僕を頼って
カタンと、物音で目が覚めた。
あれ?ここどこだろ?
私の目には知らない天井がうつっている。
ヤマトさんの背中でウトウトして眠くなっちゃって、そこから記憶ないや。
「お目覚めになられましたか?」
身体を起こすと襖に手をかけた中居さんに声をかけられた。
さっきの音は襖をあける音だったのか。
どのくらいの時間寝ていたのだろう。
頭がだいぶスッキリした。
あたりをキョロキョロ見渡すと、旅館?なんかいい感じの。
中居さんまでいるし。
なんで?
てっきりこじんまりした素泊まり宿に泊まると思っていたのだけど。
「起きられた時に何かお飲物があった方が良いかと思いまして、お茶をお持ちしました。」
「どうもありがとうございます。」
ヤマトさんはどこだろう。
この部屋にはいない。
今のうちに気になることを確認だ。
「あの…ちょっとお尋ねしたいのですが、お部屋代っておいくらぐらいでしょうか。」
私、こんな宿に泊まるほどの手持ちないかも。
「お代はお連れ様からもう頂いておりますよ。」
なんだとー!やられた!
そうだよね。
ヤマトさんならきっとそうしちゃうよね!
「お優しいお連れ様ですね。お布団に降ろされる時もそれはそれは大事そうにされていましたよ。」
どうしたものかと固まっている私に中居さんは朗らかに言った。
彼女と物凄く温度差を感じる。
私とヤマトさんをカップルだとでも思っているのかな。
いやいや、違うのだ。
あぁ、もう…うっかり背中で寝ちゃうなんて迂闊だった。
「その男性はどこに行ったか知っていますか?」
「お隣のお部屋にいらっしゃると思います。」
隣の部屋に行くと、忍具の手入れをしているヤマトさんがいた。
とりあえず、背負ってもらってありがとうございます。と、お礼を告げてから疑問を投げかけた。
「ヤマトさん、この素敵なお宿はどういうことなのでしょうか?」
「名前さんと泊まったら楽しいかなと思ったので。」
「お代は里に帰ってからにはなりますが私に出させて下さい。」
「お昼ご飯は御馳走になったので、それでチャラですよ。」
サラリと答えられた。
あぁ、これを言いたくてお昼は珍しく私に出させてくれたのか。
私がヤマトさんの好意を素直に受け取らないのは予想済みだったのね。
何度か飲みに行ったり、甘味屋に行ったが毎回上手いことお会計の主導権を握られてしまう。
今回は私の護衛をしてもらっているのだし、なんとかご飯を御馳走しなければと思い上手くいったと思っていたのだが…やられた。
あそこからもう嵌められていたとは。
「いやいや、依頼人の私がどっちも出すものですから!」
「ナルトとサクラとサイに奢った時はみんな素直に喜んでいたよ?」
それ、サクラちゃんに聞いたことある。
「じゃあ、私のご飯にも何か入れるんですか?」
「入れませんよ!そんな話はいいから、ご飯の前に温泉入りましょう。じゃ、6時から僕の部屋で食事ですので。」
あっ、逃げられた。
―――
あぁ、気持ちいい。
冬の露天風呂は最高だな。
外気の寒さとお湯の暖かさが最高に合う。
お湯の中でつま先までめいいっぱい伸びをすると、ここ最近の疲れが全部お湯に滲み出ていく気がする。
起きたら素敵な旅館だしビックリしたけど、なんだかんだでヤマトさんに感謝だ。
すっごく気持ちいい。
それにしても今日のヤマトさんはいつもと一味違う。
すっかり彼のペースに乗せられている。
ヤマトさんって本当に本物の女たらし?
朝は冗談で言ったのだけど。
女性の扱いがスマートなのはいつもだけれど、普段はここまで積極的なことしないじゃない?
どうしちゃったの?
でも、彼は散策した時のように私に問いただそうとはしない。
私が打ち明けていないことは彼の中でもう関係ないのだろうか。
ヤマトさんの恋人になりたいのか、と問われたらもちろんYESだ。
でも、今じゃない。
モヤモヤ悩んでいて、ハッキリ決断をできてなくて。
こんな自分で彼に飛び込みたくない。
今、彼と付き合ったら、ヤマトさんに引き止めてって思っちゃう。
甘えちゃう。
彼の側を離れたくない、ただそれだけでいっぱいになる。
やっぱりそんな自分が嫌。
こんな大きな宿題残したまま前に進めない。
決断できたら私から言おう。ちゃんと。
明日の夕刻には村に着く。
両親になんて切り出したらいいのだろうか。
今日はヤマトさんに振り回されてすっかり考えることを忘れていたけど。
父と母には今回帰ることを伝えていない。
言ったらきっと喜び過ぎるだろうし
それに…二人には辛い話をしようと思っての帰省だから。
木の葉で働きたいって気持ちを大切にしたい
でも、両親を安心させたい
どっちつかずの私は本当に明日言えるのだろうか。
言えずに春には帰ることになるのだろうか。
せっかく村に帰れるのに、両親に会えるのに…気が重くてたまらない。
―――
打ち明けてくれたら僕は次のステップに進む。
ずっとそう決めていた。
彼女には何かきっと考えがあるんだ。
僕らは彼女のペースに合わせてゆっくり進んで行ったらいいって思っていた。
でも、君は僕に話す気はないらしい。
名前さんの中で僕はたいしたことない存在なのかな。
思いは通じ合っていると思っていたのは僕だけ?
勘違い?
森を散策してから、もうすっかり落ち込んでいた。
でも、数週間ぶりに会った彼女は僕の言動一つ一つに顔を赤らめ、照れたように笑っていて
その反応が見たくて行きしはいらないちょっかいをやいてしまった。
君があたふたと僕のことで頭がいっぱいになっている様子を見て、自信を失くした心はどんどん小さくなり自惚れた気持ちがどんどん大きくなる。
なんだ、君も僕のこと好きなんだろう?
じゃあ話してくれてもいいじゃないか。
なんで僕には駄目なのかい?
好きで好きでもう辛いんだよ。
思いを告げたい。
もう君を待ってはいられないよ。
食事のため浴衣姿の名前さんが僕の部屋に現れた。
「あまりにも気持ちいいお湯だったので、長湯しちゃいました。今日はヤマトさんの行動にはちょっと驚いたけど、眠ってお湯にも浸かって疲れが取れたので、やっぱり助かりました。ありがとうございます。」
「いえ、どういたしまして。」
こう素直にお礼を言われると後ろめたい。
純粋に心配してしたのはもちろんだが手を繋いだのだって背負ったのだって、君の反応を見たいって思いもあったし。
「温泉旅館なんてなかなか泊まる機会ないので、楽しんじゃうことに決めました。どんなお料理でしょうね。」
そこからは出される料理一品一品に
おぉ!とか、どうやって作ってるんだろ、とか、二人で和気あいあいと食べた。
でも、君はふと、ときおり心どこかに奪われたような顔をしていて。
何を考えてる?わからない。
話してくれたらいいのに。
でも、僕には肝心なことは言ってくれないのだろう?
打ち明けてはくれないだろうと諦めているけれど、本心ではもちろん違うくて。
本当は君の悩みや考えを分かち合いたいんだ。
君が一番に僕を頼ってくれたらいいのに、って思っている。
そんな不安げな顔見てられないよ。
僕に話して欲しい。
デザートも食べ終わり、中居さんが片付けを終えると名前さんは部屋から出ていこうとした。
「御馳走様でした。とっても美味しかったです。じゃあ、明日もよろしくお願いします。」
思わず、僕は彼女を引き止めていた。
「食後のお茶を一緒に飲みましょうよ。」
ーー
とても美味しい料理だった。
自分じゃ作れないし豪華なものばかりでヤマトさんには本当に感謝だ。
一緒に一つ一つ吟味してくれて、彼と食べる食事はいつも楽しい。
でも、不意に両親の顔が頭に浮かんでしまう。
私が里に残りたいって伝えた時の二人の反応や、なんて切り出そう、とか…
思考がもっていかれちゃって。
誰かと食事している時に物思いにふけっては失礼だとは思うものの、ついつい考えてしまった。
今は目の前のヤマトさんとの会話に集中しようと思うが上手くいかない。
デザートも美味しく頂き、中居さんが御膳を下げたこのタイミングで部屋にサッと帰ろう。
早く部屋に戻って一人で考えた方がいい。
だけど、お礼を告げて立ち上がるとヤマトさんに引き止められた。
「食後のお茶を一緒に飲みましょうよ。」
うん。いつもの私ならこの誘いに応じるのだけどな。
今日はもう一人にして欲しい。
「一杯だけ、ね?」
私が返答に困っていると、さらに勧められた。
御馳走になってなんとなく申し訳ない気持ちもやっぱりあるし、ここは付き合うべきかな。
「…じゃあ一杯だけ。」
僕が誘ったし僕がいれます、というヤマトさんを旅館によくある窓際の席に座って待った。
窓から見える庭木はよく手入れされていて、夜は控えめにライトアップされていた。
こじんまりしているけれど、綺麗な庭だな。
上品に白い梅の花が咲いている。
暗がりの中で白い梅の隣にあるナンテンの赤い実が目についた。
冬になると、母がこの赤色が可愛いよね、と言いながら採るのを思い出す。
お母さん、やっぱり悲しむかな。
「何か思いつめた顔してますけど、どうしたんですか?」
コトリとお茶をサイドテーブルに置くヤマトさんに問われた。
心ここにあらずは彼に気づかれていたのだ。
あぁ、だからやっぱり早く部屋に帰ったほうがよかったのよ。
「ナンテンの実があそこにあるでしょ。母があの赤色が好きなのを思い出していただけですよ。」
「可愛らしい実ですよね。」
「ね。」
彼の淹れてくれたお茶をズズっと啜った。
「名前さんのご両親はどんな人ですか?」
こういう話題は初めてだ。
実はサクラちゃんから聞いたことがあった。
ヤマトさんには両親がいないってこと。
だから、あんまり両親の話は積極的にはしなかった。
「母はとても優しいです。でも怒ったら怖くて、ちょっと涙もろいかな。でも私を送り出す時は泣くのを我慢しててね、目に涙をいっぱい貯めて。」
黙って聞いてくれる彼に、私はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「手紙を凄くマメにくれるんですよ。私が返信していなくっても。今日は村でこんな薬草が採れたよ、村ではこんな花がさいたよ、とか。そんな他愛もない手紙。でね、その風景の先にいつも私がいることを想像してるんです。名前がいたらきっとこの木に登ろうとするかな、とか、そんなの。」
母は離れていたっていつも私のことを考えていてくれる。
「愛されてますね。」
「そう、凄く幸せなことですよね。」
どうして私はこんな話をしているのだろう。
今までこんなの人に言ったことなんてないのに。
「お父さんはどんな人ですか?」
「父はね、典型的な頑固親父なの。でもお酒が入ると饒舌で。あと心配症かな。」
「じゃあ、名前さんが村を離れて暮らしているのはさぞかし心配でしょうね。」
「そうだと思います。里が一人の忍にめちゃくちゃにされた時があったじゃないですか。あの後、両親に無事を伝える手紙を書いたんですよ。父からはね、滅多に手紙なんてこないんですけどね……その時ばかりは字が涙でいっぱい滲んだ手紙が来て、胸が苦しくなりました。」
手紙には“自分のやるべきことをやりなさい”と綴られていた。
私を送り出すときにかけてくれた言葉といっしょのものだ。
泣きながら父はどんな辛い思いで書いたのだろう。
本当は誰かにずっと聞いて欲しかったのかもしれない。
優しい彼の空気が私の抱えていた思いを溶かしていく。
春には帰るか帰らないか、とか、そんなことをとばして、私の心の奥の大事な思いを彼に見せてしまうなんて変なの。
「名前さんは、ご両親と心が繋がっているから強いんですね。」
「強い、ですか?」
私が?軟弱者だよ?
「そう、だって知らない人ばかりの木の葉でいきなり指導しろだなんて、きっと初めは不安だったんじゃないですか?」
私はコクンと頷いた。
そのとおりだ。
いきなり知らない土地で指導だなんて…
しかも忍者に一般人が教えるのだ。
初めはとても反発されて毎日家で泣いた。
でも、心に両親がいてくれたからなんとか踏ん張ってこれたのだ。
辛いときは来た手紙を何度も読み返して、離れていても愛してくれている両親を思って涙した。
今では木の葉の里は私にとってかけがえのない第二の故郷。
共に働く薬剤部の仲間や、友達、そして、ヤマトさんがいて…
たくさんの大切な人ができた。
あの始めの辛さをここ最近はすっかり忘れていたけれど彼の言う通りだ。
両親のおかげでここまで来れたんだった。
「自分を認めてくれて受け入れてくれ、大事に思ってくれる。そういう人がいるから強く生きていけるって思うんだ。僕の場合はカカシ先輩や七班のみんなが教えてくれたかな。」
ゆったりと椅子に背を預け、外を眺めながら話すヤマトさんはとても優しい表情をしていた。
顔を見るだけで彼にとって、どれだけ大切な人なのかが伺える。
……いいな、カカシさんやサクラちゃん達
思わず、こんな表情をさせるみんなが羨ましくなった。
私の中でヤマトさんはすっかりもう心の中心にどかりと座っている。
彼を思うと幸せで胸が熱くなる。
力が湧いてくる。
貴方にとって私はどんな存在?
「ヤマトさんの大切な仲間なんですね。」
そうだね、と柔らかく彼は言って続けた。
「任務で里を離れていても心に仲間がいると力が湧いてくる。そんな時、心が繋がっていたら距離なんて関係ないなって思うんだ。」
そうか、そうだな。
うん、だから今まで私は頑張って来れたのだ。
ヤマトさんと話していると落ち着く。
不安だった気持ちも暖かな日差しがさしたようにぽかぽかしてくる。
不思議だな、今なら空だって飛べちゃいそうなそんな気持ち。
私は明日きっと両親にちゃんと言える。
二人と心が繋がっているから今まで頑張れたし、これからも頑張りたいんだって。
二人のお陰なんだよって。
それに、ヤマトさんの大切な人になりたい。
そして、私の大切な人になって欲しい。
彼と心を通じあわせたい。
ずっと両親のことが気がかりで迷っていた。
でも、今はハッキリと思う。
きっと両親もわかってくれる。
ヤマトさんに打ち明けたら、彼にすがってしまうと思ってた。
それも、もう違う。
私は木の葉の里で生きたい。
私がそうしたくて、そうするのだ!
もう、迷わない。
僕は言ってしまおう、と思った。
まだ4日ある。
焦ることないのかもしれないけれど…今、伝えたいんだ。
僕を頼ってくれない君だった。
春に帰るのかどうかも相談どころか話題にも出しやしない。
もう、いい。
君のペースなんてお構いなしだ。
これ以上は待ちたくない。
君を手に入れたい!
そう思って僕はこの護衛任務に来た。
でも、不安に揺れる目をした彼女は何を悩んでいるとは言わないけれど、ポツリポツリと大切な気持ちのカケラを僕に見せるよう言葉を紡いでくれた。
気付けば僕も人に言ったことなんてない、やっと手に入れた大切な居場所について話していて。
僕の言葉を大事に受け止めてくれたのが凄く凄く嬉しくて
あぁ、そうか。
僕は名前さんとこんな風に分かり合いたかったんだ。
今、伝えたい。
「だからさ、その……」
緊張して思わず頭をかいていた。
窓の外を見ていた名前さんはこちらに顔を向けた。
しばし見つめあった。
自分の心拍数が上がっていくのがわかる。
君の瞳に吸い込まれていきそうだ。
「だから、距離なんて関係ないんだ。」
君が村に帰ったとしても、関係ない。
「はい。」
僕をまっすぐ見つめる彼女は小さく答えた。
上手く言葉がでないよ。口がカラカラだ。
「僕は………」
僕は君の事が好きだ
言うんだ!
その時だった。コンコンコンと、ドアを叩く音が聞こえた。
途端にバッと二人して勢い良くドアを振り返った。
誰だよ!こんないいタイミングで!
コンコンコン
またもや叩かれる。
あー!もう!
なんで今なんだよ!
「…誰でしょうね。」
「僕がでるよ。」
腰をあげた名前さんを制して僕はドアに向かった。
本当に勘弁して欲しい。
扉を開けるとそこには、木の葉の額当てをした二人の忍がいた。
―――
どんな人が来たのかなって、そーとドアの方を伺うと、一人は知ってる医療忍者の女の子だった。
「名前さん!」
向こうも私に気づいたらしく声をかけてくれた。
昨日の晩、彼女は部所が違うにもかかわらず解毒剤を作るために必要な薬草の採集に快く参加してくれた。
とってもいい娘だ!
「こんばんは。私は席を外した方がいいかな?」
「いえ、名前さんもいてもらって支障がないと思います。」
ね?と、彼女はもう一人の男性の忍さんに同意を求めた。
彼女の話を聞くと、なんでも、私が昨日から今日の朝方にかけて懸命に解毒剤を作り、なんとか一命を取り留めた4人の意識が戻ったのだという。
今日の晩には目を覚ますと思っていたが、よかった!
そして、その4人は抜け忍組織解体のための有力な情報を持ち帰っており、討つなら今だと火影様は判断されたとか。
ふむふむ。
隣のヤマトさんは物凄く驚いた顔をしている。
「……出発は数週間先だって聞いていたんだけどな。」
「はい。その予定が繰り上げられて、明日の夜には出発したいとのことです。すぐに打ち合わせをしたいから里に帰って来て欲しいとお伝えするよう言われてきました。ですので、私達が護衛任務を交代します。」
「………………………。」
ヤマトさん、ポカンと口が開いてますよ!
固まっちゃってる。
うん、あの空気壊されちゃったんだもんね。
私としても残念。
せっかく決意したのに。
それにしても、こんな夜中に山を越えて帰らないといけないなんて大変だし心配だ。
やっぱり彼は私の護衛なんかをしてる場合じゃない人だ。
「ヤマト上忍、どうされましたか?」
もう一人の男の忍さんが不思議そうな顔をして聞いた。
「あ、あぁ…ごめん。先の任務だとばかり思っていたから驚いてね。今からすぐにここを出て火影様と話してくるよ。」
そしてヤマトさんは着替えるために部屋の奥へと消えた。
彼の姿が見えなくなるやいなや、医療忍者の子がすかさずテンション高く小声で聞いてきた。
「名前さんってやっぱりヤマト上忍と付き合ってるんですね!」
「…………いや、付き合ってないよ。」
たぶん今、付き合えるとこだったけど。
はぁ。ついてない。
「でも、こんな素敵なお宿に同じ部屋なんですよね?」
「いや私の部屋は隣だから。」
「でも、怪しいっ!」
キャッキャと騒ぐ彼女。
私だってこんな展開悔しいのよ!もう!
すると、忍服に着替え終えたヤマトさんが戻ってきた。
「では、僕は里に戻りますので護衛をお願いします。」
丁寧に二人にお願いしてくれた。
「名前さん、気を付けて下さいね。」
「はい。」
もう行っちゃうの?
しょうがないけど。
そして、じゃあ、と片手を上げて扉を開け出ていってしまった。
……なんだったのだ。
ついさっきまで彼の熱い瞳に囚われてやっと先に進めるって思ったのに…
やっと決断できたのに…
こんなのってあんまりだ!
思わず私は部屋を飛び出して遠ざかっていく彼の背中に叫んでいた。
「待って!ヤマトさん!」
驚いた様子で彼は振り返った。
「あの…私、ヤマトさんが帰って来たら話したいことがあって…だから、その…無事に帰って来て下さいね。」
行ってしまう彼にどうしても何か伝えたくって必死だった。
私の頭の中は、好きだっとか、心配とか、恥ずかしいとか、いろんな感情がごちゃごちゃした玩具箱みたいに散らかっていて
全然まとまりがなかったけど、とにかく伝えていた。
すると、彼は真っ直ぐに私を見つめて口を開いた。
「僕も伝えたいことがあります。」
追いかけて、よかった。
「お気をつけて。」
「名前さんも。」
早く帰ってきて。こんなのもどかしいよ。