柳さんが訪れてはやくも三日が経った頃だろうか、普段のように店番をしながら文学を読み耽っていると随分と珍しくないお客さんが店の戸をくぐり目の前に現れました。
その人はまるで海外の方のようにきれいな金髪で、また蔵ノ介さんと違ったようなさわやかな笑みで私に「久しぶりやな!名前ちゃん」と頭を撫でながら言うものですから私は「うっとうしいですよ、謙也さん」と一つなだめれば彼は肩を落とし、「ご・・ごめん」というものですから私はつい意地悪をしてしまったような気分になって「こちらこそ、ごめんなさい。よければこのういろうで機嫌をなおして?」とうす桃色の外郎をさしだすと彼は随分と嬉しそうに「ありがとう!」といい差し出した楊枝で一口分切り分けるとぽい、と口の中へそれを入れて咀嚼した。

「今日は随分と急にどうかしたんですか?」
「おお、謙也やないか」
「おお!白石!今日はもう起きとったんか!」
「人をまるでぐうだらのように言うのやめてくれるか」

そのままだろう、と言おうとしたことは黙っておこう。私はまたどうかしたのですか?と謙也さんの顔を見て聞けば、彼はせやせやと関西の方のお決まりな口上を述べてことの主題を話始めた。

「隣町の立海横丁にある大きい洋館があるやろ?あこの旦那が殺されたんや!」
「おや、こんなご時世に殺人事件ですか。」

彼は一応は記者なのだが、こうやって珍しく奇怪な事件があるとすぐさま全貌を調べだしてこの古書店へ現れてその成果をまず蔵ノ介さんに説明するのが普段の流れなのだ。

「せやで。しかも主人が殺されたんは密室でや。」
「それは、まあ…自殺やないんですか?」
「それがちゃうらしいねん、なんや死体は泡吹いて死んでたらしいねんけどその死体の周りにどうも八重咲きの朝顔がちりばめられとったらしいねん。」
「八重咲きの朝顔なんてめずらしいですね」
「せやろ?だいたい、ひとりで死ぬんやったら花が散ってるっちゅうのもおかしい話やろ?」

それはそうだ、とうなずけば彼は私の隣に座り、顎に手をそえる蔵ノ介さんを見た。
彼はうーん、と一つうなり事件の香りやな…。と意味不明なことを述べ始めたので「冗談はやめてくださいね」と一言添えれば随分と楽しそうな表情で彼の持論を話始めた。

「名前ちゃん!事件っちゅうのはこんな陰気くさい古書店で起きてるんとちがうんやで 。現場や現場。そうや、現場があるからこそ事件がおこるねん。そこにある陰謀やらさまざまなことを解き明かして究明して明らかになる真実が、ああー、えくすたしぃー!」
「西洋かぶれが、」
「…、」

白けた目で蔵ノ介さんの行為を一瞥し、私は謙也さんに「そのお亡くなりになった方のお名前はわかりますか?」と問えは彼は予想外の名前を口にした。


「柳蓮一郎さんや」

ああ、随分最近同じ名前の方を見た気がする。と一人ため息をついてとなりの蔵ノ介さんを覗き見れば彼は随分と愉快なのかしてにんまりとわらって、「これは事件やな。」とつぶやいた。

こうして、ある新聞記者の情報から私たちは随分とひどい物語へと足を踏み入れることになってしまったのだ。


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