僕の、俺の、憂鬱
昼下がりの待機所。こういった暇な時間は嫌なことばかりが頭に回る…
僕の心の中にはもやもやとしたものが鬱積しているんだ。思わず深い溜息が出た。
「「はぁ………。」」
すると同じく晴れない顔で息を吐く先輩と重なった。
「昨日、長期任務から帰還されたんでしたね。お疲れ様です。大変な任務だったんですか?」
「ん、全っ然余裕。予想以上に早く終ったしネ。」
「それにしては浮かない顔をされてますが。」
「いやぁ…ちょっと……うちの妹が最近おかしいのよ…。前まではさ、お兄ちゃんがいたら彼氏なんていらない。とか、お兄ちゃんが長期任務だと寂しい…どれくらいで帰って来れる?とか健気に聞いてきたのに、昨日は帰ったら…え?あれ?早くない!?…て、明らかにガッカリされちゃって…。」
「へぇ…妹さんもついに兄離れですか。」
「縁起でもない。やめてちょうだい。」
昔から先輩はことあるごとに妹の話を持ち出す。
先輩からの情報を頼りにどんな人物か説明すると…優しくて可愛くて、家事はできるし、気配り上手の愛嬌たっぷりな女性らしい。
そんな完璧な人間いるかな?絶対に兄の欲目が入りすぎていると思う。
あと、「あいつは俺のこと大好きだからねー。困っちゃうよー。」といつもデレデレした顔で惚気てくる。真相はさておきブラコンという情報も付け加えておこう。
「先輩と一緒できっとモテる妹さんなんでしょうね。」
「そう!だから心配で心配で…おかしな虫が付かないか俺は気が気じゃないのにアイツときたら俺の兄心わかってないからもうハラハラで…もし、変な男と付き合ってたら即別れさせるつもりだーヨ。」
想像上の妹彼氏のことを考えているのか先輩の周りはバチバチと放電仕出した。
僕に殺気を押し付けないでくださいよ!
これじゃ妹さんも大変そうだ…。
「は、ははは。こんなに大事にしてくれるお兄さんがいて妹さんは幸せ者ですね。」
「そ!今までアイツの幸せは俺が守ってきたし、これからも守るからネ!ところで、テンゾウは何の溜息だったの?」
「僕?僕は…彼女のことです。」
「あれ?テンゾウいつの間に彼女できた?」
「三ヶ月ぐらい前です。」
「へーまだまだ熱々な時期じゃない。何を悩むことがあるのよ。」
「まあラブラブなんですけど…実はここ2週間ぐらい半同棲生活しててすごく楽しかったんです。僕が任務から帰ったら温かいご飯が用意されていて、掃除や洗濯も嫌な顔せずにしてくれて。」
「惚気たいだけなら初めからそう言ってちょうだい。」
「違うんです!すごく楽しかったのに、昨晩帰ったら机の上に…
“ヤマトへ
お仕事お疲れ様です。急用ができました。家に帰ります。また来るね。”
とだけ書かれたメモが一枚置いてあって…。」
「別に急用ができることは誰しもあることでしょーよ。俺たちだって急に任務が入るし。」
「でも、次いつ会えるかわからないんです。」
「そんなに会いたきゃ、今夜家まで押しかければ?」
僕は大きく肩を落とした。
「実は…家を知らないんです。というか、教えてくれないんです。いつも彼女が不意に僕の家を訪れてくれるのを待つだけで。職場は知ってるんですけど、行ったら嫌がるし。」
「まあ、職場は嫌がられるかもね。うちの妹も押しかけたらちょっと迷惑そうな顔してくてくるよ。でも、家を教えてくれないってのは…うーん。」
「気がかりはそれだけじゃないいんです。外で会うのを極端に嫌がるんですよ。」
そう、彼女は謎が多いんだ。
知っているのは木の葉図書館で働く司書ってこと。あとは、本と甘いものと僕のことが大好きってことぐらいだ。
彼女は不意に家へ来て何泊もしていく日もあれば、やたらと時間を気にして足早に帰っていく日もある。理由を聞いたら「今日は犬の散歩当番の日だから」とか言ってはぐらかされるし……
すると、横に座る先輩は明らかに同情の眼差しを投げかけてきた。
「テンゾウのことを想って俺の意見を正直に言うけど…オマエ遊ばれてんじゃない?セカンド?間男ってやつ?」
「うわあぁぁぁぁぁ!言わないでください!はっきりと言葉にしないで下さいぃぃぃ!!」
思わず頭を抱えた。薄々自分でも考えていたけど…第三者から言われると衝撃がすごい…!
「で、でもね!すっごく僕のこと好きだって言ってくれるんですよ!ヤマトの腕枕大好き!ぎゅってして!とか、私以外の女に誘惑されちゃ駄目よ?とか、上目遣いで可愛くおねだりしてくるんですよ!…う、ううぅ…!」
「もー男がそんなことで泣かないの!よしよし…悪い女に引っかかったねぇ。」
つづく
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