05

※ 夢主不在回



平和だと思っていたらこれだ。彼女との旅行も延期だ。あーあ。
この張り込み仕事が入った時の電話口では拍子抜けするくらい笑って許してくれたけど、それはそれでそれほどショックじゃなかったのかな、なんて余計なことを気にしてしまう。それはさておき、だ。

ひとり捕まえたくらいでは他にも協力者がいたようで、結局犯人にとっては特に滞りなく目的が達成されているようだった。
張り込んで数日の丑三つ時──外で車が停まるような音がした後、俺が潜伏している物置部屋に大きな鞄のようなものを伴って入ってきたのは、想像より小柄な男だった。若く見えるが、成人ではあると思う。着流しの袖をまくる仕草をするその外見からは正直、犯人であるとは凡そ考えられない。もっと屈強そうな男を想像していた。
男は持ってきた鞄を開けると迷いなく、部屋の隅にあった棚からあるものを取り出してしまい込んだ。時間経過でそれらしい色からはだいぶ変わってしまっているけど、それはおそらく人間の左腕だった。間違いなく、この男は親玉かどうかはさておき事件の関係者だろう。

つけていたマスクを外すことなく「作業」に取り掛かったのでここ──床下から人相をはっきりとうかがい知ることは難しい。ただ、人体を切断するなんてことは生きたままだろうがそうでなかろうが、普通女性では不可能だろう。真選組にいて稽古を積み、刀を扱うことのできるみょうじのような女性ならもしかしたら可能かもしれないが……それさえ、切れ味のいい手入れの行き届いた刀だからこそだ。真選組や見廻組の外にそんな女がいるとは考えにくい。

こいつも、前に捕まえた男と同様に親玉とやらに雇われていたのだろうか。それとも、この間捕まえてしまったわけなので親玉自ら──ということもありえる。
ただただ淡々と、必要なことだけ済ませていったように見えた。手付きに少しの躊躇いもないことから見るに、この男自身は別に捕まることを恐れていないのだろう。そもそも前科者の可能性もありそうだ。


「もうすぐ、もうすぐだ……」

それまで沈黙を守っていた男が呟いた。もうすぐ、というと目的の達成を指して言っているのだろうが、ひとを殺して解体までした今、その更に先があるというのだろうか。
小声且つ早口で独り呟き続ける姿ははっきり言ってぞっとする。耳を澄ませてなんとか聞き取ろうとすると──


「もう少しでまた会えるよ、お姉ちゃん」

そう聞き取れた瞬間、背筋が凍る感覚がした。
まるで幼い少年のように無邪気な声でそう言ったのだ。成人男性があんなことをした後に吐くセリフとはとても思えないけど、この男の目的が余計に分からなくなったことは確かだ。

そこから俺はなんとか男から分からないように床下から抜けて、出ていくところを見届けようとした。建物を出てから少し離れたところに、それらしき車は停まっていた。車なら、ナンバーさえ分かれば足がつく。
遠目から確認しつつ持っていた小さな手帖に記していたところ、運転席にひとり座っているのが見えた。恐らくは女。男本人が運転してきた訳ではないらしい。

遠目からでも女の人相も把握したくて、相手にわからないようじりじり近づいてみる。嫌な予感がびしびし俺の心臓を直撃していた。座っていても、すごく見覚えがある背格好。見覚えなんてあるに決まってる。何故なら俺はその人物に何度も会っているから。

「……、っ」

息を飲んだ。
「知る」ために動くことが仕事なのに、この日よりも知りたくなかった事実といったらない。ついこの間共に過ごした女性──俺の恋人がそこにいた。
それからトドメを刺すみたいに、あれから着替えまで済ませたらしいさきほどの男が助手席に乗り込んで、エンジン音を立てて発車していく。一体どういうことなのかと幾ら考えても頭が回らず、副長へ連絡を取ることも忘れて、その場でただひたすらに立ち尽くしていた。



20210719


/

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -