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※多分どちらも頭が悪い(主に山崎のようすがおかしい)
※山崎さんから無理やり性的な色々をされます




とんとん、と軽快に包丁を動かす。今回犠牲になっている食材は玉ねぎだ。慣れなかった頃は最初に半分に切り分ける時、形状がまるいせいで少し怖かった。仕事としてやっている以上どんどん慣れてくるし、今では無心でできる──っていうのも危険だな。

「痛っ」

言ったそばから無心でやっていたのが仇となってしまった。支える方の手、人差し指の先からじわりと鮮血が滲み、咄嗟に包丁と玉ねぎから手を離す。
すると背後からここにあるはずのない気配が現れ背筋がぞくりと凍った。

「なまえさん大丈夫!? 早く手当てしないと……絆創膏ならここに、いやその前に消毒か」

絶賛流血中のわたしなんかよりずっと表情を強ばらせながら早口で捲し立て、てきぱきとガーゼを当てはじめる「彼」は一体どこから現れたのか。いや、もはやずっといたと言ってもいいのかもしれない。日頃潜入捜査だったり密偵だったり、そういった仕事が多いらしくその経験を悪用しては暇さえあればわたしのことを付き纏う、少し襟足までかかるくらいの跳ねた黒髪くらいしかこれと言って特徴のないと言われている人物。
それから、わたしを含めた女中たちがこれから作る食事をこの後口にするであろう人物のうちのひとりだ。

「今すげー失礼なこと考えてない?」
「モノローグまで読まれるの怖すぎるんですが」
「君のことならなんでもわかるよ」
「誇らないでください。真選組の名が聞いて呆れますよ」

そう、そもそもこの男──山崎さんはわたしと同じく仕事中のはずなのだ。警察なのだからパトロールでもなんでも行けばいいのに、まさか真選組屯所内、それもわたしのいる範囲だけを見回っているなんて。更に驚いたことにこれが日常茶飯事すぎて、周りの女中さんたちでさえ一切動じていないのである。

「はい、出来た」
「……ありがとうございます、じゃなくて! また土方さんにどやされますよ……仕事はいいんですか?」
「いいのいいの、恋人の護衛をするっていう仕事を今してるからね」
「いつわたしが山崎さんの恋人になったんですか」
「前前前世から?」
「いやちょっと古い」

特殊警察の仕事にただ特定の一般市民を護衛するなんてものはないだろう。わたしがお通ちゃん並に有名人だったり、幕臣関係者ならまだしもたまたま真選組屯所で女中をしていると言うだけの普通の成人女性だ。もちろん恋人になったなんてわたしの記憶にはない。怪我の手当てをしてくれたことに感謝はしているけれど。

「気をつけてね、俺の胃がもたんよ。それじゃ」
「勝手に胃を悪くされても……」

わたしの所為なんでしょうかそれは──と聞いたところで無駄だろうな、と颯爽と調理場から出てゆく後ろ姿を見届けながら考える。調理場からは出ていったけど、この後もどこかからわたしのことを視ているのだろう。
たしかに、こうしてストーカーのような執着さえ除けば山崎さんは優しいし、打算的な言い方をすれば公務員でもあるし、彼氏にしてゆくゆくは夫に……と考えるには良い相手なんだと思う。ほかの女中さんからも「付き合っちゃえば?」とプッシュされることがままある。
周りからは地味だのモブだのって揶揄されていたって、わたしから見れば顔も悪くない……と感じる。こうして人様に品評のようなことを考えるのも失礼なのは百も承知で、山崎さんに相応しい相手は幾らでもいるのではと。

好意を向けられている、というのは流石にわかる。わたしだっていい歳の大人だ。だからこそ素直にその向けられた思いを、受け止めきれずに可愛げのない態度をとってしまうのは──肝心な言葉が、「好きだ」っていうひと言がないから。それに尽きると思っている。



「土方さん、マヨネーズ買ってきました。部屋へお届けしたらよろしいですか?」
「ア? ああ、頼む。悪いな」
「いえ、ついでですから」

買い出しを頼まれると特に確認もせず、この鬼の副長──土方さんの為にマヨネーズを買っておくというのが習慣化していた。この人は我々が丹精込めて作る料理がなんであれ、上から大量にそのクリーム色の物体を食材が見えなくなるまでかけるというのが常な所為でマヨネーズの消費が早い。マメに買い足さないとすぐに足りなくなってしまうので、結果事前に声をかけることもなく買っておくことが増えた。
女中の中でも下っ端なわたしが買い出しのような雑務を率先してやることになるのはいつものことだし、そうすると最初は怖かった土方さんに接する回数が増え、素っ気なく見える態度にもいい加減慣れてくる。特にわたしが話しかける時は主に彼の好物に関する話だからこそ態度が軟化しているようにも感じられるからこそ、怖くはなくなってきたというのが正直なところだ。他の女中さんには少しだけ羨ましがられたりもする。土方さんは確かに見目がよく、硬派な印象も却って他の女性にとっては魅力的に映るのはわかる。もちろん、だからと言ってどうなりたいとかは、ないけど。

そうして平和に仕事が終わればあとは自分の時間。揃いの割烹着を脱いで私服に着替えると、まだ残っている先輩方へ挨拶をし、職場である真選組屯所を後にしようとしたところだった。

「なまえさん、お疲れ様」
「……山崎さん。お疲れさまです」

いつもわたしがどこで何をしているか把握しきっている山崎さんのことだから、わたしが何時頃仕事を終わらせて帰るのかなんて解っているのだろう──というのは麻痺しすぎているだろうか。
それにしても今の山崎さん、表情に影があるような気がする。昼間、わたしの傷を手当してくれたときの明るいそれとは、どこか違うようで胸騒ぎがした。

「これから帰り?」
「はい。……山崎さんは」

反射的に少し後ずさりをした。こんな、門のすぐ前なんて人の目があるところで派手になにかを仕掛けてくるはずがないのに、ただならぬ雰囲気に体を強張らせる。

「今から時間、ある?」

会話になっていないその問いに、あ、と声を上げる間もなくわたしは手を引かれてついて行くしかなかった。幾ら気持ちの上で警戒をしていても、このとき手を振りほどかなかったのならのこのこ着いて行ったのとそう変わらないんだって気づくのはもっと後のことだった。

「あの人……土方さんと、どういう関係?」

手を引かれるまま、屯所の中へ逆戻りすると入ったことのない部屋まで連れられ、わたしは壁に追い詰められて硬直していた。

「なんの関係もな、っ、ん」

答えきれないままに唇が奪われると口腔内でわたしの舌が山崎さんのそれによって掬われ、背筋がぞくりと跳ねた。

「……俺よりあの人が良いの?」
「山崎さん、おかしいです、……!」
「おかしいのは君のほうだよ、俺がいるのに」

一見噛み合っているようで全くもってそうでない会話に血の気がひいた。わたしのことを女性として好きでいてくれているのは解っていたし、彼なりにそういうつもりのアピールをしてくれているのだと思っていた。それがどうだろう。彼の口ぶりからすれば、とっくに交際をしているつもりにしか聞こえないではないか。
幾ら胸元を押し返そうが唇を引き結ぼうがキスを辞める気配もなく、このままではそれ以上のことになってしまうのではないかとひたすら怯えた。

「……んん、〜〜っ!」

歯列をなぞる生ぬるい舌の感触が困ったことに下腹をじんじんと熱くしていく。抵抗しておきながら身体がこんなふうに反応していることは絶対に気づかれたくなく、声を出すことさえ憚られた。しかし、声を出さないことが抵抗を諦めているように見えそうでどういう態度でいたらいいのか頭で考えても解らない。そう逡巡しているうちに沈黙を受容だと受け取ったらしい山崎さんの手がわたしの着物の合わせから潜り込んできて、身体がびくりと反応した。

「……や、っやめ!」
「やわらけェ……最高」

塞がっていた唇が自由になりやっとのことであげた抵抗の声など聞こえてなかったかのように慣れた手付きで帯を緩め、着物の下に隠されていた襦袢が顕になると先程から見え隠れしていた絶望が膨らんでゆく。
襦袢の更に下の肌をさらけ出すまでにもそう時間はかからず、仕事の上で女物の着物を着ることもあるって前に山崎さん本人から聞いたことがあったのを思い出し、手慣れた脱がせ方に勝手に納得した。後頭部を片手で支えると首筋に噛み付くようなキスを落とし、その唇はどんどん下へ降りていく。決して暴力的ではなく恋人同士がするときのような前戯に、わたしだけが本当におかしいのかもしれないと錯覚するほどだった。

「あ、っ」
「……今の、かわいい。もっと聞きたいな」
「やだあ、お願い……っ」
「乳首吸われんの好き?」
「いや、本当に、っあ」

嫌と言ったものの、わたしの反応はその質問に対して肯定しているようにしか見えていないのかもしれない。ねっとりと執拗に舌で胸の中心を転がすと身体の熱が上昇していくのがハッキリとわかって困る。

「い、ぁん、……やまざきさ、っ」
「下も触っていい?」
「だめ、ってば……!」
「気持ちよくなりたいでしょ? ね?」

聞いたそばから手は下へ滑り込んでいて、口では同意を得ようとした癖に意味なんてまるでない。わたしの答えなど待っていやしなかったのだ。
下着の中へ入り込んだ指によってぐちゃりと音が立てられて、薄々感じていた性器から滲んだ粘液の存在を認めざるを得なかった。飢えたように開いた入り口は、山崎さんの指を簡単に受け入れるときゅうきゅう締め付けた。

「っひ、んや、!」
「感じてくれてんだ、嬉しいなァ」
「んん……違う、違うのっ」

貌を横に振るも愛おしそうに見つめる瞳に捕らえられるとたまらなくなって、吸い込まれるみたいにされる口づけにまた酔い痴れた。わたしはなんでこんなに圧されてしまっているのだろう。
中で動く指が心地良いせい? 言葉がなくても、好かれてるってわかっていたせい?

「あ、っあ、だめ……!」
「ダメって、すっげー締めてくるけどな……俺の指」
「わかんな、っ」
「なあ、あの人にも抱かれた?」
「そんなわけ、っ」
「ほんとかな……こんなふうに、副長のことも簡単に受け入れちまったんじゃねーの?」
「ほんとに、違っ」
「浮気は関心しねーなァ」

どうしてこうも必死に、誤解をとくみたいにしてしまうのだろう。本当に違うというのに間違いはないのだけど、わたしが副長と懇ろになっていたとしたら普段の付き纏いだって緩和されたかもしれないのに。いや、どうだろう。更に火を点ける結果になっただろうか。
着物も襦袢もとうにぐしゃぐしゃになって畳の上。頭の中だって白く霞んで、奥のいちばん良いところにしか意識が向かない。膝ががくがく震えて、そんなはっきりしない意識のなかでも、もうすぐ達してしまうんだということだけはわかった。膝の裏から汗が滲んでいる。

「やだやだ、っあ、んぁ! イくっ、〜〜!」

びくりと身体が極致を迎えると力が抜け、山崎さんにすがっていなければ立っていられなかった。すべてが熱くてしょうがなく、汗がとまらない。そのせいか山崎さんの手が冷たく感じられ、助けを求めるように手を握った。早くこの熱を冷ましてほしい。

「……挿れていい?」

山崎さんがわたしから同意を得ようとするのは2度めだ。だからこそわかる。これだって、答えなくてもそうするつもりなんだろうって。
これまで山崎さんだけが上着のひとつも乱さずにいたけれど、今度こそ上下どちらも脱ぐとわたしの片足を上げ、立ったままわたしの背を壁に押し付けて交わった。
ゆっくりと埋まっていくそれは大きく、中をいっぱいに満たしているというのにまだ全てが入りきっていないらしかった。痛いくらいの圧迫感に呼吸もままならず、唇を塞がれていないこととまだ動いていないことが救いだった。

「……っ、ぅん」
「すげ、中動いてる……そんな欲しかった?」
「違います、……ッ」

へえ、と疑うような目がこちらを見る。首筋に山崎さんが吸い付くと、跳ねた黒髪が肩口に掛かる。山崎さんに縋ったままいなければ体勢を維持できないわたしは、受け入れる以外の方法を考えつくほどの余裕はない。
せめてわたしに執着するなら言葉で言ってくれたら、とぼんやりそれだけを思った。

「ごめん、動く」
「っ、待っ」
「無理」
「や、あっ、ああ、っ!」

最初こそゆっくりなものの、腰あたりを鷲掴みしながら徐々に速度を上げて奥を突き始める。先程指で擦られて達してしまったところを更に大きく許容し難い質量の魔羅で掻き撫でられると、中の滑りがよくなったのかやっとそこで奥まで全てが入りきる。

「ああ、だめっ、くるし」
「……っは、やば、エロい」

山崎さんが口角を吊り上げこちらを見下ろす顔が色っぽくて、心臓がぎゅっと縮こまる。まるで目の前の男が恋しいみたいに。
くるしいのはわたしのほうなのに、山崎さんのほうがよっぽど苦しそうな声を上げて、それなのに表情だけは恍惚に歪ませている。また意識が白んでいきそうなのにもう1ミリもためらわずに最奥を突き上げられては狂ってしまいそうだった。

「副長とどっちが大きい?」
「だからっ、してな……っ!」
「……ッく、……俺と、どっちが良かった?」
「違う、違うからっ、!」

本当に山崎さんはなにか勘違いをしている。それならそれで、わたしは何を必死に弁解しようとしているのか解らないままに否定の言葉を続けた。

「違うの、ごめ、なさ……! イく、また、イっちゃ、ぁん」
「もう? っはは、まだ答えて貰ってないよ、頑張って〜」
「むり、無理なの、っ」

さっきから山崎さんのほうがわたしの言葉にまともに答えてくれないのにそれはずるいんじゃないの、と抗議したくとも言葉にならない。
背骨を熱いものが駆けて、頭が沸騰したみたいに茹だって、しがみつく指先に力が入る。逃げたいのに腰を抑えつけられて当然離れることもできなかった。

「……れも、出る、っ」

それだけ苦しそうに告げられると、なにもつけていなかったことを思い出してドクンと心臓が嫌な高鳴りを見せた。もしものことがあったら、と。

「っ、なか、だめぇ、っいや!」
「えー、イヤ? なまえさんのここは、早くほしいみたいだけどな」

そんなこと、ない……はず、だけど。
身体と心は別なのかもしれない。さっき、出るって山崎さんが言った時にほんの少しだけど、期待するみたいにとろりと漏れ出たのを感じてしまった。理性なんてなかったらわたしはこのまま、恥も外聞もなく出してほしいと願っていたかもしれない。
残っていた少ない理性で彼に縋り付いていた腕を離して、打ち付けてくる腰を手のひらで押す。当然びくともしないし、最後の悪あがきでしかないけれど。

「かわいーね、無駄な抵抗しちゃって……っ」
「ああっ、やだあ、やめて、いや」
「っはあ、ああ、でる、イく……!」
「あ、あああっ、!」

びゅる、と勢いよく飛沫が叩きつけられるのを感じながら、圧倒的に言葉が足りない山崎さんになにから説明しようかと考えたが最適解は出なかった。


汚れた身体を拭き取って貰い、衣服を整えてやっと初めて畳の上へ座ってひと息つくと、山崎さんが少し改まってこちらを見た。

「……あの、怒ってる?」
「怒ってたのは山崎さんのほうじゃないんですか?」

土方さんへの恐らく嫉妬で、先にただならぬ怒りを滾らせて事に及んだのは山崎さんだ。わたしも怒っていることに否定はしないけど。

「ごめん、悪かった」

先程の愉しげにわたしを辱めた顔とは打って変わって恥じるように視線を下に向けて言った。謝罪はもはやどうでもいい。よくないけど。

「他にもっと言うべきことがあると思うんですけど」
「えー……ああ、できてたら籍入れようね」
「いやもっと前段階!」

全てをすっ飛ばしてムードも何もあったもんじゃない求婚をキメてきたこのひとはふざけているのか本気で解っていないのか、どっちだろう。目の前でうんうんと悩み始めるストーカー男に答えを教えてあげるのは癪だったけれど、そうしないと本当に先へ話が進まないと確信してわたしは告げた。

「まだわたし、山崎さんからひと言も好きだって言われてません」
「……言っとらんかったっけ?」
「ついでに言うと交際も申し込まれてないので土方さんと浮気を疑われても困ります」

わたしがそう言い切ると呆気にとられる山崎さんは、本当に頭がいいのか悪いのかわからない。本人曰く学はないとのことだけど。これで仕事はできるみたいだし。
色々な段階を無視されてしまった以上、今更遅いだろうかと思いつつ気を取り直して手だけをわたしから握った。

「わたしはもう1度山崎さんと最初から始めたいです」

驚いたように見開かれた三白眼がこちらを見、やがて感極まったようにわたしの身体をぎゅっと勢いよく抱き寄せた。

「なまえさんほんと……すっげー好きです」

これで「わたしも」と言い返すのはどうしても気に入らなくて、感謝だけ述べた。わたしからもそう伝えたくなる日はいつ訪れるのだろう。



20211116

「山崎が監察能力を生かし通いで女中のヒロインをストーカーする話を読みたいです。最初は近藤さんっぽいギャグチックなストーカーからの銀さんor土方さん辺り(適当w)との関係を疑い嫉妬して若干無理矢理裏からの最後は甘でお願いしたいです!」とのリクエストでした! 頑張ってギャグちっくにしたつもりでしたがなんだかサイコな気が‥



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