※夢主自慰行為あり








「新八、く……んぅ……っ」

部屋の隙間から、僕の名前を呼ぶ控えめな声を聞いた。いや、聞いてしまった、と言った方が正しいのかもしれない。
なまえちゃんに会いたくなって、晩ごはんでも一緒に食べようと家までたどり着いて渡されていた合鍵で解錠したところで、その奥の部屋がいつもは戸が開け放してあるはずが締められていることに気づいた。近づいたら僅かながら隙間が開いており、最初はどこか苦しそうに上擦った声が聞こえてなにかあったのかと心配になってそっと中を確認した。結果、僕はそこから動けず目も離せずにいる。

「あっ、や……ぁ」

敷かれた布団の上に仰向けになるなまえちゃんはなにも纏わない姿で、膝と膝を擦り合わせながら太ももの付け根をまさぐっていた。それがどういうことか、流石に僕にだってわかる。ただこういう時、どうするのが正解なのだろう。

「ぅ……っ、く、だめっ……新八、くん……」

名前を呼ばれる度、なまえちゃんの腰がちいさく跳ねる度に僕の下半身が熱を帯びてゆく。
そのきつく閉じられた瞼の裏にどんな僕を思い浮かべているんだろう、と思うといてもたってもいられない気持ちだ。それなのに、僕自身は実行に移せずにいる。頭の中が「どうしよう」でいっぱいで、でもこういう時に傍にいないはずの僕の名前を呼んでくれることが嬉しくて堪らない。気がつけば先程より身を乗り出すみたいに覗き込んでいる。

「ん、イくっ……イッちゃ……っ、!」

びくびく、となまえちゃんの身体が震えた後にくたり、と脱力する。現れるタイミングを完全に失ってしまった、と若干中腰になっていた姿勢を正そうとした拍子に、勢い余って戸口に手を付いてしまった。それも結構派手な音を立てて。

「っ、誰……」

で、ですよねェェェ! ひとり暮らしなはずの部屋でまあまあ大きめの物音がしたらそりゃあ。しかもこんなタイミングで。
いやまあ、普通に考えたら合鍵を持ってる僕ぐらいしかありえないはずだけど。

「急にごめん、なまえちゃん……開けて平気?」
「え、あ、30秒……! だけ、まって」

今のこの状況で全裸でご対面は気まずいのだろう、急いで服を着るような布擦れの音が聞こえると、いいよ入って、と言う声がした。戸を開けると、敷布団の上で所在なさげに俯く部屋着姿のなまえちゃんが座っていた。

「聞いてた……?」

この問いに関して、もう嘘をつくことは出来ないだろうと観念して答える。

「少しだけ……」
「い、いつから!?」
「僕の名前、呼ばれたくらい……かな?」

俯いていたなまえちゃんがさらにダメージを受けたかのようにうなだれる。おそらく、いちばん聞かれたくないところだっただろう。僕も多分、彼女を思い浮かべながら自分でしてるところを見られたり聞かれたりなんかしたらきっと死にたくなるに決まってる。
でも僕はずるいから、そんな君も可愛いなって思って、興奮してしまっているんだ。

「顔見せて。顔見たくて、来たんだから」
「やだ。無理。恥ずかしい」
「そうだろうね、恥ずかしいね」

僕がそう言って笑ったところでこちらを向いてはくれないから、隣に座って頬に掌を添え上を向かせる。すると耳まで真っ赤に染まって、潤んだ目に僕が映っている。

「ねぇ、想像のなかで僕はなまえちゃんに何してたの?」

彼女とこういう関係を結ぶまでは、自分にこんな願望があるなんて知らなかった。こうやって好きな女の子を困らせるのが楽しいなんて。

「……い、言えない、そんなの」
「そう? 言えたらぜんぶしてあげるのにな」

震える唇に自らのそれを重ね、舌を捩じ込んでいく。ちいさな舌を絡めとって、溶けちゃうみたいなキスを浴びせる。キスだって、こんなに気持ちがいい。

「それとも、自分の指だけで満足しちゃった?」
「……っ、ぅ」

目が泳ぐ様子を見て、決してそういう訳じゃないんだと解ってしまった。僕だってなまえちゃんに会えない時に同じようなことをしたりするけど、より彼女に会いたくなるだけだったから。

「ねぇ、教えて欲しいな」

耳元で囁けば、どこでそんなことを覚えてくるの、と弱々しく答える。強いて云うなら、なまえちゃんに意地悪するのが楽しくて自然に、かな。

「あの……触って、舐めて……やめてって言っても……止まってくれなくて」
「ふーん?」

どこを、とはわざわざ聞かずに部屋着の、彼女にしてはオーバーサイズなシャツをめくると、下はなにも身に着けていなかった。

「わ、下履いてなかったんだ? エッチだなぁ」
「見な……で、っあぅ……」

言われた通りに、先程まで触っていた為にどろどろに蕩けたそこに舌と指を這わせる。
難なく僕の指を受け入れるとまた、声が上擦る。先程戸口で聞いたのより高く。入口のすぐ上の蕾を舌で撫でるとより、びくりと身体が震える。

「あっ、や……だめ、イったばっか……!」

やめてって言ってもやめて貰えないことを望んで想像していたなまえちゃんのために、その制止は無視させてもらう。やっぱり強引にされるほうが好きなのかな。さっきよりもずっと激しくがくがく震える腰まわりが、きゅっと指を締め付けてくる膣内が、やめてほしくないということを主張しているかのようだ。
溢れてくる蜜をひたすら丁寧に舐め取っていき、入り口の蕾を時折舌先でつついたりする。その度になまえちゃんの声は甲高くなる。

「やだ、っ、あ……んぅ、気持ち、っい 」
「きもちいい?」
「んっ、うん、……っ、ひぁ」

真っ赤になった顔を両手で隠すみたいにしてひたすら声をあげるので、顔を見せてほしくてとりあえず右手を握る。そうだ、僕はなまえちゃんの顔を見たくなってここにきたんじゃないか。
指先で彼女が好きなところを優しく撫でて、舌でも休まずに入り口を刺激してゆく。

「見な、っで……ひ、ぅ……あ、っ、いっちゃ、……っ」
「いいよ、イって」
「んあぁっ、イくっ、イっ、あぁっ!」

びくびく、とまた腰が逃げる。先程よりも強く僕の指を締め付けて、なまえちゃんは達した。さすがに立て続けに2度となると疲れたのか、力が入らないかのように動かなくなる。少し無理をさせすぎたかな、となだめるように抱き寄せ、背中を撫でる。

「は……はぁ、ぁ……新八、くん……」
「……ごめん、疲れちゃった?」
「ん……へいき」

全然平気じゃなさそうな、か細い返事が返ってきて、「それより」と前置きされる。

「きらいにならない?」
「……どうして?」
「はしたない子って、思われちゃうかなって……」

僕の腕の中で縮こまって、真っ赤な顔のまま小さく答える。なまえちゃんの前では格好つけてポーカーフェイスを気取ったりしたいのに、結局頬が緩んでしまう。可愛過ぎるんだもんなあ。参ったな。

「……僕はうれしかったよ」
「ほんと?」
「うん。僕だって会えない時とか……同じこと、してたし」
「やだぁ」
「なんだよ、なまえちゃんだってしてただろ?」

クスクスと恥じらうように笑う彼女の頬をつついてみる。僕まで恥ずかしいな、これは。
なまえちゃんが、じっと僕の目を上目遣いに見上げる。何かを言いたいみたいに。

「あの……」
「ん?」
「新八くんは、その……しなくて、良いの?」
「……ああ」

抱きしめあっているせいで、僕の欲求を現したまま収まりそうにないそれがなまえちゃんのお腹にあたっている。だからそう、気を遣って尋ねてくれたのだろう。確かに、このまま正直落ち着く気がしない。ただ、彼女が疲れてしまっているなら無理に受け入れてもらうのもな、と思っていた。時間を置けばどうにかなるものだろうか。

「えっと、大丈夫なの?」
「大丈夫っていうか……あの、わたし」

僕の背中にまわされていた手が、着流しを掴む指先の力が強くなる。僕を見上げていた顔が、胸元に埋められる。

「わたしが、したい……」

撃沈した。僕が。
そっか、自分でしてたってことは、その。したかったからだよね。


「っ、あぁ、んっ……!」
「……は、ぁあ……っ」

そこから、着ているものを脱ぎ捨ててなまえちゃんの奥深くで繋がるまですぐだった。
唇と唇を合わせ、やわらかく絡め合わせる。唇の隙間から漏れる吐息と、ぎゅっと背中に力を込める腕。全部に、好き、可愛いしか言えなくなる。僕、こんなに語彙力なかったっけな。

「あっ、あ……新八くん……、んぅ」
「なまえちゃ、は……締めすぎ、だよ……っ」
「だって、ぇ……うぅ、ん、っ」
「こっち、みて……」

恥ずかしさからなのか、目を合わせてくれないことを寂しく思い頬に手を寄せ、再び唇を重ねる。なまえちゃんの口の中は熱が籠もっていて、こうしているとどんどん体が熱くなっていく。

「んぅ、きもち、いっ……あ、はぁ、っ」
「僕も……っ、イイ、好きだ……なまえちゃん……」
「すき、わたしも、っ、新八……だいすき! 奥、だめ……っ、あぁ!!」
「っあ、だめ、じゃないくせに……っ」

終わってほしくなくてゆっくり動きたいのに腰は止まってくれなくて、ぱんぱん音をたててなまえちゃんの奥まで犯していく。とろけた顔が僕を見詰める。すっごいいやらしい顔。
それに2度もイったばかりのそこは強く僕のを締め付けて、動く度に気持ちがいい。こんなの、すぐに限界がきてしまう。

「それだめ、だめっ……ぅ、またっ、イっちゃう、から……!」
「何回でも……ッ、いいよっ、は、ぁ……僕も、っ……」
「んん、っ、ぁああッ!」
「……っあぁ、ぅ……っ、く」

なまえちゃんが何度目かの痙攣をしてみせながら、それとほとんど同じタイミングで、僕のもどくどくと彼女の中へ溜まっていた白濁を吐き出した。体液が彼女のなかへと余すことなく流れ込んでいくと、中がその都度搾り取るように蠢く。
そのまま行為の余韻で離れがたく、なまえちゃんと同じように呼吸をして抱き合っていた。つながったまま。この瞬間が好きで幸せでたまらなくて、何度でもしたくなってしまう。



「新八くん……今日は、泊まっていくの?」

呼吸を整えながら、吐息混じりにされた申し出が嬉しくて額にキスをする。

「そのつもりだった、って言ったら怒る?」
「ううん、ラッキーって思う」

じゃあご飯にしよ、って頬に返されたキスを幸福に思いながら、更にこのあとの幸福な晩餐へと想いを馳せた。



20190828


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