※雄英卒業後
※付き合ってないけどやってる




もうすっかりお馴染みと化したホテルの部屋に入るなりわたしの背後をとると電気くんは、体ごと腰から抱き寄せた。ずん、肩口に少しの重みを感じて振り返ればすぐそばに彼の顔があって、視線がかち合う。
ふふ、と笑い合うと唇を合わせ、少しずつ舌と舌が触れる。目を閉じてその甘さに酔いしれた。

「ベッド行こ」

なにかを期待するような目で、彼が言う。わかっている、今日呼ばれたのはこのためだって。何を期待しているかなんて聞くのは野暮だろう。わたしだっていい大人だから、わからないはずもない。

「えー、どうしよっかなぁ」

じゃれ合いのひとつとしてわたしは笑った。本気で悩んでる訳でなくただただがっついているって思われたくないという女心くらい、わかってくれるだろうとも思いながら。

「じゃあ、連れてって」

数秒、悩んだ振りをして全く悩まずに甘えて言った。彼だってプロとして活動しているヒーローなら、わたしひとりくらい軽々持ち上げてくれないかと期待をして。

「もちろん。ちゃーんと捕まってて」

せーの! と誰に向けてかわからない掛け声とともに、わたしの身体は横向きに浮いた。

「ぁはは、たかーい」
「もー大丈夫! 俺がきた!!」
「きゃー! チャージズマ〜!!」

かつて、わたしたちの世代が高校生だった頃までの平和の象徴もこんなときに真似されては泣くだろうけど、そんなこともお構い無しに子供同士の戯れのようにくすくすと笑い合う。大して距離のないベッドまではあっという間で、到着すれば驚くくらいやさしくふわっと身体が着地した。
ベッドがふたりぶんの重さに軋むと、わたしの上に影が落ちる。
さっきの笑顔とは打って変わって、少しの欲を宿した目が見下ろしてくる。

「きもちいーこと、しよ」

軽薄に笑っているように聞こえる台詞にも関わらず、表情に情欲すら感じられるせいで子宮に重く響いていく。
額と額がこつんとぶつかり、視界のピントが合わずにぼやけるほど顔が近づいた。そこから再び唇が吸われてゆく。舌と舌が絡まりあって、合わさったところから溶けていく様に錯覚した。

「んん、でんきく、……っ」
「……っ、なまえ、ん」

着ていたシフォン素材のブラウスのボタンがひとつひとつ外されながら、脱がせやすい服を着てきてよかったと今朝服選びをしたときの自分を褒めたい気持ちでキスを受け入れた。脱がせ合い、眉間にしわを寄せ、できるだけ悩ましくみえるように表情をつくり首を傾げた。

「好きなようにさわって?」
「……〜! ほんっと、なまえちゃんがエロすぎて電気くん嬉しいっ」

電気くんにがっつかれたくて自分を演出したらまんまと誘惑されてくれて、口元の綻びを抑えきれない。嫌な女かなとも思うけど、喜んで欲しい一心だ。あくまでも。これくらいは自己プロデュースのうちだと思って欲しい。

身体を這う電気くんの手は熱くて、伝播していくみたいにわたしのことも熱くしていく。これからどんなことをされるんだろうなんて予想がつかないわけでもないのに、毎回ちゃんと同じように正しく身体の内部が蠢くみたいに熱をあげていた。
急くような思いで電気くんの、つい先程からわたしの太腿に押し当てられたものに手を伸ばした。彼はすぐさまそれに気づいて目を見開くとすぐ、満更でもなさそうに笑うとわたしの下半身へその熱い手で触れた。分かり切っているくせして、そうやって互いに高ぶっていることを確かめ合った。

「なんだっけ? どうしよっかなぁ、だっけ? ……したかったんじゃん、なまえも」
「んん……電気くんだって、っ」
「ほんっとになまえったら激しいんだから〜」

硬度を保ったままのものを手で上下にゆっくりと扱くと、自分のことは棚上げで誂ってくる電気くん。彼は彼でわたしのじわりと湿ったそこにもう指を侵入させている。突いて欲しいとこ、そこじゃないんだけどな……とは思ってても言えず、遠慮なく言えたらこんな関係に最初からなってないんだろうなと勝手に憂鬱になりながら白々しいまでにかわいこぶった声を上げた。

「っ、んん……あ、っあ」
「ちょーかわいい、めっちゃ興奮する……」
「やだぁ、……っ、もう」
「うん? いいよ」

なにに対してのいいよなんだ、と思ってるくせにわたしは律儀に身を震わせてみせた。どうしてこんなに気を遣いながら抱かれなければいけないのだろう。
電気くんはどうだか知らないけどわたしが少なくとも現状、挿れてくれなきゃイケないってことを彼が知るのはいつになるやら。もし気がついてたとしても、言葉にしてないから嘘じゃないので許して欲しい。

「挿れちゃお……いいよね?」

その問いかけに首肯すると澱みなく枕元から備え付けられた個包装を取り出し、中身を被せたそれを焦らすみたいに滑らせていく。そうしながら眉根を寄せる電気くんが胸を射るほどに蠱惑で、律儀に身体が反応して奥からなにかが溶け出してくるみたいだった。さっきひと芝居打ったほど冷静だったとは到底思えない。
電気くんはわたしの脚を抱え込んで、一気になんの衒いもなく入ってきた。

「あ、! 〜〜っ」
「はは……あったけぇー」

動かさないままで既に気持ちよさそうにうっとりと目を細めるとわたしを見詰めた。ああ、言われるなって思って次の言葉を待った。

「……なあ、好きって言って?」

何回目のときだったか「嘘でもいいから好きって言ってみて」と頼み込まれて以来、気に入ったのか毎回欠かすことなく言われているそれ。最初に言われたときに「わたしたちってそういうのじゃないじゃん」って言えたらどんなに良かったか、とひどく後悔しても今や取り返しのつかないほど恒常化していた。抱かれてる間は、その言葉を一回だけでなく何度も求められ続けている。

「いいから早く」

ゆっくりゆっくり、内壁を塗り込むみたいに動きながらわたしからの嘘を急かす。ぞわぞわと背骨が一気に加熱される心地がしながら、電気くんの求める「嘘」の言葉が口を上滑りしていく。

「電気くん、好き……っ」
「ぁ、っいい、もっと言って?」

最低限しか応じたくなくて最初は一度で済ませようとしても、結局はこうやって「もっと」と強請られたらわたしは弱い。それに、このあと待ってる飴を心待ちにしてわたしは何度もそれを吐き出す。

「好き、電気、っすき、……だいすき」

ぎゅう、と電気くんの背中へ脚を絡めた。
彼の眩い瞳に映るわたしを見ていたくなくて目を逸らそうにも、彼がそうさせないように頬を包み込んで、骨ごと溶かされるような甘やかな声で囁く。

「おれも」

この飴欲しさに藻掻くことも諦めて、彼の体温へ自ら身を投げてしまうのだからどうしようもなくて困る。
途切れ途切れに「好き」としか言えないわたしを電気くんは閉じ込めるみたいに抱きしめて、惜しみなく猛るものをぶつけていく。

「きもちいーね、っ……ぁ、すげ」
「んんっ、好き、きもちい、っ」
「ぁは、もーよすぎてもたない、出してい?」
「いい、からっ、あ、ああ、っ」

ずるずると内側から壊されるのをいとも容易く受け入れながら、電気くんをきつく抱きしめて今度こそ本当に身体が弾け飛ぶような心地を顕にした。
嘘をつくよう望まれれば望まれるほど、本当か嘘か解らなくなっていく。どうしてわたしにこんなことを言って貰いたがるの。嘘じゃなくなってしまう前に教えてよ。この後口でしてって言い出しても怒らないから。



20220907


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