特殊警察に定時なんてのはあってないようなものだけど、心持ちだけは定時ダッシュのつもりで急いで退勤した。なにしろ非番前日なのだから、今の俺はもはや向かうところ敵なしだ。

目的地へ着いたらどうしようか、腹もそれなりに減ってるし晩飯か。それとも、などと考えながら到着しそうなところで目的の人物へ「鍵開けて」なんていそいそとメッセージを飛ばし、よく見慣れた扉の前でドアノブを回す──それが非番前日のの恒例となっている。その音に気付いたらしい足音とともに現れたのはここの家主で、ただその姿だけは普段と違っていた。

「お疲れさま」

天使なのか小悪魔なのか毎度わからなくなるような笑みを浮かべてそこに立っていたのは、俺がついさきほどまで着ていた、真選組平隊服を纏った家主──なまえだった。

「……え、なに、その格好」
「んふ、可愛いでしょ」

微妙に噛み合わない会話のなかでとにかくドアを締め、よろめきながらも視線を上下させた。
俺よりはすこし小さな身体が、勤務時の俺と同じものを着ている。ただし、俺と違うのはその脚にズボンを履いていないことと、サイズが合っていないせいかその服に着られている感が否めないことだ。袖なんかはもう長すぎて、指先が少し見えるか見えないかといったところ。
まず、言いたいことは山程ある。とりあえずは、どうやって手に入れたかだ。俺と同じものを着ている訳だけど、べつに俺のをあげた覚えはないし、知らんうちに数が減っていたなんてこともない。

「入手経路は?」
「通販!」
「……っ、お前なに買ってんの!?」

取調べのような疑問に対して元気よく答える彼女に、ご近所へ迷惑をかけることも頭からすっかり抜けてそう叫んでしまった。ドアを閉めたあとで本当によかった。通販といっても、職場──真選組は隊服をそんな外部にむけて売るようなことがあるはずないから真っ当な経路でないことは確かだ。売る方も売る方だけど買う方も買う方だな!

「メル○リで売ってたんだもん」
「いやなんでだよ買ってんじゃねーよ」

てことは他人のかよ。このあいだバックれてった新人かな──と顔も思い出せない束の間の元職場仲間へ苛立ちを募らせる。
図らずも彼シャツ、ならぬ彼ジャケ状態になっていたその姿は愛らしいし抱きしめたいと思うには充分なのだけど、それまでの経緯が素直に行動に移すことを押し留めていた。

「こら、脱げ」
「きゃー退くんのえっちー」
「そういうのいいから。早く」

いやらしい意味などないつもりで、隊服の襟首を引っ張ってゆさゆさと揺らす。結果、その所為で裾が上下し太腿の付け根が見えそうでいちいちムラッとくることにも、子供のようにキャッキャとわらうなまえにもいらいらした。
自分から脱ぎそうにないことに痺れを切らして、親のツラより見慣れた隊服のスナップボタンをぷちぷちと外していく。どうやら下着も着けていないらしい。
そもそも、よく知らん男のお古で彼ジャケ状態になってはしゃいでんじゃねーよ。

「それ欲しかったならなんで俺に言わんの」
「びっくりさせたいじゃん、折角なら」
「したわ、悪い意味でな」
「いやあそれほどでも」
「ほめてねェって」

空腹時はそういう欲求が増すらしいって話だけど、今それが実感としてわかる。頭と、別のところも血と熱が集中している。それに抗うことなく生尻を強く揉みながら、しろい首筋に吸い付いた。あ、なんて艶めかしくかわいい声が上がるので、他によくしっているなまえの弱い箇所をひたすらに愛撫した。ここなんだろ、と確認して念を押すみたいに。

「や、ここ玄関……、っ、あ」
「そうだね、だから大人しくしようね」
「んん、……だめ、ああっ」

隊服は早々に脱がせて床へ放った。そのかわり俺が今しがた脱いだ、派手に柄の入った着流しにかろうじて袖だけ通させた。どうせ男もんを着るならせめて俺のにしてくれよ──そんなみみっちい独占欲は口では言いたくなくて、ひたすらなまえに触れる手や唇、肌の熱で解らせたかった。立っていられないのか、下駄箱にうしろ手をついて悦楽に耐えしのぶ様子は扇情的でいい。前戯には足りすぎるほど潤んで膨れた淫核を指先で撫でてやれば、寄せた眉が困ったように垂れ下がる。背を仰け反らせるたびに、着流しが肩から落ちてゆくのにも身体の中心を熱くさせるには充分だ。

「さがる……、んあ、っいき、そ」
「うん。それで、誰の手でイくの?」
「あ、……退の、っ手、んう」
「俺の手で、なんだって?」
「いく、イくの、っ……や、あ! っ、!」

自覚を促すようにひとつひとつ答えさせれば、派手に体を揺らして達した。もう早く交わりたくてずっとテント状態のトランクスを降ろすと、片脚を俺の肩まで上げさせて中を広げるように腰を進めた。
ゆっくり形を馴染ませるように行き来しながら、手でなまえの髪を除けて肩や鎖骨をきつく吸い上げて紅い痕を残してゆく。普段滅多にこんなことやらんけど今回だけは、なまえが誰のもんかって解って貰わないと。

「退、おっきくなっ、て、あ」
「なまえが、っキツく締めて……、んっ、でしょ」
「ちが、う、んんっ、あ」

彼女の細腰を両手で抑え込むと一気に、強く揺らしていく。猥雑な音が擦れ合う粘膜からひっきりなしに響いて、応えるように熱い息が漏れる。内壁の収縮が早くなって、なまえがふたたび満たされる瞬間までそう遠くないことをしった。それならもう加減はいらんでしょ。

「早くない?いつもより」
「なにが、っ」
「え、イきそうなんじゃないの?」
「そうじゃっ、ない、っはあ、あ」
「じゃあ、いいよね……っ、激しく、しても」
「やだ、まって、!」

ここ玄関、とか言ってたことがもはや懐かしく、なまえが制するのもスルーして追い込みをかけた。彼女の背後に下駄箱さえなければとっくに立てなくなっていただろうと、くたばりかけの足腰を酷使しながらひとりほくそ笑む。なまえに袖を通させていただけの着流しはかろうじて手に引っ掛けただけとなり、後ろ身頃なんてとうに腰より下に落ちていた。あーもうめちゃくちゃだよ。

「またいくから、っあ゛、退……っ!」
「俺のでいって、……っ、なまえ、あ」

できるだけずっと奥で、身体に覚えこませるみたいにして、身体の熱さすべてを長く濃密に吐き出した。玄関でやるなんて覚えたてじゃあるまいにと自分に呆れる。ただこれもなまえの思惑通りだったならそれでいいのかもしれない、と満足げに頬を染め上げる彼女に口付けながら思うのだった。わざわざ着てみせるってことは、そういうことにしたっていいだろ。

「……とりあえず、これは没収」
「楽しんでたくせに」
「うるさいな。代わりに俺のやるから」
「どっちでもいいけど、なんでそこまで」
「わかんねーならいいよそれで」



20210719
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イライラしながら勃つのが似合う男

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