「え、この後誘われたの?」
「……誘われたって言っても、ピアス開けて貰うだけだよ」

更衣室で着替えながらそう答えると、より驚いた顔で友人は目を見開く。脱いだものをロッカーに入れたトートバッグへ放り込んでゆく。木のロッカーって醤油の匂いがするなぁ、とか思いながら。
ほかの女学生も同じように着替えをしながら談笑しているせいか、彼女の驚きの声すら喧騒のなかへ溶ける。
ピアスって、と零れるようにつぶやくと、更に友人は続けた。

「それはなんかエロい」
「……やっぱり?」

なんかエロい気がしていたのはわたしだけではないらしい。出来るだけ考えないようにしていたものの、第3者からそう言われてしまうともうそうとしか思えなくなる。なんでかと聞かれると説明し切れなくて困ってしまうが、緊張しているのは確かだ。
友人が茶目っ気たっぷりに笑う。いつの間にやら着替え終わった彼女は櫛やアメゴムを手に持って構えている。

「そのままでいくなんてこと、ないよね?」



「おまたせしました、山崎先輩」
「……どうしたの、髪」

女子更衣室の前で待っててくれたらしい先輩に声をかけると、やはりというか髪型に突っ込まれる。友人にされるがまま大人しくしてたらこうなったけど、変じゃなかっただろうか。確かにこの髪型なら、耳元が出るのでピアッシングしやすいだろうけど。なんかヘアカタログにあるような、簡単とか書かれてる割に手順が省略されまくってて自分じゃする気が起きない髪型である。なんなの、フィッシュボーンをつくるって。そこが出来ないから調べてるのに。──余談が過ぎた。
友人曰く、「纏めてアップにしただけだよ」だそうだけど、それにしては少し手が込んでることがわたしにだってわかる。

「変、じゃないですか」

恐る恐る尋ねながら先輩の顔を見上げると、笑みをたたえた穏やかな目にわたしが映る。

「全然。かわいいよ」

頬が一気に熱を持つのが、自分でもわかった。目を見てかわいいとか普通に言えちゃう人なのかこの人は。なんて罪な。
多分よくしっている同級生とかだったら冗談半分に言ってるだろうこともわかるからこちらも冗談で「知ってるー!」とか「もっと言って!」とか言えたかもしれない。山崎先輩相手だと、なんか変だ。わたしが。

「え、と……あ、ありがとう、ございます……?」
「っはは、なんで疑問形?」

冗談で言ってないことを、どうしても期待してしまう。途端に何を言ったらいいか分からなくなる。そのせいか、つられるみたいにわたしも小さく笑う。
行こっか、とゆっくり歩き出す先輩について行くと、より周りの視線が気になって俯いてしまった。男子更衣室から丁度出てきた近藤先輩たちにも、あらためて挨拶のひとつでもしなくちゃと思うのに。

「ザキ、お疲れさん。みょうじさんも」
「お疲れ様です」
「あ、え、お疲れ様ですっ」

山崎先輩が答えたのに続いて、わたしも慌てて言う。近藤先輩の隣には沖田先輩と土方先輩がいる。その後ろには坂田先輩も。我がサークルの男前勢揃い。すご。
近藤先輩は男前というよりゴリラとか言われがちだけど、わたしは決して見目は悪くないと思っている。

「おい急に止まってんじゃねーぞゴリラ、後ろつっかえてんだよ」
「少しくれェ待ちやがれ、カルシウム不足か?」
「あ? マヨネーズ過剰摂取してるヤツに言われたかねェんだよ」
「そうだそうだー、土方死ねー」
「総悟、テメーは黙ってろ」

後ろで不満を垂れる坂田先輩を土方先輩がギロリとひと睨み。彼のことをカッコいいけどこわい、と女のコたちがよく話すのはこういうとこなのかな。坂田先輩も負けじと悪態をつくと今度は沖田先輩も何故か坂田先輩の方に加担する。この人は土方先輩をおちょくるのが楽しいらしい。

「喧嘩すんなって。……で? ザキはみょうじさんと帰るのか?」
「ええ、まぁ」

近藤先輩が3人を窘めつつ、山崎先輩に問うので彼は短く答える。

「アベックの邪魔すんなァ感心しやせんぜ、近藤さん。早く行きやしょう」
「エッ、ふたりってそうなの!?」
「へぇ、やるじゃんジミーの癖に。そっか、お泊まりしたんだっけ?」
「お泊まり!? そんな破廉恥な!!」

沖田先輩が入口前から少し移動しつつまたそんなことを言うから、他が完全に信じこんでしまっている。大きな声で騒がないで欲しい。まだ他に学生がここにいるのに、更にウワサにでもなろうものならやりづら過ぎる。いや、既になっているのか?
近藤先輩も本気で驚いてるし坂田先輩は山崎先輩を肘でつついたりなんかしてる。土方先輩──はあまり関心がなさそうだけど。
ていうかアベックって言い方、古すぎないかな。わたしもよく意味わかったな。ほんと、みんなしてこういう男女のアレやソレをエンターテインメントにしたがるんだから。

「だから、今朝違うって言ったじゃないですかっ」
「さて、どーだか」

わたしの否定に対して、ニヤリと口角を吊り上げる沖田先輩。坂田先輩がなにやら山崎先輩に耳打ちしてるのが見えた。

「ちょっ……旦那! んなわけないでしょ、やめて下さいって」
「なんだ、つまんねェの」

こちらもこちらでからかわれたらしい。なんか坂田先輩の発言がわたしの友人と被る。

「……まだこれから、です」

顔を少し朱に染めてそう答えた山崎先輩が一体なにを聞かれたのか、わたしにはまだ解りそうになかった。



20191018

男も女もどいつもこいつも



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