※名前変換なし




今年が終わる。西暦が切り替わる。暦上それだけの行事なのにどこか街は浮かれきっており、道に転がっている酔っ払いの数が心做しか多いような気もする。
「それだけの行事」のはずが、そのせいで我々特殊警察の仕事は増える一方なのだからやるせない。
こういうときどさくさに紛れてテロが勃発──なんてならないように、フルメンバーとまでは行かずとも誰かがパトロールに駆り出される羽目になる。その中のひとりとなってしまったのは運が悪いとしか言い様がない。

「あ、あと3分」

俺と同じようにその「誰か」のうちのひとりとなってしまって隣を歩く後輩が、己の腕時計に目を落としてつぶやく。聞かなくたってわかる、年が明けるまでを指しているのだと。
隊服だけではどうにも寒いらしく、その下にセーターを着用している割に息は白く鼻の頭が真っ赤だ。隊服って夏は通気性悪いくせに冬はさほど暖かくないの、どうにかならんかね。刺すような寒さで文句しか出てこねぇや。
隣にいるのが後輩とはいえ、女性であることだけでも喜ぶべきだろうか。

「ほんとにこんな時にテロなんか起こるもんすかね?」
「それが起こらんようにこうして見回るのが仕事だろ、俺たちの」

窘めるように後輩の疑問にこたえる俺も、正直言うとまるきり同感だ。どうせ何かが起こって「真選組はなにをしていたのか」と責められそうになった時の後ろ盾というか、ちゃんと見回りをしていたという事実が必要なだけだろう。攘夷浪士だって年末年始くらい休みたいはずだ。俺も休みてェ。コタツと共依存していたい。

「あ、山崎さんちょっといいですか」

後輩が足を止めるのでそれに合わせると、暗い中でひときわ眩しく光る自販機にむかって小走りで向かってゆく。どうやら喉が乾いていたのだろう、そこまで時間を取ることなく戻ってきた。手袋に包まれた手にはコーヒーの缶。2本。彼女はその片方をこちらに差し出し、白い歯を見せて笑う。

「お年玉です」

立場逆じゃね? というツッコミは野暮ったく感じて飲み込んだ。受け取ったそれは暖かく、冷えた指先の温度をじんわりと上げてくれる。
彼女の腕時計が零時を差したのが見えたので、かわりに新年の挨拶を伝える10文字を口にしつつありがたく開栓した。



20201231


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