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※首絞め
※夢主が不倫
※どっちもおかしい








出会うのが遅かっただけ、とか。寂しかった、とか。不倫の言い訳に常套句だとされるものはどれもピンとこない。たしかに、客観的にみてわたしの立場といえば、夫が度重なる密偵任務で家を留守にすることが多いために「寂しさのあまり不倫に手を染めた人妻」でしかないとは思う。
その実、夫以外の男に抱かれていた理由なんて先述のどれでもない。強いてあげるなら欲求を持て余していたから、としか言いようがなく、だったら自分ですればいいのだけどどうしても人肌が欲しかった。己の右手では我慢できずにすぐ会える相手を捜してしまったわたしは、多分結婚なんてするべきではなかったのだと思う。
 


『今日全部終わった。やっと帰れるよ』
 
という夫からの連絡ひとつで予定をキャンセルしても怒るような不倫相手でなくてよかった。きっと代わりの女などわたし以外にもいるのだろうと思うと気が楽だ。
先に今夜約束していた男にキャンセルの連絡を済ませてから、夫へも当たり障りなく「長丁場お疲れ様」と入力した。優先すべき相手だけは見誤ってはならない。
そうして返事をした後、定刻には退は我が家へ帰宅した。この定刻というのは、密偵任務などのない日に限った話だけれど。

 
「ただいま」
「おかえりなさい。……少し痩せた?」
「測ってないからわかんねェけど、たぶん」
 
どうやら験担ぎだかなんだかしらないが、こういった任務の時は今でもあんぱんを食べ続けることにしているらしい。少し髭が伸びて痩けた頬がその生活の過酷さを物語っている。玄関で彼の羽織を受け取るなりすぐにもたれ掛かるようにわたしを抱きすくめてくる。少しの埃臭さが、あまりいい環境下でない生活の証拠となって鼻先へ届いた。
 
「ホンモノだ……」
「当たり前じゃない。何言って、っん」
 
言いかけたその唇は退のそれが重なってきたことによって、その先を口にすることはかなわなかった。
 
「んん……んっ、っ」
「……今すぐ抱きてェ、いい?」
「いやって言ったら?」
「なに、生理?」
「違うけど」
「なら無理にでも抱く」
 
わかっていたけど無意味な抵抗をやめ、玄関先だというのに両腕を彼の背へまわした。久しく触れていない彼の身体がわたしへの欲求を包み隠さずぶつけてくることに、わたしも高揚していた。いやなんて言うわけがない。
 
「ぁ、っあ、……は、んぅ」
「っはは、感じやすくなってねェ? 久しぶりだから?」
「っ、ん、そんな、こと、っ」
「……ああそっか、久しぶりじゃないもんね」
 
小さく独りごちる退の不吉な台詞に一瞬時が止まったかのような錯覚を覚える。少なくとも退とはこうして触れ合うことは久しぶりのはずである。わたしだけが久し振りでないことを退がしっているとなると、それは──
 
「どういう、……っ」
「え? 俺のいない間も楽しそうだったじゃん」
 
着物の袷を割り入る手が好きなように身体を弄んでいるのにも関わらず、大した反応も返せなかった。いない間のことがしられているということへの驚きに打たれていた。
いや、勘のいい男だとは思っていたけれど、そこまで言いきれるということは裏付けがあってのことか、カマをかけているのだろうと彼の性格から読み取れた。確かに、どれだけ上手くやっていようと退にならしられる可能性はあった。ただ、そこから先が想像つかなくて戦慄した。別れて欲しいとか、言われるだろうか。
 
「なん、で……っ」
「俺こういう仕事してるから満足に構ってやれないし、別になまえのこと責める気はないよ」 
「あ、っあ、違、っんん」
「何が違うの」
 
不倫を知られてしまった人間が真っ先に言うとされる台詞をわたしも使ってしまったことを恥じながら、どのように自己弁護するかを考えても考えても、こうして舌や手で攻め尽くされると考えたそばから思考が白んでいく。
問い詰めてくるくせに疑問形ですらなく、わたしに碌な答えを求めてすらいないであろうことだけはわかった。
 
「で? 他の男に突っ込まれて気持ちよかった?」

彼がいちばん聞きたかったのはそこらしい。肌を撫で回していた手を止めたことがなによりもそれを表していた。なんて答えるのが正解かわからず、視線を泳がせる。

「なァ、どうなんだよ」
「んん、……あんまり、っ」

分からないなりに正直に答えると、「へえ」と納得したんだかしてないんだか冷ややかな表情でわたしを見下ろした。それから指先が着物の衽から滑り込むと、既にじくじくと湧いたようになっていたところをなぞる。

「……なんだ、濡れてんじゃん」
「っ、や、あ」
「他の野郎の竿でも思い出してたってワケ?」
「違、そんなんじゃ、っ」

指で好きなように、且つ慣れた手つきで膣内を掻き回されるといとも簡単に立っていることが困難になり、退に縋っていなければ床に沈んでしまいそうだった。

「あん、すき、ァ、〜〜っ、さが、ん、ッ!」
「……うん、愛してるよなまえ」

今のわたしが何を言おうが安っぽく聞こえるのだろうけど、退がたしかにそう答えたのが耳に届いて、膣内がひくひくと痙攣した。
好きなのはあなただけなの、と言い訳したのと大して差異はないというのに、退はどうしてこんなに満足そうに笑っているのだろう。
ずるずると縋り付いたまま腰から落ちてゆくと、退はわたしを床へうつ伏せに引き倒して、珍しく性急に交わった。ずっと会っていなかったから、とか溜まっていたからとかそういうことではないのだと何とはなしに感じ取った。

「それで、俺とどっちがよかった?」

そう冷たく言い放つ退は呼吸を荒げながらわたしの中へ埋めた。あまりにも窮屈で苦しく、「無理」と吐き出した弱音に退は「もうほとんど入ってるから」と言い捨てる。深く呼吸を置いて力を抜くと、これ幸いとばかりに更に奥へ勢いよく押し入る熱杭を感じて息が止まった。いつもより退の気が高ぶっているらしいことを、そこでわたしは確信したのである。

「あ、っ〜〜……!」
「ねえ、どっち?」

ダメ押しとばかりに反り返った先端を最深へ押し付けられ、耳元で追求する声にも身を震わせた。どっちがいいかなんて確信してるかのような物言いで、唇を首筋へ寄せる。

「……っ、ん、さがる、がいい」

こう答えれば許してくれるなんて思ってない。本当に本心からそう思ったから、言った。伝わるかどうかはさておき。いっときの欲求ためだけに他の男に縋った癖に、結局退じゃないと潤せない渇きがあるなんてことは最初から解っていた。

「はは、……どの口が言ってんの」

そうやって嘲笑う退の声に背骨が疼いた。退だけじゃない。わたしだって体が通常以上に沸き立つ反応をみせている。今感じてはいけないと、さもなくばよくない(へき)目醒(めざ)めてしまうと思っているのに身体というのは持ち主の思う通りにはなってくれない。
それから首筋へ両手の指先が這うとそこに一気に力が込められた。急な圧迫感に呼吸が上手くできず、喉が締まる。と、同時に退のを呑み込んでいるそこもまた同じだった。こんなこと今までされたことなかったけど、繋がった箇所がでろでろに蜜を溢れさせていることだけは解る。沼に足をとられるみたく、深いところへ陥落していくようだった。

「ッ……! 〜〜、かッ、は、ぅ 」
「もしかしてこれも気持ちいい? あの男にはどうされた?」
「ちが、っん、ぁは」
「……なんかチャラついた男だったよな。ああいうの好きだったんだ?」

もう既に相手のことをしっているというのにもう今さら驚きはしない。
ひとつめの問には違うと言いかけておきながら、実のところその問いには肯定しかけていた。最初こそ言葉もうまく発せられなかったものの、喉が多少は開いて声をあげることが出来るようにはなんとかなっていた。
首を締められていることがというより、今ならなにをされても身体が反応してしまいそうな予感がある。今だってもう、最後の極まりがすぐそこまできている。

「ん、くるし……ッ゛、〜〜っ………さがる、ゆるして、ッあ」
「だーめ。っ、はァ……もーこのままイけば?」
「やだ、ぁ、んんっ、は」
「俺も出すから……、っ」

最後が近いのが退もだというのは珍しいことで、わたしが先に達してその後もう少ししてから、というのが常だった。そんな珍しいことになってる事実が、退がいつにも増して高ぶりを見せていることの証明だ。
自分で心電図が書けそうなくらいには心臓の動きがよく分かる。それとほとんど一緒の間隔で膣内が退のを喰い締めた。くるしい、きもちいい、やめて、やめないで。頭の中がめちゃくちゃで、考えることも考えたそばからすべて矛盾していく。

「イく、も、イっちゃ……だめ、! 〜ぅ、あ゛」
「俺も、なまえん中……出る、……ッ!」

退がひと声呻き膣内でどくどくと震える杭の先から熱く篭もっていたものを吐き出すと、わたしも怖いくらいの波が訪れて足許から落ちていく心地がした。
退が手に込めていた力も緩んで、頭から床へ倒れ込む。でも冷静に考えてみればここは玄関だし、退は長期任務から帰ってきたばかりだ。どうにか起き上がらないと、と手を突っ張って身を起こすと背後から抱きすくめられて立ち上がることは敵わなかった。

「次またやったら、解るね?」
「……うん、もうしないから……ごめ」
「そうじゃなくて」

本気で、不倫相手とは関係を切ろうと決意しかけたというのに、言い切る前に退はそれを否定した。一体どういうことだろう。

「別にそいつのこと切らんでもいいよ」
「……なんで」
「ん? だって今すげェ良かったんじゃないの?」

退の声音は怒ってるわけでも哀しんでいるでもなく、なんなら愉しげだった。退にとってのわたしも、いつもより取り散らかして見えたのだろう。それを違うとは言えない。

「今?」
「うん。なまえがしたこと、俺に詰られながらすんの」

先程まで退自身の手で締め上げていたわたしの首に唇を落としながら言い放ったことに、心当たりはありすぎるほどある。
それから、「ね?」と退は同意を求めながら後ろから顔を覗かせた。出会ってから1度だって見たことのないような悪どさで嬌然と笑いながら。これに頷いてしまえば、ここからふたり揃って歪んでゆく予感に刃物で背を撫でられるような心地がした。



20220425

「虎視眈々のような寝取られ感がたまらないです…!山崎…!恋人同士っていう対等な立場なのにどこかで山崎優位な関係が好きです」とのご回答でしたが微妙に回答に沿ったお話にならずで申し訳ないです。わたしはとても楽しく書きました(満面の笑み)



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