※現パロ
※双方喫煙描写あり
※やってるけどぬるいしカップルではない



8月の3週め、週末がやってくる。茹だるような暑さで外に出るのも嫌なくらい、太陽がじりじりと照りつけている。本来なら出掛けるのも嫌だけど、約束してしまったのだから仕方がない。
濃すぎない程度に化粧をして、可愛いと言うよりは脱ぎやすい服を選んで、華奢なヒールを履いて出かけていく。名目上は貸した傘を返してもらうためだけど、どうせ数時間後には全部纏わない姿になると予感しながら。

最寄り駅から電車に揺られて、聞いたことはあれど降りたことのない駅を降りてゆく。それだけでも汗が吹き出して、扇子を持って来たのもまじない程度にしか役に立たない。ハンディファンにしておくんだったな。化粧は汗をかいてもいいようにしてきたけど、髪が首もとに貼り付いて不愉快だ。
初めて出る改札口からすぐそばの階段を降りていくと、色味はモノクロでありながら派手な柄シャツを纏った男がこちらを見て、わたしだとわかると片手を上げた。初めて会った数日前の雨の日、退と名乗った男である。彼に最寄り駅まで送って貰ったものの雨が止まなくて、「今度返して」と傘を押し付けて帰ったのだ。


「さがる」
「やあ」
「待たせちゃった?」
「いんや。……行こっか」

食事会だと聞かされていたが結局は合コンのような催しで知り合って、なんとなくふたりになって、なんとなく気があって、送ってくれた駅の階段下でなんとなくキスした。
手を繋ぐわけでもなく、ご飯は食べたかとかそんな当たり障りのない会話をしながら並んで歩いて、結局はコンビニにたどり着いた。それぞれ煙草と飲み物だけ買って、退がひとりで暮らしているという少し年季の入ったアパートへまた歩いた。






「退も、煙草吸うんだね」
「あん時は全面禁煙だったろ。もう家でしか吸えんよ」
「たしかにね……」
「なまえは、彼氏になんて言ってきたの」
「いたら男の部屋なんか上がらない」
「それもそっか」
「そっちは?」
「同じ。いたら女なんか呼ばねェ」

違いない、と笑いながらわたしはもう短くなった煙草の火を、元からそこそこ吸い殻の溜まっていた灰皿の上で揉み消す。エアコンの効きが悪くて、買ったばかりの飲み物が進む。ソファーとベッドが、ローテーブルを囲んで角になるように置かれているこの部屋で、すこし迷ってからベッドのほうに座ったのはあざと過ぎただろうか。──でもいいよね、わざわざこの配置してるほうがよっぽどあざといもん。
退が深く煙を吐くから、煙の先に見える厚い唇をわたしは目で追った。物欲しそうに見えるように。

「じゃあ、最後に『した』のいつ?」
「やだ、なんでそんなん聞くの」

した、の中身をわかった上で恥じらう素振りだけはしたけど、それさえも見透かすような三白眼が「そういうのいいから」と嘲笑うように見えた。まるでAVの冒頭のようだな。

「うーん、……先月くらいかな」
「へえ。溜まってんの?」

弧を描く唇と、垂れ下がった目尻が楽しそうな表情をつくる。言って欲しいこたえ、決まってんだろうな。

「ちょっとだけ。……さがるは?」
「知りたい?」

言いながら、先程わたしがしたみたいに退も火種を潰した。頃合だな──と思ったわたしはできるだけ肩の力を抜いて、その時を待つ。立ち上がった退が隣にきて、短いスカートから伸びた太腿に触れて、濡れた唇を合わせた。つよいミントの香りが、退からする。

「……いい?」
「どうせするなら……早く、しよ」

もう待てない、と言った調子で吐息まじりにわたしは答えて、背中に腕をまわした。エロいねー、って笑う退のほうがよっぽどエロくて、正直腰にきた。




「……っ、上手いね」
「フェラ上手い女、微妙にイヤじゃない?」
「俺は好きだな。……ぁ、それいい、っ」
「これ?」

咥え込むには大き過ぎる陰茎を、舌と手を使って愛撫する。もうふたりとも、着ているものなどなかった。
退は先を攻められるのが好きなようで、反応が大きくなるのがかわいい。ベッドに座る退が感じて上を向くのと、喉仏が上下するのをベッド下から見上げた。跳ねた襟足の髪から、少し垂れた汗がまたいい。
どうにもたまらなくなったのか、退が手探りにエアコンのリモコンを探し当てると2度ほど温度を下げたらしい音がした。

「上がっといでよ」
「……、うん」

退が自らの太腿をかるく叩いて合図するから、わたしはそこに跨るかたちになる。自分で濡れたそこを指で広げて、中を埋めてゆく。上ずった声が上がると、わたしも深く吐息を漏らす。
そこからお互い好き勝手に動いて、息が上がってゆく。長い前髪から覗く、退の感じてる顔もたまんない。
2度も下げたのが嘘みたいに汗が吹き出る。むしろ2度上げたみたいに熱くて、暑い。こうも身体が熱くなってたまらないのも、夏のせいにしていいだろうか。背を反らして、声を上げて、ひたすらに退の熱を強く感じながら。



「駅まで送ってくよ」──言いながら、貸していた傘を退が持って一緒に部屋を出た。辺りがまだ明るくてもすっかり夕方で、先程の暑さとはうってかわって風が心地よい。あれだけ滲んでいた汗を少しずつ乾かしていくので、そこに寂寞さを覚えて思わず退の手を握って歩いた。

「随分涼しくなったね」
「温度差で風邪ひくなよ」
「頭良くないから大丈夫」
「バカはひかないんじゃなくて、ひいたことに気付かねーんだよ」
「んなこと……、あったわ」
「あんのかよ」

ツッコミながら笑う退は無邪気で、さっきまでなにをしていたか忘れそうなくらいだった。
また会うことがあってもなくても、明日は当たり前にやってくるし、夏だってもうじき終わる。さっきまでのことだって、夢だったみたいに思い出せなくなっていくんだろうか。──なんとなくそれが名残惜しくて、駅に着くなり傘を寄越してきた手をひいて近くの路地裏まで走るとわたしから、退の唇を奪った。退は応えるように腰に腕をまわして、まだ空が明るいのを気にせず夢中で求めあった。汗はまだ、乾ききらない。



20210715

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女抱く時しかタバコ吸わない、そして私服が派手な退が書きたくて
あと同名タイトルのMVから

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