好きになってたまるか

みょうじが俺の部屋を訪れたのは、ほとんどの隊士が寝静まったであろう夜中だった。俺はちょうど布団を敷いて明かりを暗くしたところで、普段だったらよほどのことがなければこんな時間に誰かの部屋へ行こうとは思わない。彼女なら気を遣って、用があったとしてもこんな遅くになるくらいなら明日にするだろう。今回ばかりは流石に例外だ。遅い時間でなくてはお互いに困るはずである。
戸を開けて、彼女が入り、閉める。その瞬間から部屋に夜が充満していくようだった。

「飯、食った? ……よね」
「ええ、まあ」

聞いておいてなんだけれど、先程みょうじを食堂で見かけたばかりだったから本当は聞かなくてもよかったことである。多分目があったはずだから彼女も同じだろう。もしかして俺、時間稼ごうとしてる?
一度そういうことになったのだから、ためらうことなんてない。ためらう理由があるとすれば、ここが職場であること──これも充分な理由だろうけど。

「こっちへおいで」

できるだけ優しい声色をつくって言ってみせると、勤務中こそシャキシャキ動くみょうじがあからさまに緊張した様子でゆっくりと隣へ座り込む。よく知った石鹸の香りが俺のそれと合わさってゆく。
寝間着姿でみょうじが俺の部屋にくるのなんか当然初めてのことである。それこそが、彼女がそのつもりでここへ来たということの何よりの証拠だった。その癖、少し距離をとって座る。手を伸ばせば難なく届く距離ではある。なんだかいじらしくて愛おしくて、血の巡りが早くなっていくようだ。
たまらんな、これ──そう思うのと、床に置かれた彼女の手に自らのそれを重ねた。

「山崎さ、ん……」

ためらいが消えた訳ではない。今も後ろめたさがずっと背中あたりを這うのを感じながらみょうじのくちびるを塞ぐのは、背中を這うそれと混じる興奮で肌が熱くなる。

「んっ、ぅ、ふ……」

合わさった唇の隙間から漏れる熱い息が部屋の温度を上げていく。みょうじが、俺の腰辺りをの衣服を強く握りしめて何かを堪えている。

「声、我慢できる?」

泣き出しそうな表情で息を整える彼女にこんなことを聞くのは意地が悪すぎるかな、とは思ったけどそんな顔をされると余計に虐めたくなってしまう。

「善処します……」
「ん、いい子」

そうして額に唇を落とすのを合図に、布団の上へみょうじを組み敷く。
潤んだ瞳に俺が写っているのが見えた。うっわ、愉しそうな顔してるわ俺。
彼女の目や緩く開いたくちびるを、待ち構えている表情だって思っていいんだろうか。喉の奥を閉めるような限りなく小さい呻きを聞いていると、彼女の一挙一投足すべてを都合よく解釈してしまう。みょうじが一体、俺自身のことをどう思ってるかなんて解らないのに。


「気持ちいい?」
「……はい、っ」

こういうことなら簡単に聞けるくせに。どちらを聞いたってみょうじは、答えてくれる。多分日和ってるのかな、俺。情けね。
昨日の話だってそうだ。別の隊士とひょっとしたらふたりで出かけたりするのかもしれないと思ったからなのか、よくわからん焦りに蝕まれている。これってもしかすると、なんて。

白く柔らかな肌を弄びつつ、その熱を帯びていくさまを実感していく。そこから察するに、感じてくれてはいるらしい。ただ、個人差はあれどそんなのは好きな男じゃなくたってそうなれるとは聞くし、事実男だって好きな女でなくとも可能だ。
俺の手や舌で乱れていくみょうじは実際可愛いしとってもイヤらしいのに、余計なことばかり考えている。それでも勃つもんは勃つ。そりゃもう痛いくらいには。男ってやつは本当に。

「ずるいな……」
「ん、どうして?」

不意をつくみょうじの発言の意味がわからず、正直に聞き返した。

「わたしばっかり、その……良くなってるので」

答えながらゆっくりと起き上がるとみょうじが、俺の寝間着の裾を捲りあげて下着をゆっくりと下ろしていった。

「え、ちょ……」

何をしようとしているかなんて頭じゃわかっちゃいる。ただもう、理解したときには既に考えた通りの状況になっていた。男にとって夢のようなそれ。

「まって、ぁ、なまえッ……!」

予定外のことが起きたことなんて今まで幾らでもあったはずが、こればかりは「待って」としか言えなくなる。根本から先の方までちいさな舌を滑らせ、手で腰骨あたりをくすぐるように撫でられては為す術もない。いや、もちろん力ずくならそれを辞めさせることは可能だろう、けれどすぐにそうする気にはとてもなれなかった。割と堪え性のあるほうだと自負があったが、ちょっとこれは無理かもしれん。

「すきですか、これ」

言いながら、凄艶に微笑んでみせる。
俺の反応が大きかったからか、再び先のあたりで舌を大きく使う。声我慢しろってみょうじに言っておきながらこの体たらくだ。それこそできるだけ我慢するよう善処しているけど。

「ぅ、く……あ、好き、好きだから、待って、っ」
「ふふ、かーわいい。退さん」

すっかり調子に乗って俺のを咥える顔がどこか恍惚として、それを上から見下ろすのもまたたまらん。そのうえ、普段とまるで逆転した立場に面目ないやら恥ずかしいやら。
身体に正直になるのなら、早く達してしまいたい。なにも我慢しなければじきにその通りになるだろうが、打破すべくみょうじの隙を伺う。それよりも心に正直になりたいからだ。

「……ッ、ぁ、っあ」
「いきそうですか?」
「は、……待てって、っ」

気づかれないようゆっくり彼女の胸元へ手を伸ばし、布越しに膨れ上がった中心を指先で撫で上げ、捏ね回してみる。
「ひっ」と小さく呻くその瞬間、頬を掌で包み込むように顔を上げさせるなり唇を奪う。直前まで俺のを咥えこんでいたそこへ舌を受け入れさせると、歯列をなぞるほどになまえの身体のちからが抜けていくのを肌で感じる。

「やられっぱなしじゃ我慢ならんね」

再びなまえを布団に抑えつけ、彼女が先程俺にそうしたように、少し乱れた寝間着の裾から手を伸ばす。その先を覆う小さな布は本来の役目を果たせないほどに潤んでいた。目には目を歯には歯を、不意討ちには不意討ちを、だ。

「俺の咥えてこうなっちゃった?」

わざと音を鳴らすように触れてやると、さっきまで勝ち誇るようにせせら笑っていたなまえはどこへやら。あっという間に蕩け切った顔。こっちのほうがやはり性に合っている、という今までうっすらあった自覚が確実なものになっていく。
そしてできるのならこの表情を彼女にさせられるのは、俺だけだと良い──と思いながら、下半身だけを互いに剥き出しにしたまま、みょうじの脚を高く上げて交わった。

「っ、あ! んんっ、く」

流石にいきなり奥まで突かれては声が我慢出来なかったらしい、慌てて口許を抑えようとする腕を抑えつけるとそのまま唇で塞いだ。上も下も深いとこで繋がって、やべ、溶けそう。
互いに息と体温が上がっていく。多分、同じように、同じ早さで。相性ってあると思っているんだけど、良し悪しで言ったら間違いなく良い方なんじゃないだろうか。相手にとってはどうか分からないが。

「〜〜っ、ふ、ぅんッ……!!」
「……は、ッん、なまえっ」
「さがる、んんっ、ぁ」

彼女なりに小さく抑えているのであろう、掠れた声が耳に甘く届く。甘ったるいくらいの快楽に溶け切った顔。俺は彼女の、こういう顔がもっと見たかった。

「みない、で」
「俺は見せて欲しいんだけどな」
「恥ずかしい……、っ」

前はみょうじの好きだと言った体位に合わせたために、途中からほとんど目にすることが出来なかった表情の変化がただただ愉しい。
ほんのり桃色に染まるみょうじの白い肌すら汚したくて、吸い寄せられるように唇を落として吸い上げる。案の定鎖骨の更に下あたり、赤くついてしまった痕跡に怒るかなって思ったけど、今のところ気づいていないらしい。今後の楽しみが増えてしまった。普段見える場所じゃないから、後で知っても許して欲しい。

背中にしがみつくみょうじの手があつい。それはきっと俺も、人のことは言えない。隙間風が肌寒い今の時期、むしろ丁度良かったのかもしれないな。
膨れ上がる亀頭を奥の、みょうじの反応が大きくなるところを狙って執拗に擦り付ければ、こちらを急かすみたいに内壁の収縮が早くなっていく。俺だって、早く彼女の中を汚したくてたまらないみたいにひくついている。
何度も互いの名前を呼び合いながら恋人にするように強く抱きしめると、彼女の奥に飛沫を叩きつけた。
応えてくれる彼女の腕を感じながら、少し自惚れた気分に浸るなどしている。これは恋ですか、なんてほのかに生まれてしまった問いは、そのまま布団の上を滑り落ちる。

互いの気持ちもわからないままこうしているせいか、余計に遠回りしているような。抱けば抱くほどきっと、距離を縮めるどころか遠い。ごく一般的な順序を踏んで仲良くなれていればこうはならなかっただろうけど、あのときの偶然がなければきっとただの職場の人同士のままだったのかな。それともそのうちふたりでどこか行こうと誘ったり誘われたり、したんだろうか。今となってはたらればでしかない、答えの出ない想像をしつつ息を整えた。



20210414


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