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「好きな人ができたの」

突然の告白だった。
傍から見ればこれは別れ話の始まりのように見えるのだろうか。

「だからこういうのもうやめようと思って」

彼女が「別れよう」という言葉で言い表さなかったのは、元々別れ話をするような間柄じゃなかったからだ。こういうの、ってどこからどこまでを指すのだろう。
通い慣れた連れ込み宿の、たまたま何度か当たったことのある403号室。趣味の悪い柄があしらわれた毛布に腰掛けた俺たちは目すら合わないというのに、互いの身体の心地をよくしっていた。
こうして不定期に会うこと自体をやめようということなのか、会ってもこういうところにくるのはやめようということなのか、決めきれないでいる。それこそが、元からいい加減で曖昧な繋がりであることの証明だった。

「へえ」

なんと言ったらいいかわからず発した声は、興味無さそうに響いた。

「なに、付き合うの?」
「まだ……連絡先、貰っただけ」

答えながら初恋をしったばかりの少女が如くはにかむ表情に息を呑んだ。今まで、俺になにされようがそんな顔見せたことねーじゃん。
信じられないような気持ちで、バスローブの中の肉体へ手を伸ばすと好きなようにまさぐった。

「そいつにこういうことされたいんだ?」
「や、ぁ……っ、ちが、そんなんじゃ、んん」
「カマトトぶってんなよ今更。処女でもねェ癖に」

何度も俺に啼かされてる癖に手すら握ったこともないような男のこと考えてそんな顔見せてんじゃねェ。──と理不尽にも彼女をなじる台詞が頭に浮かんだところで、告げられた「終わり」に対して憤っていることに驚いた。

知り尽くした性感帯を陰湿に捏ね回すといとも簡単に声があがる。
こんないやらしい身体でその好きな男とやらの前に堂々と立てるのか、となまえを身勝手にも責めたい気持ちでいっぱいだった。
そもそも俺たちが会うってことはこういうことをする為でしかなかったはずだ。電話1本、メッセージひとつで終わらせずにこんなとこまで着いてきたってことは、最後くらい1発好きにさせてやろうって? ナメられたもんだな。

「あ、ぁ……やめ、ん、ッ」
「次の男は良くしてくれるかねェ」

丁寧に時間をかけて触れてやる気はなかったけれど、それでもなまえの膣内は充分に濡れていた。

「目でも閉じてそいつのこと考えてりゃすぐ終わるでしょ」

鼻で笑いながら、なまえの唇を塞ぐ。愛する者へする正しい意味でのそれなんか久しくしていないけど、彼女は上手く行けばその男と正しいキスをするんだろうな。

「ん、はぁ、ぅん……さが、る、っ」

折角助言してやったというのになまえはちゃんと、俺の名前を呼んだ。
たいして触ってもいないのに蕩けきったそこを目掛けて、四つん這いの彼女を貫く。悲鳴にも似た声が上がると、なまえの身体は待ち侘びたように肉杭を締め上げていた。寝台や結合部が聞き馴れた音を立て、それでも相変わらずその音や声に律儀に煽られて勃起させていることが滑稽で仕方がない。

「は、あぁ、ッ……ん、あ、!」
「あ……なまえ、っう、はァ」

重ならない吐息が俺たちの先のなさを表しているようだった。肉体的な反応は互いにこれ以上ないくらいに感じられるというのに。
なまえの身体をこれまで掻き乱してきたのは誰だったか思い知らせるように、奥まで突いて回して擦り上げた。顔の見えない姿勢でしたのは失敗だったか。──そう思い直して、改めて天井を向かせるようになまえを転がすと再び中へ突き立てた。もうすぐだっていうことが手に取るようにわかるせいで、こちらがいろいろと思い知らされるような心地だった。
先程より声が甲高くなって、背中に回された細腕が力む。俺が彼女の腰を抑えつける両手もまた、同じだった。

「や、っあん、イきそ……っ、あ、んう、っ!」
「……っは、ぁ……いいよ。好きでもない男の魔羅で好きなだけイけば?」
「いや、意地悪……っ、んん、〜〜っ」

先程の少女のような表情とは対照的に悩ましく歪んでいく様と、弓なりに逸らされた体を満ち足りた気持ちで目に焼き付けた。そうさせたのは俺だと思うとますます口角が弛む。
俺のこの言い知れぬ憤慨を、なまえが恋した男への嫉妬だと言うヤツがもしいたら大笑いしてやる。それがもし正解だったとしたら、俺が彼女のことを恋しく思っていることになる。そんな奇麗なモンじゃない。
彼女を俺と同じところに引き摺り下ろしたままでいたいという、くらい欲望だ。



20211213

「クロ子さんの山崎の報われないえっち読みたいです」というご回答でした! 山崎か夢主、どっちが報われない話にしようと考えて報われないのは山崎のほうになりました。



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