初めてのそれらしい恋愛に浮かれていたのは確かだと思う。
隊内で配られている携帯電話の壁紙を──顔が映ってるものはあからさますぎるので、彼女と歩くふたりぶんの影を撮影したものにした。彼女も一緒にそうしたらしい。
振り返ってみれば着物の趣味も少し変わったかもしれないし、一部の隊士としか繋がっていないSNSへの投稿頻度が上がった。決定的な写真はあげないよう気を配っていたけれど、それでも誰かに気づいて欲しい気持ちはどこかにあって、どうみてもひとりでいる様子ではない飯の写真が増えている。
これまで、恋人になってくれた女性は数人いた。深い仲になる前に俺の仕事柄、デートの都合すらなかなかつけられなかったために愛想を尽かされたり、酷いときは浮気されて終わった。
ところが彼女は真選組で女中として働いている分、俺の仕事に理解もある。連絡がつかないことで浮気を疑うどころか俺の身を案じ、自分との時間より任務や休養を優先してほしいとまで言ってくれるくらいによくできた女性だ。一応職場恋愛だからとこの関係を内緒にしておこうと先んじて言ったのも彼女である。
そんな彼女──なまえが、やっとの思いで実現した何度目かのデートの終わり際、「まだ一緒にいたい」と自らの部屋に入れてくれたことで今に至る。
手を握って、身を寄せ合って、唇を合わせる。彼女が普段寝ているらしい寝台の上で。
「……なまえにもっと、近づきたい」
いい歳の大人同士であることに甘えて、遠回しな言い方をしてしまった。緊張を押し隠して告げた言葉の意味は伝わったらしく、「わたしも」とだけ答えた唇を再び奪った。
経験がないなりに、見よう見まねで彼女を寝床へ横たえた。
脱がせ方がわからない、もしくは脱がせたところでそこからどうすべきか手惑うこともなかった。俺も下着以外の着衣を取り払いながら、過去に吉原へ潜入した経験によってこんなところで助けられるなんて、と苛立つような不本意なような──まあ、今はいい。
着物の下に隠された肌を見て、触って、俺がそうすることで起こる彼女の反応ひとつひとつにいちいち沸き立つような想いがしていた。ところが。
「ちゃんと興奮してる……?」
疑るような目をしてなまえが俺の顔を覗き込む。
こんなときまで職業病か、と己にほとほと呆れながら彼女の不安な表情に合点がいった。いろんな感情を顔に出さずにいることが、監察という仕事を通して得意になってしまったせいだろう。
恥らっている場合か──と彼女の小さな左手を、既に血液が集中しているそこへ誘導した。なまえの中に埋まりたがっているからこそこうなっているのだと解って貰うために。
「この通りガン勃ちだけど?」
そう告げた声は自分でも驚くほどに平坦で、それにも関わらず「ほんとだ」と呟く彼女の唇が安堵したように緩んだ。
「……んな安心されても困るんだけど」
「え、っあ、!」
なまえの肌を弄ぶ手を再開し、その感触に耽る。柔らかさとか滑らかさとか、少し高い体温が、触っているということそのものを夢じゃないと示していた。
隆起した乳首を口に含み、見様見真似で舌を蠢かせると頭上から控えめな吐息が落ちてくる。右手がもう片方の乳房をすべると、皮膚が汗ばんで熱を持っていることが掌に伝わる。
「ん……、ぅ」
顔を見られたくないのか、彼女の細い腕が目元を覆い隠している。それでもなんとなく、眉間にしわが寄って悩ましい表情をしていることは想像がついた。
どこもかしこも触れたくて、どこからそうしたらいいかを悩みながら指で脇腹をなぞった。指先を少しずつずらしながら肝心の場所へと近づいて、唇で丹念に肌を吸う。なまえが顔を隠していた腕の隙間から目が合うと、そこから兆した欲を移していくみたいに唇を這わせた。
「下、も……触って、……」
「下?」
図らずもなまえからあった申し出に白々しく問い返したが、もちろんわかっている。
こんなに近くでそれを見たのは初めてで触ってもいないけれど、潤んで充血していることと、時折なにかを欲しがるようにひくついていることはわかる。彼女にわからないように小さく生唾を飲み下すと、遠慮がちに指先を這わせていった。
おそらくここだろう、とクリトリスであろう尖った箇所を撫でてみせた。ふるり、と太ももがひくついて、さきほどより少し甲高い声があがる。
滑りのよくなっているそこを撫で続けながら、舐めたら怒るだろうか──と考えたところで、触って欲しいと言ったのはなまえのほうだったと思い直す。なら、いいだろう。太ももに掌を凭せ掛けると、舌を伸ばしてそこへ近づいた。
「あ、っ……だめ、それ」
「なんだよ、触れっつった癖に」
拒むようなことを口にする割に止めどなく蜜を垂れ流すので、やや強引に舌を這わせ続け、指を挿し込んだ。最初の最初、この1回で気持ちよくなって貰うことはできないかもしれないけど、初めてだろうがそうでなかろうが痛い想いはしてほしくない。指ですらきつく締め上げてくるそこをほぐさないことには、俺のこれは入り切る気がしない。
「ん、んん、っ……」
「……かわいい」
布団を握りしめるなまえの手をほどいて俺と手を繋ぐ格好に直す。指を折り曲げながら膣壁を指圧すると生き物のように中が動き、俺の指に纏わり付いてきた。
イかせてあげたいところだけど、俺のこれはとっととなまえと繋がりたがってるし、早く彼女を掻き抱きたい気持ちでいっぱいなのだ。
なまえのそこから顔を離して握っていた手に力を籠め、体を抱き寄せる。
「ごめん、もう……いい?」
「……うん」
小さく問いかけたことに肯定の返事が返ってくる。視線がぶつかり合った先、なまえの瞳は潤んでいるみたいだった。
いつこうなってもいいようにと持ち歩いていたスキンをとうとう取り出し、少し震える手付きでそれをどうにか装着した。顔に出ていないとはいえ緊張していないわけなどなく、心臓がうるさく暴れだした。
「さがる、……好き」
普段からあまり言葉での表現がない彼女が煽るみたいにそう告げてくれやがったせいで、もっと余裕綽々でいたかったのに下腹は大げさなまでに反応をしてみせ、本能的に彼女を再び寝台の上に縫い付けて少し乱暴に口づけた。口腔のなか、逃げも隠れもしないなまえの舌を味わうみたいに吸う。がっついてるように思われただろうけど、それでいい。事実がっつかずにいられなくなっているのだから。
そうしてさきほど俺の指が収まっていたところへ、スキンを着けたばかりのそいつを真空に吸い込まれるみたいに滑り込ませた。なんの抵抗もなく、とはいかず、なまえは眉根を寄せると苦しげに呻いた。
「……痛い?」
「ううん、痛くは……」
「……ごめん」
謝ったところでやめてやれる訳でもないかわりに再び唇を重ねる。避妊具がLサイズでなきゃ入らない事実は変わらないし、俺の興奮が落ち着くことはない。せめて、すぐには動かないようにぎゅっとなまえを抱きしめてやっとこうなれた感慨に浸る。こうしてるだけでも強い快感に呑み込まれそうなのに、きっとなまえは──痛くはなくとも気持ちいい訳でもないのだろう。
「動いて、……」
なまえが俺の腕にしがみつきながら、掠れた声を耳元で漏らす。信じられないくらい色っぽくて、ただでさえ苦しげな彼女をこれ以上そうさせたくないってのに、どうしてそう、理性を崩しにかかるのか。
「ほんと、なんなの……必死こいて我慢してるっつーのに」
「しないでほしいから言ってるのに」
「俺とのセックス嫌いになってほしくねェんだってば」
「なにそれ、なんないよ」
笑いながら断言されてなんだか癪で、ようやっと腰をゆるゆると動かした。声を殺して呻くなまえが眉を垂らす表情がどうにも悩ましくて、ひどくしたい訳ではないはずなのに壊してしまいたいような相反する想いでどうにかなりそうだ。俺ばっか必死で、情けねェったら。
「好きなようにして」
なまえは汗のひとつも流さない顔をして微笑み、下から俺を見つめる。
向けられたのは性愛ではないだろうけれど、愛には違いないので俺は応えるべくなまえに夢中であろうと行為に没頭した。
あれから早朝に、部屋に入ったときと同じ着物を着直してまだ眠そうな彼女に見送られて屯所に帰り、隊服に着替えて何食わぬ顔で朝食にありつこうとしたら篠原がいたので隣にお邪魔することにしていた。
「──して、筆頭」
「なんだよ藪から棒に」
「これはただの雑談なのですが」
口数の少ない部下が自ら口を開いて、それも雑談というから物珍しさで視線が篠原のほうへ向く。篠原のほうは全くこちらを見ていないのだけど。
「着物は着替えて帰ってきたほうがよいかと」
は? ──と思わずあからさまに動揺した声で返してしまいそうなのを飲み込んだ。
「……なにが言いたいんだよ」
「あと彼女に……みょうじさんにもよろしくお伝え下さい」
「は?」
あ。だめだ、今度こそ本当にそういう声が出てしまった。互いに監察同士、俺の動揺が分からない訳がない。肝心の篠原は俺の本心などしらんといった様子で、「俺からは以上です」と言わんばかりの顔をしている。あーくっそ最高にやりづれェ。おい吉村、後から来ておいて「なになに何の話?」じゃねーよ黙ってろ。
20220714
「退くんと隊士同士もしくは主人公は女中でこっそり付き合うけど皆にバレれば良いのに!もちろん裏ありで退くんはDTであって欲しい!」とのご要望でした! あまり書かない設定で書く機会を与えていただきとてもノリノリで書きました、感謝!