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「#幼馴染」のBL小説を読む
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伝えたいこと

抜け忍組織解体の任務が終わった頃には春の気配が近づいていた。
まだまだ寒さは残るものの、真冬の肌を刺すような痛さはもうなく、日の出もだいぶと早くなってきた。

僕は明け方に里に着き、そのまま任務の完了報告をしに火影室に直行した。

「テンゾウ、お疲れさん。思ったより早かったじゃない。」
「事前調査班の持ち帰った情報のお陰で、スムーズに事が運びました。」

里に着いた時には空はまだ薄ら明るかったが、火影室の窓にはもう朝の柔らかい光が差し込んできている。

やっと里に帰ってこれた。
早く名前さんに会いたい。

すると、先輩はふと気づいたように聞いてきた。

「そういえばオマエ、門のとこで名前ちゃんに会えた?」
「いえ、こんな朝早くだし誰もいませんでしたけど。」

いくらなんでもまだ眠っている時間じゃないかな。

「じゃあ入れ違いだね。今日、村に帰る予定だからさ。今出発ぐらいじゃないかな。」

えっ?どういうこと?
名前さんがどう決断したのか知らないけど、村に帰るとしても僕の帰りは待っていてくれると思っていた。

「………帰っちゃうんですか?」

思わず出た声は少し震えていた。
動揺を隠せない。

僕に何も話さずに帰るの?
話したいことがあるって約束したじゃないか。

だけど、先輩はそんな僕とは反対にニコリと笑った。

「まだギリギリ間に合うんじゃない?自分で確かめておいでヨ。」

僕は勢い良く火影室を飛び出していた。

ーー

私は門の前に一人立っていた。
今から村に出発する。
護衛に付いてもらう忍の人を待っているのだ。

この前、帰省した時と同じ時刻だけれどだいぶ明るくなったな。
もう冬も終わる。

「名前さん、お待たせしました。」

二人の忍さんが護衛のためにやって来てくれた。

「おはようございます。」
「では行きましょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」

護衛の二人は門に向かって歩き出した。
私も続いて歩くが気持ちは重い。

直接会って伝えたかったな…
カカシさんはもう今日にでも帰ってくるって言っていた。
入れ違いだなんて、ついてない。
しょうがない、か。

門の外へと一歩を踏み出した。

その時だった。
後ろから腕を強く引かれたのだ。

えっなに?

振り返るとそこにはヤマトさんがいた。
ハァハァと息を切らす彼。
まだ、呼吸も整わずに彼は言った。

「黙って帰るだなんて酷いです!」

「えっ?」

怒りで満ちた声に私の身体はビクリと震えた。
久しぶりに会えた彼は凄く怒っていた。
そして、私の発言を許さずにそのまま続けた。

「約束したじゃないですか!帰ったら話してくれるって!僕も伝えたいことがあるって!」

「えっ、ちょっと落ち着いて下さい。」

なんとか言葉を挟むと、私の腕を掴む力がさらに強くなる。
痛い。

「落ち着けないよ!」

怒りと熱が入り混じった目は私を捕らえて離さない。
真っ直ぐに射抜かれて見動きなんてできないよ。
そして、苦しさを吐き出すように彼は言った。

「だって、好きなんだ。僕はあなたが好きだ。名前さんが好きなんだ。」

ヤマトさんの強い眼差しが
痛いほど握り締める手の力が
追い詰められたように吐き出す声が
すべてが私への思いをあらわしていて…

あぁ、
胸が締め付けられる。
もう、なんで貴方はこんなに愛しいんだろう。

…でも、なんか話がおかしい。


名前さんは真っ赤な顔をして口を開いた。

「あの…私、戻ってきますよ?」
「………はい?」

戻る?どういうこと?

「だから私、3ヶ月で戻ってきます。この里でこれから生きていくって決めたんです。でも、この前村に帰った時に私のいない間にあっちはあっちで新薬の研究が進んでいたので、今後は薬剤部から定期的に村へ研修に出ることになったんです。で、初回は私が行くとこになって。ヤマトさんとは入れ違いになっちゃうなと思ったので、ご自宅に手紙を入れておいたのですが、まだ読まれてないのですね?」

首をかしげる名前さん。

「今、帰ってきたところなので……そ、そうなんですか……」

「「………………。」」

先輩めー!
僕が誤解しているの、わかってたよね!

冷静さを取り戻してきたら、急に周りが見えてきた。
護衛の忍であろう二人はヒソヒソと、
びっくりだね、ヤマト上忍て意外と熱い人なんだ
とか話してるし…
門番のイズモくんとコテツくんの目線が痛いし…
穴があったら入りたい!!!!

「す、すみません!」

掴んでいた腕をぱっと離した。
顔を赤くした僕らの間に沈黙が流れる。
すると、耳まで赤く染めた彼女は俯きながら小さな声を出した。

「…私も、です。」
「えっ?」

聞き返すと顔を上げた名前さんに僕の目をまっすぐに見つめられた。

「私も好きです。」

そして、彼女は柔らかく笑った。

「頑張って知識を深めて来ますから、ヤマトさん待っててくださいね。」
「……はい。」

咄嗟に返事を返したものの、なんだか信じられない。
さっきまでの怒りは跡形もなく消え去り、幸せな痺れが全身に駆け巡り頭が上手く働かないよ。

「それじゃ行ってきます。」

そんな僕を見て、君はくすりと笑い行ってしまった。

夢みたいだ。
彼女の背中が小さく見えなくなっても、まだ信じられなくて、ぼーと突っ立っていた。

パチパチパチパチ

「「ヤマトさん、おめでとうございます。」」

イズモくんとコテツくんの拍手と声でハッと我に返った。

「あ、ありがとう。」

あぁ、やっぱり穴があったら入りたい。

―――

家に帰り、ドキドキしながら郵便受けを覗くと本当に手紙が入っていた。
緊張で震える指先で封を切った。
白地に桜の花が描かれた便箋はとても彼女らしい。

ヤマトさんへ
 この手紙を読まれているということは、無事に帰られたのですね。任務お疲れ様です。ご無事に帰られて何よりです。本当は直接会って話したかったのですが、このようなカタチでお許し下さい。
 まず私は貴方に謝らないといけませんね。春には村に帰るか里に残るか迷っていること、ずっと黙っていてごめんなさい。打ち明けて欲しいと思っているのは気づいていました。けれど、貴方にはとてもじゃないけれど話せなかった。
 私、初めは木の葉に行きたくないと駄々を捏ねていたのですよ。でも、年月の力は凄い。5年の間にここで働くことは私の生きがいにいつのまにかなっていました。けれど、私の帰りを心待ちにしている両親のことを思うと帰るべきだと思うし…でも、木の葉を離れたくない、と悩んでいました。
 そんな時にヤマトさんが現れました。以前のような薬局のカウンター越しの関係を飛び越えて話す貴方は魅力的であっという間に私を夢中にさせました。どんどん惹きつけられていくのが怖くなるほど。私の中で貴方の存在は日に日に大きくなっていって、帰るか残るか、この選択を委ねてしまいたくなる自分がいることに気づいたのです。自分で考えて決めるべきことなのに、話してしまったら引き止めて欲しいってきっと思ってしまう。ヤマトさんはきっと引き止めたりしないでしょう?でも、私の心の中は貴方でいっぱいで、縋ってしまいそうな自分が嫌で嫌で嫌で。
 たまらなく好きだから、ヤマトさんにだけは話せない、ずっとそう思っていました。
 けれど、決断できたのは結局のところヤマトさんの言葉のお陰でした。
 “心が繋がっている”
 私と両親のこと、そう言ってくれたから。あの言葉が勇気をくれたんです。だから決断できた。そして、両親も私の選択をわかってくれました。 
 ヤマトさんは不思議な人です。いきなり現れるやいなや、私の心の真ん中に来て、心を暖かくしてくれたり、力をくれたりします。私はもう貴方がいなかった日々になんて戻れない。貴方のことが好きです。
 ヤマトさんにとって、私はどんな人ですか?私は貴方の大切な人になりたい、必要とされたい、そう思ってしまいます。
 仕事で3ヶ月ほど、里を離れます。5月の末には帰ります。帰って来たら、返事を聞かせて下さい。
名前


信じられないけれど、好きな人からラブレターをもらってしまった。

僕の好きな人は僕のことを本当に好きならしい。
さっきの門での出来事はどうやら夢じゃなかったのだ。

幸せで胸が苦しい。
目頭が熱くなる。
ずっと恋焦がれてたまらない人は僕の人になったんだ。
やっと、手に入れた。

それなのに、3ヶ月も会えないなんてあんまりじゃないか。
そうだ。僕も手紙を書こう。
さっきの怒りと勢いに任せた告白じゃなくて、どれだけ君の事が好きで君なしじゃ生きていけそうにないか、僕だってちゃんと伝えたい。

そこから、便箋とペンを引っ張りだし、うんうんと悩みながら手紙を綴った。

手紙の最後に悩みに悩んだ末、この一文をつけた。

“名前って呼んでもいいかい?“

いいよね?
だって、今日から恋人同士だろ。

こうして、僕の片思いはやっと終了した。
名前さんは僕の恋人になったのだ。

きっと君のことだから、これからも僕をあたふたさせるだろうけど、まぁいいさ。
それもそれで楽しみだと思えてしまう僕は相当彼女に溺れているらしい。

早く帰ってきて、振り回してよ。


おしまい