寝られる訳がなかった。寝たフリを続けて気がついたらもう外で鳥が鳴いているし、隣でなまえちゃんはすやすや眠っている。それはもう羨ましいくらいに。女の子が隣に寝てれば何もしてなくても朝チュンと言ってもいいのだろうか。ただ、何もしてないというには色々ありすぎたし、何かあったというには弱い。情けない結果だ。その結果のせいなのか、なまえちゃんのこの警戒心のなさである。ぐっすりじゃんね。
あーくそ、頭がガンガンする。二日酔いにより無事死亡。そして中途半端に記憶がある。やらかした、と起き上がってみて真っ先に思った。唯一の救いと言えば今日は講義が2限からであるということくらいだ。早めに行って仮眠でも取るかな。遅刻するよりはマシだろう。

隣に眠るなまえちゃんの髪を柔らかく撫でると、朝食でも作ろうかと立ち上がった。作るっていっても簡単にだが。彼女も食べていってくれるかな。
作り置きしていた味噌汁を温め、冷蔵庫から取り出した卵で目玉焼きをふたりぶん。お米はラップに包んだものが幾つか残っていたからそれをレンジへと放り込むと、そこで欠伸が滲む。もしなまえちゃんが朝ごはんいらないって言うなら自分でぜんぶ食べよう。

「おはよう、ございます……」
「わ、びっくりした」

いきなり後ろから挨拶が聞こえて振り返ると、ベッドから降りたらしい昨日の格好のままのなまえちゃんがまだ眠たそうに目元を擦っていた。

「ごめんね、昨日……朝飯食べてく?」
「え、いいんですか」
「勿論。昨日のお礼、迷惑料っていうか」
「迷惑なんて、そんな……でもせっかくだから頂きます」

昨晩のアレで怖がらせてしまっていないかがひたすらに心配だった為に、断られなかったことで安堵した。
自分の分とは別にもうひとりぶん朝食が並ぶのは新鮮だ。なまえちゃんには向かい合う形で座って貰う。

「目玉焼き、何かける?」

自分のに少しだけ塩を振りかけながら尋ねる。

「それじゃ、わたしも山崎先輩と同じで」
「そっか、はい」

塩の容器を渡すと、なまえちゃんも同じように控え目に振りかけてこちらに返してくれる。

「いつも塩?」
「いや、気分次第……ですかね」

いつも塩? ってなんだ。このクソみてーな質問、と自分で聞いておきながら思う。普段は気分次第なところを俺に合わせてくれたと分かったせいでより罪悪感が倍率ドンである。会話ヘタクソかよ。彼女とひと晩一緒だっただけで動揺しまくっているせいもある。童貞が過ぎる。一応違うはずなのに、もはや違わない気がしてきた。
俺が凹みかけたところで、みょうじちゃんが味噌汁を一口啜る。

「お味噌汁美味しい、作ってるんですか?」
「え、ああ……一応」
「すごい! 今度教えて下さいよ、わたし自炊始めたばかりなんで」
「俺でよければ」

なまえちゃんのほうがよっぽど会話上手では? と思って死にたくなってしまう。ただしれっと次を思わせる会話になってくれた気がするので生きよう。

「ところで、今日何限から?」

俺のせいで遅刻させてはいけない、と今日の講義について聞いてみる。

「1限、です……先輩は?」
「俺は2限」
「そ、それじゃわたしは先に……」
「いや、いい。一緒に行こ」

どうせ2次会にも行かずに一緒になまえちゃんと消えたのは周りも気づいていることだろう。それならもうそういうことにして勘違いさせてしまえばいい。特に彼女にセクハラかましてたアイツにはそう思わせてしまいたい。正直彼女が怯えてるのに気がついた時も、ああそういえば、なんてアイツの言った言葉がチラついて不愉快になってしまったくらいだ。
それになにより、もうなにも出来ないまま離れ離れなんてのはごめんなんだ。

「はい」

俺の邪な気持ちとは真逆に、なんの濁りもない笑顔を見せながらそう返事をしてくれた。嫌そうでもなく。そう見えたのは俺の願望が過ぎるせいじゃないと信じたい。



「家近いの?」
「ええ、学校にも山崎先輩の家からも徒歩で行けます」
「ふーん、今度行っていい?」
「えっ、あ……えっと」
「っあは、ごめんって」

冗談、って続けようとした。はずだった。

「……あまり、綺麗な部屋じゃないですけど」

少し困ったように、肯定ととれるような返事。照れくさそうに頬を染められると、俺まで照れてしまう。

「よう、ザキとその女」

なにか色々やらかしたバチが当たったのかなんなのか、良く知った蹴りが腰に飛んでくる。毎度毎度の挨拶なのに、自分の学習能力のなさに辟易するよ。今回も前のめりにぶっ倒れる。なまえちゃんの前でこれは、格好悪い。というか後半部分、聞き捨てならんな。

「ザキと……その女? ……はっ」

意味がわかったのか、顔を真赤にしてぶんぶんと首を横に振る。

「おっ、沖田先輩おはようございます! あと山崎先輩とはそういうんじゃないですっ」
「へえ、2次会も来ねェでふたりで消えたってェのに?」
「な、なんでわかっ……じゃなくて!」
「みょうじちゃん、墓穴掘ってるから」

ゆっくり片膝をつきながら起き上がりひとツッコミ。ひょっとしてみょうじちゃんが答えるより先に否定も肯定もせず、思わせぶりにかわしておいたら良かったかなーとか思ったりして。まだ本人前にして苗字でしか呼べない癖にね。



20190901

外堀から埋めていくスタイル?



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