入ったサークルはどういうわけか美男美女揃いで、普通かそれ以下(なはず)のわたしは今から新歓コンパがはじまるというのに肩身の狭い想いをしていた。
サークルに入って1週間経ってわかったことは、メンバーの見目はよくてもほとんどの中身が残念なことである。却って親近感が湧くというかなんというか。ストーカー(それもふたり!)だったりマヨラーだったり、極度の甘党にドS。美人でもバイオレンスだったり。それでも劣等感はそう変わらないのだが。
大学のサークルともなれば全員参加できずとも人数も多いので、コンパは居酒屋の大部屋(ちなみに座敷である)で開催された。乾杯も済ませて全員自己紹介──友人は堂々と彼氏募集中と言い放ったので流石としか言いようがない──をサラッと済ませ、お酒を嗜みつつ会話を楽しむ。わたしを含め新入生は未成年なので勿論ソフトドリンクだが。

「なまえちゃんさー、彼氏いたりする?」

隣に座った男の先輩──たしかこの人も彼女欲しい的なことを自己紹介で言ってた気がする──はどうやら早い段階で出来上がっていたらしく、真っ赤な顔でもう上手く喋れていない。せめて肩を抱く腕を離して欲しい。

「いたことないんですよね……」
「まじで!? てことは処女なの? 可愛いのになぁ、貰ってあげよっか?」
「いやぁ……あはは」

いや声でかいわ。バカ正直に答えるんじゃなかった。周りに聞こえて欲しくない、正直居心地の悪い話題である。仰る通り色々なものが未経験ではあるがさすがに貰われるなら好きな人とが良いし、お願いしますなんて思ってもないのに言えないし。うーん、初対面とかじゃなければ冗談でお断りしますなんて言えたのかな。

「……あの、みょうじさん」
「はいっ」

反対隣からわたしを呼ぶ声がして振り返るとそこには、えっと、バドミントンの人。名前なんだっけ。

「向こうで飲みもんぶち撒けちまったみたいで、手伝ってくんないかな」
「え、大変! すぐ行きます」

本音言うとわたしじゃなくてもいいような救援要請だったが、助かった! と思ってしまいすぐ席を立つ。
するとミントン先輩がわたしの隣にいた先輩に向かって詫びる。

「スマンね、話し中に」

すると言われた方は、いいとこだったのに、と不満げではあったもののわたしを解放してくれた。いいとこ、とは……。

「あいつ、飲まなきゃああはならないんだけど」

言いながら、別の席を案内された。どうやら飲み物をぶち撒けたらしい形跡はない。あれ? と首を捻ると先輩はわたしの疑問を察したらしい。

「ああ、嘘ついちゃった。お困りのようだったから」
「えっ……」
「余計なお世話だったかな?」

脳内とはいえミントン先輩と言ってたことを恥じる。何この人、控えめに言って神様? もはや後光が差しているように見えるよ。

「めっっっちゃ助かりました!!」
「それはよかった」

言いながら先輩は口角をあげる。

「ザキてめェなーに後輩口説いてんでィ」
「そんなんじゃないですってば」
「不能にしてやらァ」

沖田先輩が来たことにより周りの女のコたちが色めき立つ。みんなキャッキャしてるけど彼とんでもないこと口走ってるよ。
ザキ、と呼ばれた先輩の元にあった空のグラスに、瓶ビールを沖田先輩が並々注ぐ。
ああそうだ、山崎だからザキなんだ、とそのお陰で苗字を思い出した。あ、先輩ってピアスホールあるんだ意外……なんて関係ないことに気づいてひとり笑う。



「飲みすぎたーー送ってって、みょうじちゃん」
「え、あ、お家どこですか……」
「案内する、から。歩きで行ける。終電平気?」
「わたしも近所なので」

わたしはここからだと家が徒歩圏内なので、夜遅くにひとりで歩くことになるということ以外の問題はない。それに、さっき助けて貰ったしそれくらいなら、とも思ったし、この人ともう少し話してみたいというのも本音だった。

「さっきは、ありがとうございました」
「んーん、俺がきみと話してみたかっただけだから」

話してみたいと思わせるなにかがわたしにあったのかどうかはその言葉だけで窺い知ることはできなかった。でも、同じことを考えていたようで少し驚く。

「それってどういう……」
「今は内緒」

理由を聞くと照れたように笑う横顔がそう答える。肩を貸しているせいで距離が近くてさっきからずっと心臓が言うことを聞いてくれない。この状況だけでそんなことになってるのは、わたしが免疫がなさすぎるせいなのかな。さっき他の先輩に肩を寄せられたときとは明らかになにかが違う。

「ついたー」
「……それじゃ、大丈夫ですか。あとはおひとりで」
「大丈夫じゃないねぇ」
「えっ」

かいだんだるい、とすべて平仮名に聞こえるみたいに喋る山崎先輩が心配にもなったのでそこまでご一緒することにした。

「ありがとうみょうじちゃんー」
「いや、あの、さっきの借りもありますし……」
「ううん、きみはいいこだねぇ」

いいこいいこ、とわたしの頭を撫でる。玄関先でわたしにもたれかかりながら。この人、このままここで寝ちゃいそうだな。

「ここで寝ちゃだめですよ、風邪ひきます」
「んーーわかったから連れてって」
「もう……どこですか」
「あっち」

すっかり甘えたモードな先輩を、先ほどと同じように肩を貸して部屋へと連れてゆく。広くはないが男性が住んでいる割に片付いた部屋で、ベッドを見つけてそこに座らせる。それじゃあわたしは帰ります、と言おうとしたところで手を引かれて倒れ込んでしまったためにそれはかなわなかった。
そこでわたしは如何に愚かな間違いを犯したかということに気づく。これでは自らひとり暮らしの男性の部屋に上がり込んだようなものである。それにしたって、そんな漫画みたいなことが自分の身に降りかかるなんて思わずすっかり油断していた。

「……勃っちゃった」
「たっ!? っそ、それは、あのっ」

一瞬意味が分からず、どういうことか訊こうとしたところではたと気がつく。抱き締められている今、お腹あたりにぐっと押し付けられた塊に。まさか色気とは無縁なはずのわたしがそういう対象に見られることがあるなんて、夢にも思わなかった。

「ね、いい?」

至近距離で小さく囁くその赤い顔に、ギラついた瞳にわたしまで心臓がぎゅっとなる。こんなふうに男性に迫られたことが初めてだし、断るにしても応じるにしてもどうするのが正解なんだろう。そう考えあぐねてるうちに唇が重なる。



20190817

普通に恋がしたいはずだった



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