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いつも貰ってばかりだからと、ちょっとした返礼のつもりで贈ったものを、想像以上に喜ばれてしまってはっとした。

みょうじはそりゃ普段はすこーしばかり生意気なところもあったけれど、監察に配属されなくて良かったと安心するほどに素直だし、かと言えば仕事に関してだってそのよく回る頭を活かして、隊内唯一の女とはいえ男どもに負けない活躍ぶりだ。
更に人が好く、だからこそ放っておけなかったのか、このところ散々な状況でいる俺にいろいろと勤務外でよくしてくれていたのだろうと思っていた。だから気づけば、今だけはとずるずる甘えてしまっていた。恋人だった女にすら、ここまで腑抜けた様相を晒したことはなかったかもしれない。


泣いたり喚いたりこそした覚えはないが、ああして果てしなく落ち込んだ姿を見せてしまっては先輩として格好のいいものではない。──が、そんな様子の俺を見てみょうじのほうが泣いてくれたくらいなのだ。そう、彼女は警察組織にいるだけあって正義感も強く、悪意に怒ることができる人間だ。
そうやって、彼女の性格や普段の様子からここ最近の俺に対する行動にだって理由づけができていた。

ただ、先日連れ立って飲みに行って、そこで渡したお礼。
あのリアクションで、そのすべてがひょっとしたら彼女の個人的な感情によるものではないのか? という思い上がりに近いような想像が首をもたげているのだ。
どうしてみょうじが泣くほどにまで俺へ感情移入をして、俺の行動ひとつであんなに喜んでくれたのか。そこを考えれば考えるほど、俺自身になにかしらの想いがあってのことという答えに行き着いてしまうのだった。

これが俺の思い上がりだとしても、考えたとおりだとしてもだ。こんな中途半端な立場ではこれ以上どうしようもできない。俺は彼女だった女と別れなければいけないけれど、正式に別れた訳ではないのである。




俺は昼休憩を済ませると、副長の部屋へと向かった。
元々呼び出されてもいたし、呼び出しがなくとも自ら訪ねるつもりだったから好都合だ。向かい合い、顔を突き合わせてするのは次の仕事の打ち合わせだった。ひとつやふたつ仕事に手を出せなくなったとて、暇にはならないのが我々である。真選組に俺含め女っ気のない奴らが多いのはそのせいだろう。

要件は簡潔に済ませる副長のことだから、俺のことを呼びつけた本題自体はすぐに終わった。次は俺が話を切り出す番だ。

「それで副長、折り入ってご相談が」
「……なんだ」

書類に目を落としていた鋭い眼光がこちらを捉える。聞き入れて貰えるかどうかは正直未知数だが、言うだけならタダだろう。

「彼女に、面会を申し込みたいのですが可能でしょうか」

ぴくりと副長の眉が動く。
俺の意図するところが解らず、なんと答えたらいいのか決めかねているといったところだろうか。

「莫迦なこと考えてんじゃねェだろうな」

恐らく、彼女に対して「待っている」とかそういったことを伝えるだとかを指してそう言っているのだとわかった。

「ンなこと考えちゃいませんよ。第一、面会なら少なくとも見張りが着くでしょ」
「……まァな」
「俺は区切りをつけたいだけです」

副長は俺の申し出を飲み込み、咥えた煙草を口元から離して煙を吐き出した。指で灰皿に火種を落とす。

「解った。それ自体は構わん。日程はまた後でいいな?」
「ありがとうございます」

思ったより渋られずに許可が降りた。
副長は俺の事情をしっている。だからきっと、当日立ち会いに着くのも恐らく副長となるだろう。それなら俺も気が楽だ。
彼女の目的がなんであれ、交際していたのは事実だ。その間だけは楽しく、幸せに時を過ごしてきた。
それなのに話ができないままもう会うことがない──それではさすがに踏ん切りもつかないだろう。

それでは俺はこれで、と立ち上がりかけたそのとき、副長がほんの少し視線を迷わせ、俺の名を呼んだ。

「あいつ……みょうじな。いつだったか取調べの後、あの女に話しかけられてな」
「?」

副長にしてはめずらしく奥歯になにか詰まったような、言葉を選んで熟考してるような口ぶりである。俺を騙していた立場の女が、みょうじになにを話しかける用事があったのだろう。

「言葉じゃ山崎の身を案じてるようだったが……あらァ挑発だな」

みょうじに向かって挑発? 一体どういう意図なのだろう。

「奴も奴でとんでもねェ表情してやがった。放っときゃ掴みかかってたかもしれん」

放っておけば、ということはそんなみょうじを止めたのは副長なのだろう。彼がそう表するみょうじの表情が咄嗟には想像がつかず、その場に居たかったと少し惜しい気持ちになった。

「あの女とどういう付き合いがあったかしらねェが、警戒しとけよ」
「……はいよ」

返事をしながら、これまでのような対話にはならないであろうことを覚悟した。あの頃の表情や口調、そのどれにも合致しない可能性がある。俺のしっている彼女は、もうきっとそこにはいないのだ。



20220524


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