06

※グロくはないですがいろいろと注意





捕まった男とは違う男が、なくなった左腕と思しきものを持って車で移動していったという連絡が入ったのは、山崎さんが潜入捜査に行ってすぐのことだった。
それまでの間に出た、この前の遺体の解剖結果からすると、既に行方不明で捜索願が出されていた女性ということがわかった。他にも短期間の間に4名の女性が行方不明になっていることが分かったりで忙しくしていたところにこれである。


いつだったかみたいに、原田隊長の運転で現地へ向かうこととなった。あの時とは緊張感も車のスピードもまるで違うけれど。
犯人の行く先がひとりだけとは限らないことから、それなりの人数とパトカーの台数で向かうことになった。山崎さんから聞かされたナンバーの車を追うのである。
通信機が先程から忙しなく他の車内の声を伝えてきている。


「お前ら、車酔いすんなよ」

原田さんが無線からの指示に返答するなり、わたし含め車両を同じくする隊士に声をかけて更にスピードを上げる。車体とともにわたしの体も揺れた。なるべく遠くを見るよう試みる。
早すぎる景色の流れからなんとか、雑木林を抜けて、山崎さんの潜入先とはまた別の住宅街に行き着いたことがわかる。あまり手入れの行き届いてない庭がついた戸建ての前で車は停り、男が降りてから走り出した。運転が別の人間だったことをわたしはそこで初めて認識することになる。

副長の指示によって、車を追って運転していた人物を押さえるほうと、男を取り押さえるほうとで別れることとなった。わたしたちは1番隊とともに後者だ。

男が入って行った家へ揃って走る。見かけからして古いことと、蔦の這う外壁から、手入れがまるで行き届いていないことがわかる。
別の車両から出てきた沖田隊長が先陣を切って、なんのためらいもなく扉を開けた。重苦しい音を立てた先に人はいない。

「御用改である!! 神妙にお縄につきやがれ!」


副長の掛け声を合図に、ひとりになってしまわないように数人ずつで別れて別々の部屋へむかう。既に死臭がうっすら漂っていることに心臓をばくばくさせながら走った。

「おい、いたぞ!」

近藤局長の声のする方へ足を運ぶ。その都度、先程鼻腔に漂った死臭が濃くなっていく。これ以上先に進みたくない気持ちを振り払うように、腕を振って走った。
卓袱台のあるリビングらしき場所を抜け、更に奥の部屋。ひと足先にたどり着いていた近藤局長たちの背中を見つけて安堵に近い気持ちでスピードを緩めた。
局長たちの視線の先に居る男は小柄で、沖田隊長と背丈は同じくらい。マスクをしているが恐らく幼い顔つき。体つきはより細く、犯人と断定するには疑問符がつく。

「なんなんだよ!!」

男は半狂乱になり、金切り声を上げた。
彼の横には人間だったはずのものが横たわっている。左腕だけはその身体にない。関節がよく見たら縫合されていた。わざわざ切断してからそうしたのか? いやまさか。でも、前に発見された遺体だって左腕はなかった。

「もう少しだったのに……僕の邪魔すんなよッ!」
「殺人に死体遺棄、損壊……これで捕まえねェなら俺たちの仕事はなんなんだって話だな」

真っ赤な顔をして叫ぶ男は、顔立ちも相まって子供のようだ。どうやら涙まで零しているらしかった。副長が刀を構える。わたしたちも刀に手をかけた。

「おねえちゃんに、会えるはずだったのに……う、っ」

わっと泣き伏した男が両手で顔を覆って、膝から崩れ落ちる。つまり、姉を亡くしているのだろうか。こちらに危害を加えるような雰囲気はまるで無く、気が緩みそうになる。

横たわる遺体を見遣ると、縫合された体の部位すべて、少しずつ骨格が違うことに気がついてしまった。左腕はきっとこれから縫い合わせるつもりだったのか──その瞬間せり上がってくるものを必死に押しとどめ、深く呼吸をする。わたしはちらりと横目で沖田隊長を見た。

「てめェ……」

沖田隊長は肩を震わせ、唸るように低くつぶやく。今にもその刀を振るい、男を殺しかねないほどの怒りを感じた。彼も親同然の姉上様を亡くしていると聞いている。だからこそ余計に理解ができないのだろう。

「総悟、落ち着け」
「指図すんじゃねェや、クソ方」
「……っ、フン」

背後からそれを感じたらしい副長が沖田隊長を窘める。沖田隊長の黒いオーラが幾らか和らいだあと、事情を聞くのは後だと一斉に取り抑えにかかった。斯くして、犯人らしき男は身柄を確保されたのである。


帰りの車内は、行きのそれよりは幾らか穏やかな空気であった。男の身柄は近藤局長たちが乗ったパトカーへ乗せている。

「山崎がさァ」

そんななかで、原田隊長が口を開く。

「この件から外れるってんで、副長が他の監察方と話してんの聞いちまったんだよな」
「え」
「なんかしってるかって……聞こうとしたんだが、その分だとお前さんも初耳なんだな」

こうして我々が車に乗り込んで現場へ急いだのも、山崎さんが副長へ連絡したからというのに他ならない。つまり、そのふたりの間でなにかしらのやり取りがあってそういうことになったのだろうと思う。これで犯人が途中で逃げたりしなければ、そもそも山崎さんの任務は一旦終了になるだろうけど。
ほかの監察──篠原さんや吉村さん──だってわたしは殆ど関わりはないけど優秀だって聞いている。万が一犯人に逃げられてしまっていたら、山崎さんを外すとなると真選組にとっては相当な痛手だ。そうしなきゃいけない理由はなんだろう。



20210726


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