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※年齢操作プロヒーロー(成人済み)
※元恋人同士
※飲酒
※寸前までいくけど本番なし


元雄英A組で同窓会をやるからと声を掛けてくれたのは嬉しくて、参加のつもりで幹事の飯田くんには返事をしたけどその後で「やっぱり行けなくなった、ごめん」っていう連絡をするかギリギリまで悩んでいたのが正直なところだった。
みんなにはすごくすごく会いたかったからよく考える前にそうしたものの、日が近づくにつれて会うと気まずい人がいることをひどく考え込んでしまった。所謂元カレという存在だ。

参加してみれば最初はよかった。座った席から彼のことは視界に入らない位置にいた。ただ、盛り上がってくるとみんな元いた席とはバラバラになって、わたしの隣が空いていた。そこにすかさず陣取ったのが彼──瀬呂だった。元カノの隣だっていうのに遠慮なく座るかな、普通。

「お前がビールねえ」
「なに、悪い?」

隣で笑う瀬呂は高校のときと変わらないのに腕や肩はあの頃よりずっと逞しくなっていて、できるだけわたしは視線をそこに向けないように注力した。アルコールが入っているせいもあって良からぬことを考えてしまいそうだから。

「いんや。飲んでもカシスウーロンくらいだと思ってただけ」

お子様だって言いたいの、と昔のわたしなら生意気に言い返していただろうか。昔のまんまだな、と思われるのがやっぱり癪で口を噤んだ。

実際、今と比べて子供だったわたしは相手を思いやる余裕もなく、素直に甘えることもできずで瀬呂とはうまくいかなかった。ましてやプロヒーローを目指しながらそんなことが出来るほど、器用にもなれず。
期間も短かったし、A組のみんなのなかでわたしたちの関係を知る者はいなかったと思う。だからこの、今ふたりだけで話している状況は傍から見ると結構レアな組み合わせだろう。当時は、梅雨ちゃんだけが「瀬呂ちゃんとなにかあったのかしら?」と言ってきたことが一度あって肝を冷やしたけど、なんとか誤魔化したはずだ。

「すっかり大人のオンナなのね」

なんだか面白くないみたいに瀬呂は氷の溶けたハイボールを飲む。上下する喉仏はすっかり大人のオトコのそれで、まったく目の毒だ。相変わらずなにを思っているのかわからない三白眼をじっと見たけど、やっぱりなにも分からない。
前々から、いまみたいに再会したときのことを想像しないでもなかった。「変わってないね」とだけは言われたくなくて、ピアスホールも開けた。お酒だって覚えた。煙草は吸ってみたけど習慣にできなかった。自分から連絡も取ろうとしなかった癖に全部、瀬呂を好きだったあの頃と少しでも違うって思って貰いたかった為だなんて、滑稽だ。





さて、どうしてこうなってしまったんだろう。
飲みすぎたという自覚はある。でも、帰るのに誰かの手を借りなくてはならないほどに酔った訳ではないはずだ。なのにどうしてわたしは瀬呂とタクシーに乗りこんで、運転手に自宅の最寄り駅を伝えているのか。
瀬呂の「もう少し話せる?」のひと言で、2次会へ行こうと浮かれる元A組の面々に後ろ髪を引かれてまで。

「ふうん、いいとこ住んでんね」
「まあ、活躍してるんで」

そうね、よく見かけるよ──とわたしのヒーロー名を口にする瀬呂はにやりと笑ってこちらを見る。セロファンだってよく雑誌に載ってるじゃん。この間コンビニで見かけたよ、買わなかったけど。
特に滞りなくタクシーは最寄り駅へと到着し、わたしが財布を出したときにはもう瀬呂が支払っていた。一丁前に釣り銭を辞退なんかして。

玄関に入ってわたしが靴を脱ごうと少し屈みかけたところで背後からずっしりとした重みが乗る。抱きすくめられているってわかったのは、視界に特徴的な両腕があったから。

「ほーんと無防備だな」
「……離し、て」
「なまえなら逃げられるだけのチカラ、あるんじゃないの?」

たしかに、"個性"でも使ってしまえば逃れることは簡単だ。わかっている。だけどそれを言うなら瀬呂だって、わたしを逃げられなくさせることも出来たはずだ。
わたしもわたしで、そうしてまで逃げたくないってことをありありと自覚してしまった。お酒と、コロンだかお香だかの人工的なものが混じった瀬呂の匂い。こんなに近くで体温を感じたのは何年ぶりのことだろう。

「彼女……とか、知ったら怒るよ」
「いないから誰も怒んないの」

向こうから離れてもらうなけなしの理由すら一蹴されては、わたしから振りほどくことも出来ない。いくら昔と違うって思われたがっても、ずっとこうしてほしかったことだけはずっと変わってなんかいないのだ。少しの間だけでいいからとか思っても、本当に少しの間だけ? ともうひとりのわたしが誘惑するように嘲笑う。
瀬呂はわたしの顔を顎から、指先だけで振り向かせると唇が合わさる。引き結んだ唇を舌で撫で、吸い、抉じ開けていく。

「んん……せろ、っ」

こんなキス、付き合っていた時だってしたことなかった。

「やめ、ねえ……っ」
「ホントに嫌ならもっと本気で拒んでくれる?」
「……ん、っう」

本当に嫌なのかどうか考えてしまったらもう簡単に出た、そうでもないという答え。ずっと瀬呂にこうされたかった。別れて何年も経つというのに。
瀬呂の手はわたしの膨らんだ箇所をやわやわと揉んで撫でて、付き合っていても知らなかった彼の、そういう意味での女の扱い方を身を持って識る。

「どうせ初めてじゃないっしょ?」
「あ、っ……」

あれから何年か経っていることを考えるとそう思われても仕方がないけど、その問いは曖昧に濁した。ベッドどこ? と問う瀬呂に、わずかに震えた手で答えを示すとわたしを軽々と横抱きにしてベッドへと連れて行った。
見慣れた天井なのにそこにはわたしを見下ろす瀬呂の顔があって、まるで自分の家じゃないみたいだ。

「……んな顔できるようになっちゃったのね、瀬呂くん妬けちゃう」

どういう顔をしているのか分からないまま妬かれて、それでも悪い気はしない。妬くほどの感情をわたしに持ち合わせていることが。妬かせるような表情をしているのだとして、それは瀬呂のせいだと思うんだけどな。
これは夢? とぼんやりした頭でいる間に着ていたものがなくなって、肌が晒されていく。瀬呂も∨ネックのシャツを脱ぐから、鍛え抜かれた胸や腕を思わずじっと見てしまう。

「見すぎ。なまえちゃんのエッチ」

女の子が着替えを見られたみたいに胸元を腕で隠して、わざとらしく笑う顔にどうしてか心臓が鳴く。太ももに擦り付けられた熱い塊のせいでまた1度と体温が上がる心地がする。瀬呂も同じなのかな。

「こんな濡らしちゃって」
「っく、ん……あ、ぁ」
「……かわいい」

親指で淫核を撫でながら、潤むそこを見て満足そうに言った。未知だったはずの感覚に支配されて答えることも出来ずにいる唇に、自らのそれを再び重ねてくる。こわいような気持ちでありながら、すべてを受け入れるべく手を握り返す。来るんだな、と予感した。
操を立てていたつもりなんてないのに初めてであることを馬鹿正直に告げてやるのは癪で、黙っておいた。ああでも、瀬呂以外とはイヤだなって思っていたのは、充分操を立てていたことになるのかな。

「っい、う……ん」

今声を出したら苦悶のそれにしかならないと踏んで、口を抑えた。予想した通りというか以上というか、痛みが背骨を駆ける。
範太が口を抑えた手をよけてくちびるを奪ったので、すこしの安堵。これで、痛くないふりも多少は楽になるかと思ったところだった。

「痛い?」
「ちが、ん……、っ」

皺が寄っているであろう眉間から力を抜いて、久し振りだからかな、と誤魔化そうと口をひらこうとしたところで、入りかけたそれが止まる。

「……もしかして」
「ん?」
「初めてだったりする?」
「えっ、と……」

沈黙。こうも間が空いては否定も肯定するもどちらにしても照れが出てしまう。
ほんのすこし間を置いて、これは誤魔化せないと観念して黙って頷いた。

「んも〜、言ってよね」

瀬呂は呆れたように言って、頭をがしがしと掻く。それからわたしの頬を両手で包み込むと、いいの俺で? ときいた。

「……いい。瀬呂がいい」
「っ、お前ね……」
「めんどくさいならいいよ、やめても」
「いや、さっきのやつ下の名前でもっかい言ってみて」
「……バッカじゃないの」
「あらら」

わたしの罵倒を物ともせずに瀬呂は笑うと、そのままぎゅっとわたしの身体を引き寄せた。したいようにしてくれていいのに、続きをするわけでもなくそうされることにある種の心地悪さを感じていた。

「なぁ、ずっとなまえに会いたかったの……俺だけ?」

意地はってさきほどの簡単な要望にさえ応じなかったわたしに反して、瀬呂がいやにそうやって素直だからどうにも調子が狂う。
瀬呂だけじゃないって言いたいのに喉から先へその言葉が出ない。昔も、わたしがもっと素直でいられたら別れずに済んだのかな。

「こぉーんなに綺麗になって、俺の知ってるなまえがいなくなっちまったみたいでさ」

言いながらまたわたしの目を覗き込んで、頬を撫でる。目に焼き付けるみたいに、あの頃だってこんなに目を合わせたことがあっただろうかというくらいに。

「……瀬呂は、格好良くなったよ」
「マジ?」

なけなしの度胸でやっとそう言ったら随分と嬉しそうに声が高くなる。わたしなんかの一言で今でもこんなリアクションをしてくれるなら、自惚れてもいいのかな。

「わたしは……次会う時があれば、変わったなって思ってほしかったから」
「お望みの通りだよ、アセって手が出るくらいには」
「……思う壺じゃん」
「マジよ。またなまえちゃんがいい女って気付いちゃったワケ」

額に唇が柔らかくおちる。今が裸で抱かれる寸前までいったことさえ除けば、清く正しく思えるくらいのやさしさで。

「その、なんだ。もっかい始めてみる?」
「…………エッチを?」
「クソかよ、それも違わねーけどさ」

呆れながら歯を見せるその顔は満更でもなくって笑えてしまう。
次はもっと、素直になれるだろうか。どうせ「変わる」ならそうありたい。せめて可愛い女でいたいって思うのは、今からでも遅くないかな。



20210905

お相手瀬呂ご指定で「内容はおまかせで」とのことでした!
瀬呂くんはプロヒーローになったら国民の元彼だとファンの間で密かに囁かれる存在になると思ってます




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