※セのつくお友達なymzk
※夢主がまあまあクズ
※事後


「なまえは、彼氏とかいないの」

心当たりの有り余るほどのだるさを腰辺りに感じ、ベッドに臥せるわたしの隣で視線も向けずに山崎が言った。チェックアウトまでに時間はあるし、まだこのまま着替えなくていいや。
「心当たり」の原因でもあるその男も、わたしと同じように服を着ることなくベッドに腰掛けていた。

「なにそれ、聞いてどうすんの」

興味があって聞いてるのか全然解らない表情に若干の苛立ちを覚えつつ質問に質問を返した。彼氏なんかいたらセフレなんか作らない、と言いたいところだけど、言い切れる自信がないくらいにずっと彼氏はいない。彼氏ができても、この関係の「楽」さに甘んじてしまう気がしていたからだ。

「俺と付き合う気ねーかなって思って」
「へ」

驚いて顔を見たけど相変わらず視線はぶつからない。山崎と付き合い自体は長いけど、この男の感情は読めた試しがない。
たしかにわたしたちは、連れ立ってホテルに入ってセックスはするけど恋人同士ではない。そんな名付けがたい関係のままどれくらい時が経ったかなんて思い出せもしないほど、互いに特別な感情は持ち合わせていないはずだ──と思っていたのは、わたしだけだったのだろうか。

「わたしのこと好きなわけ」

山崎からの問いには一切答えないままわたしばかり質問している。
スマートフォンをいじっていたはずの手をわたしの髪へ滑らせ、やっと目が合った。わたしのことを山崎がこんな目で見ていたこと、あったっけ。それともわたし、山崎のことを大して見てなかったのかもしれない。
そうして触れるだけのキスが落ちると、惚けたような三白眼が相変わらずこっちを見ていた。

「たぶんね」

やっとわたしが聞いたことに対してそれだけ、山崎は言う。わたしもなにか答えないと、と考え巡らせてみてもなにも出てこなかった。なにもかもが予想の範囲外だったからだ。

「彼氏作ってみる気、ない?」
「うーん……ないことはないけど」
「そう」
「付き合ってる人じゃないとエッチ出来ない人がいいなって」
「……すげー解るけどアンタが言うなよ」

めちゃくちゃなことを言っている自覚はあったけど大方本心だ。もちろんわたし自身、付き合っている人じゃないとホテルになんか行けないような女ではないから山崎とこうなっている。その上で勝手な話だけど、彼氏にするならわたしみたいな男ではないほうがいい。

「そういう男、って思ったら付き合うの……なんか嫌」

言葉にすればするほど勝手で反吐が出る。それでも恋愛の面倒なところ──例えば嫉妬とか浮気とか、そういう煩わしいものから遠ざかっていたかった。

「そういう女だって解っててもアンタがいいって思っちゃった俺にそれ言う?」

ここに来て山崎はやっと呆れた顔をしてみせ、そう言った。その表情からようやっと感情のようなものが滲み出たように感じて「あ、この人ほんとにわたしのことが好きなんだ」ってやっと解った。
観念するしかないようだ。返事をしようにも、わたしはこの男の顔と大雑把なプロフィールと性感帯しか知らない。気は、合うんだろうなって思っているけど。

「このあと飯でも行くかね」

わたしの手を握ったそれが、ホテルに誘うより緊張しているらしく震えて熱くて、つい笑ってしまった。今時間を共にしている密室以外のところへふたりで連れ立つのは、多分初めてのことになるのだろう。



20211109


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