07

「名前、生年月日、本籍地は」

こうして土方副長にひと睨みされれば大抵の人間は恐れ戦いていろいろと白状してしまうことを、これまでの経験でわかっていた。が、この男は違う。なにも怖気付くことなく答え、飄々としていた。男は過激派攘夷志士のひとりではあるが、今回のことは属している一派は関係なかったらしい。
捕まえた時に横たわっていた遺体や男が鞄に詰めていた左腕は、わたしが思った通り全ての部位がそれぞれ別人のものだった。顔に至っては何年も前のものでもう白骨化している──それも葬儀中に窃盗騒ぎになったものだという──状況だったが、彼の姉だったということがわかった。

小柄で幼く見える外見からして、言われなければ5人も殺した──直接手を下していないものも含めて──とは思えない。歳が沖田隊長よりも上なことに更に驚かされる。


「……以前から捜索願が出されていた5名を殺人、殺人教唆、死体遺棄・損壊、した容疑がかかっている」

忌々しそうに調書を読み上げる土方副長の気迫には、男よりもわたしのほうが震え上がりそうになってしまう。むしろ何故この男はこんなにもきょとんとしていられるのだろう。

「そんな名前だったっけ、殺した奴ら。覚えてないや」
「あ?」
「誰でもよかったんだもん」

「むしゃくしゃしていた、誰でもよかった」なんて言う供述はよくあっても困るけど、よく聞く。この男に限っていうとむしゃくしゃしていた、は当てはまりそうにないが。
男の答えに、ますます副長が青筋を深く立てていた。それでもまだ、耐えているほうだと思う。取り調べで冷静になれなかったら、聞いておかなきゃならないことも聞き出せないで終わってしまう。

「ねーちゃんと同じくらいの歳で女なら、誰でもよかったの」
「ンなくだらねーことの為にやったのか」
「あんたら先にが殺したんでしょうよ、俺のねーちゃん」

男は鼻で笑い、先程までの軽薄な態度とは打って変わって殺気を滲ませる。彼の姉がどういった人間かは解らないが、一般市民とて斬り合いに巻き込まれて亡くなる──などという悲劇がありえないとは言い切れなかった。だからこそ、土方副長も少し黙り込んでしまったのだと思う。

「ほらぁ、君だって斬ったヤツらなんか覚えてないんじゃん!」

心底おかしそうに男が笑う。理解出来ないものを目の当たりにするとこんなにも気味が悪いのかと、胸のあたりがむかむかするのを抑えた。

「あんたらに殺されたお姉ちゃんのアタマだけなんとかくすねて、俺ずっと持ってたの。ほんとは全部手元に置いときたかったし、身体がないままなのってかわいそーでしょ」

話している内容さえ聞かなければ、ここが小洒落たカフェだとしても違和感のない振る舞い方である。聞かない訳にはいかないのでこんな供述をとりまとめて調書に記さなければならない。

「でも、全然違う人の体まんま繋げたって仕方ないし。だから、色んな人の繋げて……」

理屈がまったくわからない。聞いた内容をそのまま書いたら「ふざけるな」と一蹴されそうだが、これが男にとっての真実なのだからどうにか纏めるしかない。

「大変なんだよ、人間バラバラにすんの」
「だったらどうして……」
「みょうじ」

つい、思ったことが口をついて出てしまった。わざわざ手間も時間も、リスクだってあるというのに。
嗜めるように副長がわたしの名を呼ぶ。あ、すみません──と続けたところで男の顔が歪んでいったように見えた。わたしが今すべきことは、傾聴と書取のみに徹することだ。目で見て、耳で聞く。
男はそこで俯いて、口ごもって、声を震わせた。

「俺、おねえちゃんの、こと、……愛してたんだよ……、っ」

最愛の姉が亡くなったことをどこへも消化できずにいた悲しみが、こうして彼の歪みに繋がり、人を巻き込んでさらなる悲劇を生んでしまったのだと思うとやりきれない気持ちでいっぱいだった。今より幼かったころの彼に同情してしまうけど、擁護はできないししてはならない。人としても、真選組のひとりとしても。



20210810


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