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足駄をはいて首ったけ


今日はテンゾウと二人でツーマンセル。移動途中の休憩時間だ。俺は腰を下ろすとすぐにイチャパラを開き、心のシャッターをおろした。
だけど、空気を読まずに意気揚々と話しかけてくる後輩。ああ、なんで今日はコイツと二人なのよ。
暗部時代からの付き合いだし、一緒に任務をするのはやりやすいが、ちょっと面倒くさい奴である。特に今日は朝から終止緩んだ顔をしていて気持ちが悪い…!ニヤけ顔のコイツとは必要以上に関わりたくない。

「先輩、空が青いですね。」
「いや、曇ってるデショ。」
「先輩、これ凄く美味しいですね!」
「兵糧丸そんなうまそうに食べる奴、オマエぐらいだヨ。」
「はは、そうですか。」
「テンゾウ、今日は一段と頭おかしいネ。」
「実は……朝からいい事があったので…なんだか目に見えるものすべてが輝いて見えるんです。」
「ふーん。」

適当にあしらうが一向にめげない。
どうせアレだ。コイツがこんな風に壊れるのはだいたい名前と何かあったときだ。
イチャパラから視線をあげなくても、どんな顔をしているのかはだいたいわかる。どうせ高揚感に包まれ頬染めてんデショ?
俺はオマエの幸せそうな微笑みなんて興味ないからね。

「何があったか聞きたいですか?」
「いや、全然。」
「そんなこと言わずに聞いてくださいよ!」
「喋りたいんだったら喋ったらイイでしょーが!」
「朝、名前さんとね……」
「はい、はい。」

ビンゴ。やっぱり名前絡みだネ。

「その……」
「なにか進展あったわけ?」
「目が合ったんです。」
「は?目?」
「はい、目が。バチッと!」
「…………それだけ?」
「あ、はい。でも、もしかしたら名前さんも僕のこと意識してくれてて目があったのかなぁて期待してしまうというか…嬉しいじゃないですか!」

あまりにもくだらなさ過ぎて、驚きのあまりイチャパラから顔を上げてしまった。
テンゾウは予想通り頬を染めて、「今日は朝からこんな幸せが待っていたなんて…参ったな…」と独り言を呟く始末。
目があっただけなんでしょ?たったそれだけでこんなに壊れちゃうの?馬鹿じゃないの?
なんだか急に憐れに思えてきた。

「オマエ、三回フラレてなかった?」

一気に肩を落とすテンゾウ。
水を刺したのは悪いけど俺は事実を言ったまでだからね。

「どうしてアイツに惚れてるわけ?」
「話していいですか。長くなりますよ!えっと、まずは出会いから……」
「はい。休憩終了、出発しよう。」
「ちょっと!僕の話聞いてくださいよ!」

目を輝かせて話しだしたが、立ち上がりイチャパラをしまった。
悪いが長話を聞くほど興味はない。

「テンゾウがそのうちストーカーにならないか心配になってきたヨ。」
「失礼な。僕はただ純粋に名前さんのことが好きなだけです……すごく……。」

またまた切ない顔しちゃって。
コイツの名前馬鹿はこの先も続きそうだーネ。

ーーー

のほほんと珈琲タイム。みんな出張らっていて、たまたま広い待機所を独り占め。誰もいないと気が楽だ!と、思っていたらヘッドギアをつけた男が現れた。途端に私は警戒態勢。

「おはようございます。名前さん。」

ヤマトは私の姿を発見すると、嬉しそうに目を細め無駄に眩しい笑顔を浮かべた。そして少し躊躇ってから、私の真正面に腰をおろした。

「向かい合って座るとなんだか照れますね。お見合いみたいだ。」
「じゃあ他の席にしたら?」

すると途端にしょんぼり眉下げちゃって…
でも、交際をお断りした異性に優しくする方が酷だしあえて突き放してる。

「今日も冷たいですね。」
「うん、だからもう諦めたらいいと思う。」
「そんな簡単に整理できる気持ちではないので……す、す、すっ、すきって気持ちは……。」
「声ひっくり返ってるよ。」

人に好意を抱かれるのは悪い気はしない。 
それにヤマトのこと嫌いなわけじゃないし。むしろ好印象。何度フッてもめげないこの子が最近は可愛くて、少しずつ惹かれているのも事実。
この前もふと目が合わさり、胸が少しばかり高鳴って戸惑った。
だけど付き合うのを躊躇っているのは……

「私、ヤマトが思ってるような完璧な女じゃない。」
「それは…どういう意味ですか?」
「ヤマトはいつも私を女神でも崇めるみたいに好きだ好きだと言うけど、普通の女だよ。その辺の道に転がってるよくいる女なの。」

そう交際を始めてから幻滅されていくのが怖くて付き合えない。
私は自分をそんなに価値のある人間だと思えないから。
ヤマトはというといまいちピンとこないって顔をしてた。

「例えばどんなところがですか?」

なるほど、そうくるのか。

「うーんと…いい歳だけど、ピーマンが食べられない。」
「知ってます。好き嫌いは誰しもありますよ。」
「嫌いな人だっているし…。」
「世の中のすべての人間を愛せるほうがおかしいです。」
「家では結構だらしないよ。休日は一日中パジャマだよ。」
「僕だってそんな日もたまにはあります。」

ダメだ。全然めげない。

「えっと…それに……。」
「まだあるんですね。」
「そう…その、本当は弱虫で…。」
「はい。」
「忍としての生き方に迷いながら上忍やってる。」

そう、上忍なんて肩書は重たくて倒れそう。
ベッドの中で布団に包まって涙を流す日もある。

「だから私そんなにヤマトが思うほど価値のある女じゃない。て、何でニヤけてるのよ?」

話せば話すほど、この子の頬は緩んでいって愛おしそうに見つめてくる。
こっちは諦めてもらおうと思って必死なのにそんな目で見ないでよ!

「いや、可愛いなぁと思って。」
「なによそれ。」
「僕は名前さんの迷いながらも一生懸命頑張ってるとこが好きなんです。」

え、あれ。ヤマトはつまり私の駄目なとこ含めて受け止めてるの?
なんていうか、それは…凄く…嬉しいかもしれない。
すると、彼はクスリと笑った。

「名前さん顔赤いですよ。」
「わわわわ!見ないでー!」

私は慌ててソファの上で三角座りし自分の火照った顔を膝に埋めて隠した。
今日は大失敗だ。
胸に広がる暖かさとドキドキをどう対処したらよいのかわからなくて居心地が悪いよ。

「これからも好きでいていいですか?」
「呆れた。勝手にしたら。」

私がこの子に落ちる日は近いのかもしれない。

おしまい

ーーー
相互記念。
ひさぎ様に捧げます。

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