02

※山崎さん×彼女のみ






みょうじに聞かれるままに喋りすぎてしまった気がする。
酒でも入っていなけりゃこうはならんかったはずだけど、あんなに興味を持たれるとは正直びっくりだ。おっさんの惚気話なんて聞いて楽しいもんかね。それとも女ってのは色恋の話が好きなもんなのかな。

聞かれたことに答えながら出会った頃を思い出していた。彼女のことは最初に会ったときから可愛らしくて、良い子だなって思った。もっと仲良くなったら、その可愛らしい見た目に反して意外と目的のために手段を選ばない所があって、そこも俺の目には魅力的に映った。
そこから好きだと思うようになるまで時間はかからなくて、決死の想いで君が好きだと伝えたのだった。奇跡的に彼女も同じような気持ちでいてくれて、やがてお付き合いをするようになった。夢のようだった。
思うように逢うことや連絡を取ることもままならなかったりもするけど、互いに想い合っていると解っているこの状況だけで至福だと。

日付が変わって今、身体は多少だるいが寝坊せずに済んでよかった。飲み会の次の日が休みなんて珍しい日に、寝て過ごすのは勿体ない。





「ちょっと、トイレ行ってくるね」

食事の最中、彼女が席を立つのを見送る。今日は昼過ぎから彼女と落ち合い、あたりをぶらつきながら過ごした。
小さな花がそこらじゅうに咲いた、控えめでありながら可愛らしい柄の着物を纏い粧し込んだ姿はそれはもう愛らしい。そんな彼女と手を繋いで歩くことが当たり前になっていることがいまだにくすぐったくも嬉嬉としてしまう。いい歳して中学生のような浮かれっぷりである。

その時、卓上に置きっぱなしだった彼女のスマートフォンが震えた。
内容とか、誰からなのかも気になるけど流石にそれは、と思ったところではたと気がついてしまった。画面上に通知された送り主が明らかに男の名前であることに。思わず食事を続ける手を止め、じっと見てしまう。丁度そこで画面が暗転した。

「ごめんね、お待たせ」
「ううん、おかえり」

それからぼんやり考え込んでしまって、彼女がそう言った時になってやっと戻ってきたことを知る。静かな店だというのに、足音すら俺の耳は遮ってしまっていたらしい。
識らない男の名前。職場の人間だろうか、それとも──と悪い想像をしそうになり、振り払うように箸を進めた。自分が幾らこれまで不運だったからって、悲観が過ぎる。そもそも男っぽい名前の女かもしれないだろ。そうでなくても、彼女にだって男友達くらいいても何ら不自然なことはない。


「このあとどうしようか?」

もう夜だったけれど、まだ早い時間だ。このまま食事を済ませて解散、というには少し寂しくありながら聞いた。

「あー……えっと、明日、早くて」
「仕事?」
「うん、そんなとこ。ごめんなさい」
「いいよ気にしなくて」

そう俺が言っても、彼女は困ったように両手の指先を合わせた。
本音を言うと残念だけどこのまま帰るしかないだろう。どこかふたりになれるところでゆっくりしてからと考えてはいたけれど、仕方がない。

「今度の旅行、楽しみにしてる」

そう、週明けにはかねてより計画していた旅行へいくのだ。それくらいには俺も彼女も仕事が落ち着くであろうことを希望的観測としてのことだ。
旅行は、お互い色々あるので1泊だけ。そのときに今日の分も埋め合わせるようにしたらいい。彼女が満たされたように顔を綻ばせて頷くから、俺もつられるままに笑った。この瞬間の為に生きてるって言ってもいいや。

「そうだ、後輩が君のこと可愛いって言ってたよ」
「……職場の? どうして?」

今まで彼女のことを他人に話す機会などほとんどなく、こう切り出しては疑問を抱かれるのも至って当然だ。
因みにその話した後輩が女性であることは、今は余計な情報だろうと伏せた。女隊士がいるっていうのはしっていたはずだけども。

「この前……彼女居るのかって話になって、それで君が写ってる画像を」
「えっ、やだぁ」

一瞬慌てた素振りを見せるが、本心から嫌がっているようではなく呵呵としている。

「ちゃんと可愛いの見せたよ」
「いつも可愛いよって言ってくれないんだー?」
「はいはい、その通りだよ」

可愛く唇を尖らせ聞かれてしまえばもう白旗をあげるしかない。そして、ひどく幸せだと沁みるように思うのである。怖いくらいに。



20200711


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