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※辰馬と格安レンタルルーム(いかがわしいほう)へ行く話
※やってるだけ



なんて日だ、と叫びたい1日だった。

朝から酷いものでまずは化粧ノリが最悪なところから始まり、結野アナの天気予報が大ハズレで雨にも降られ、電車もギリギリのところで1本逃し、仕事では何故かわたしの関係ないところで起こったクレーム対応を押し付けられるわで散々だ。
今日はもう帰って高価な入浴剤で癒された上でプレモルを開けても許されたい。どうせ明日は休みだし。怒りと勢いに任せて退職届を上司に叩きつけなかっただけでも褒めて欲しい。そんなムシャクシャした気持ちのまま帰路をたどっていたところで、突然小さく薄い端末がわたしを呼び出した。この着信音は特定の人物からの電話で間違いない。珍しい着信におっかなびっくりしながら、ひと呼吸置いて通話を開始すべく画面をスワイプした。

「なまえ、元気か」
「……今から元気を出すために自分の機嫌をとろうとしてたとこ」
「どれ、ワシが今から甘やかしちゃろう」
「え? 今どこいんの?」

この男は曲がりなりにも社長を務めているので普段は全宇宙を飛び回っており、会えることが珍しいくらいだった。それなのにこれから会おうとでも言うような口ぶりに、わたしは目を丸くした。

「おお、見つけてしもうたわ」

そんな言葉が真正面からも右手に持った端末からもダブルで聞こえて、思わず顔をあげた。わたしのスマホ、立体音響対応してたっけ? いやいやそんなまさか。
顔を上げた時、無意識に高い位置へと視線を向けていたのは、わたしの期待の現れだったのだと思う。その期待通りになっていることを、視線の先にあったサングラスとふわふわの頭がはっきりと示していた。

「とりあえず、飯にするかの」

辰馬のひと声でわたしたちは目配せをし、会えたときにはいつも向かう食事処へいくのであろうとわかった。
伴って行った先はやはりわたしたちにとって馴染みの店で、壁際に面するように木製のカウンター席が用意されている。そこにはふたり用の長椅子があり、座るとなかなか密着できてデートには最適だ。滅多に会うことが出来ないわたしたちには、これぐらいそれらしい場所が丁度いい。

「随分な目に遭ったのう」
「でしょ?」
「ワシが電話して正解じゃ」
「うん、じゃなきゃ今ひとり寂しくプレモル開けてたよ」

アハハハ、と元々大きい口元を更に大きく開いて笑う横顔を見ると、今日の散々な1日が帳消しとまでは行かずとも幾らか気が晴れた。辰馬に笑って貰えたならいいか、なんて。

そうして当たり前に終電なんかない時間を迎え、どこで夜を明かすのかというところだった。いつもだったら、この時間でも近くでひと部屋くらいは空いてるところを見つけ出せたのだけど、どうやらわたしの不運はまだ続いているようで今日は空きがなかった。急な逢瀬で予約も出来ないまま会うことだけを決めてしまったから、仕方がない。

「なら、こういうとこはどうじゃろ」
「……格安レンタルルーム?」

今しがたスマートフォンでサッと探したらしく、そういった施設の料金表と部屋の写真を見せて辰馬は言った。
聞いたことはある。普通のそういうホテルよりはずっと安くて、設備が最小限だけど泊まることもできる。よく、身体を商売道具にしているお嬢さん方が客と使うらしいというところまではしっていた。ここはかぶき町だし、たぶん近くにそれなりの数存在しているのだろう。

「ちょっと面白そう。いきたい」
「アハハハ! さすがなまえじゃ」

そういうお店のコと行くらしい場所に行く機会なんてまたとないだろうし興味がわいた。辰馬は本来の用途で行ったことあるのかな。

「せっかくだしそういうとこらしいプレイする?」

冗談めかしてわたしから聞いてみた。ノってくれるかと思ったらそうでもなくて、ほんの一瞬だけ眉根を寄せた後に「今日はおんしを甘やかす言うたじゃろ」とわらった。そっか、そういうお店の娘はどちらかといえば甘やかす側だ。
とにかく、そうと決まればついて行くことを決めてわたしは辰馬の腕に寄り添った。


部屋は空きがあったようで、わりとすんなり通された。たしかに、何が違うとか具体的にはわからないけど、よく行くラブホテルの類と比べるとつくりがチープな気はする。
そうして通された部屋のドアを開ければ、そこにはお世辞にも広いとは言えない部屋があった。ベッドの端と端は壁とぴったりくっついているし、その部屋の隅に申し訳程度に限りなく小さなシャワールームがあって、ほんとうにやることはひとつしかありませんっていう部屋でしかなかった。いや、たしかにどうせこれからすると思うんだけど。

「シャワー使うか?」
「うん、一緒に使お」

狭いシャワーに敢えてふたりで入りたくて誘ってみた。脱衣所なんてないから互いにベッドに座って脱がせ合う。時々戯れるみたいなキスをしながら、いやらしさの薄いじゃれ合い。「ばんざいせえ」なんて子供にやるみたいだ。彼の言う甘やかすってそういうことなんだろうか。
シャワーを浴びるのも狭い中で水遊びをしてるようでキャッキャしてしまう。壁だって薄そうなのにこんなにはしゃいでていいんだろうか、と思うけど、だったら多分他の部屋からもそういう声が聞こえるだろうから気にしないでおこう。
シャワーを出ると備え付けのタオルで辰馬が身体を拭いてくれて、そこから揃ってベッドに腰掛けるとサングラスもなにも隔てない目を見る。こういうときでないと彼の碧い瞳をこうして捉えることはなかなかなくて、ついじっと見てしまった。

「男前すぎて見惚れたか?」
「うん、そうだよ」
「そうか、素直でええ女じゃ」

額をくっつけて、視界のピントも合わないほどに近づいたと思えばそこからキス。軽いものかと思ったらくちびるを割いて舌が入り込んで、わたしも応じるべく舌を伸ばす。さっきの戯れとは一転して、急に濃密な空気があたりを覆う。身体が一気に熱を持つのを感じた。そういう作用の香を嗅いだかのように、わたしったらすっかりその気だ。

「たつま、っ……んん」

名前を呼びながら辰馬の太い腕のなか、厚い胸板へすがる。辰馬もそれを受け止めるみたいに腰に腕を回しながら、空いたほうの手で身体をなぞっていく。まだ水気のある肌がしっとりとはりついて、大きくて厚いてのひらが慣れた様子で熱を与えてくるので足の間から早くも淫水が滲む感触に身震いした。

「気持ちよか?」
「っ、うん……いい、から、もっと……」
「欲しがりじゃのお、そこがええけんど」

わたしだけ座ったまま、最初は上半身くまなく唇が押し当てられると徐々に下半身へ顔が移動してゆき、辰馬が床に座る形になる。太ももへのキスを合図に少しだけ脚を開けば、その間へ舌が滑り込む。近くで見られたくないような場所なのに辞めて欲しくないという矛盾した気持ちで、声を上げてシーツを握り締めた。その手に辰馬のそれが重なる。
たぶん、そういう場所らしいプレイをするなら立場は逆だ。とはいえ辰馬が男娼のようになっているのではなく、ただわたしに恋人としてそうしてくれていることがなにより喜ばしかった。

「あ、っは……んン、きもち、っ」
「そのようじゃな……まっことかわいい」

はは、と薄く辰馬はわらう。
辰馬が指や舌を動かす度に身体が反応して、それが声や音になる。気持ちいいなんて言葉にしなくても全身がそうやって叫んでる。いや、だめ、なんてかぶりを振ったところで、ほんとうにやめて欲しいと思っていないことくらい辰馬には伝わっているに違いない。

「辰、馬っ、もう、や、っあ」
「……好きにイったらええちや」
「あっあ! や、いい、いく、っ!」

辰馬かための癖毛を纏った頭を、そのつもりはなくとも押さえつけるかたちとなってわなわなと腰を痙攣させた。息を切らせたわたしを辰馬が満足そうに見上げると目を細め、隣に腰掛けた。これからすることを予感して胸を騒がせると、予感した通りに辰馬はわたしのことを軽々と持ち上げ太腿のうえに跨ぐかたちで座らせた。
包み隠さずわたしへの欲を示すべく、立派に上向いたそれが入ってくると同時に身体が跳ねる。

「んぅ、っあ、ああ」
「浮気は……しちょらんようじゃの」
「入れなきゃ、わかんないわけ……、っ」
「さ、どうじゃろな」

言いながら胸元へ顔を埋める。ふわふわした髪が肌にちくちくと触れると同時に小さく尖ったところへ舌が這う。

「甘やかしてくれる、って……っ、言った」
「ワシなりに甘やかしちゅうが?」
「……っ、! ばか、あ」
「好いた女にしかできんことしかっ、……く、しとらん」

吐息混じりに殺し文句のようなことを吐かれては、もうたまらない。
甘やかされているとは思った。が、それが却って羞恥を煽られて、そういう意地悪をされているような気がして抗議をした。どうやらこれが彼なりの甘やかし方らしい。
たしかに唇で、手で、身体すべてでたくさん愛を伝えてはくれているようには思う。もちろん言葉でも。悪い気はしなくて、更に言い返す気も甘い性感に溶けて消えた。奥までどろどろになりながら辰馬のものを喰らいつくして喘ぎをあげ、その合間に名前を呼ぶ。見下ろす位置にある辰馬の額からは玉の汗が滲んで、眉間のしわを深めていた。

「……っあ、わたしのこと、んん、好き?」
「……っ、なまえっあ、好いと……ッ、ちや」
「うれし、ああ、ぁん……っいいの、!」
「だいぶ、良さそうやか」

もう充分なくらいに伝わっているけど言葉が欲しくて、駄々をこねるみたいに強請った。
腰を掴む辰馬の手のひらが先程よりもずっと熱くて、そのせいでわたしは熱がひかないのだと思った。
烈しいわけじゃない。労るようにゆっくり、ただし確実に達するところまで追い詰めながら溶かされる。辰馬が動く度に膨らんだ先端がぴったり奥に嵌って気持ちがよく、そうなる瞬間を増やしたくて自分でも好きなように動く。
のぼせたようにぼうっと蕩けながら、唇を合わせ酔いしれるとすぐに2度目の絶頂が静かに押し寄せてきた。「出る」と短く告げた彼に抵抗することなく身を任せるとそのまま中に飛沫を感じ、わたし自身も下腹を震わせた。

「あ、あ……っ、辰馬、すき……」
「……ワシは愛しちゅうが?」

辰馬は言いながら笑って体勢を崩さずぎゅっと抱き、リップノイズをたてて鎖骨に、頬に肩にキスを落として頭を撫でてくれる。こうして欲しい時にほしい甘さをくれるというのは時として危険なほどの薬物となるけれど、今日のような散々な日であればそれくらいでやっと釣り合いが取れて、それでいいように思えた。
休み明け、働きたくないな──と早くもその反動を感じながら辰馬の背中へ回した腕から力を抜いた。



2021109

「クロ子さんの想像する辰馬が恋人だった場合の甘ったるさを知りたいです!」とのことでした!
ちゃんと恋人同士な辰馬を初めて書きました。この人絶対クソクソクソ甘いと思います




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