」
「あの…周りの人の目が痛いから…ホント、もうヤダ。お願い。」

私が手足をジタバタ動かしどんなに懇願しても、ヤマトは足を止めることなく終始無言。無視ですか?
いきなり現れた彼はすごく怖い顔をしていた。その上、攫われるし。怒ってるんだ。私がお見合いしようとしたことを、凄く。凄く…凄く、凄く嬉しい!
彼が怒りの分だけ私を想ってくれていると思えてならない!どうしよう、気持ちがふわふわするのを止められない。来てくれたのが嬉しい。
あの日、待機所で気不味くなってからずっと後悔していた。素直になれなかった今までを。

「ねぇ、ヤマト聞いてる…?」
「………聞いてますよ。」
「おろしてよ。」
「嫌です。お見合いを潰した事は申し訳ないと思っています。でも…今、気持ちがぐちゃぐちゃだから貴女に顔を見られたくない。」

この子は私の心をいとも簡単に揺すぶる。怒ってるヤマトには悪いが、私は今、相当口元が緩んでいる自覚がある。

「お見合いは、いいのよ。無理やり行かされただけだし。母があまりにも推すから断れなくて。」
「名前さんは断るの得意だと思ってましたけど。何度も僕を断ってるじゃないですか?」

チクリと嫌味を言われた。でも、そんな彼が愛しくして仕方ない私は重症なんだと思う。

「じゃあ、もう下ろしてくれなくていい。このままでいいから聞いて。あのね…私、ヤマトのことが……」

次の2文字で呪いを解くのだ。素直な私になる。
そして、私は目を閉じ深呼吸をしてから小さく呟いた。

「……すき。」


おしまい


ーーー
2017.08.10
ヤマトお誕生日おめでとう!
生誕ネタではないけど、愛を込めて書きました。

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