※夢主自慰行為あり



「……来てたんだ」

目が覚めてまず視界に入った顔にひとりつぶやく。わたしはひとりで寝たはずだし、この部屋にはわたししか住んでいない。ただ、朝起きると唯一合鍵を渡しているひとが隣ですやすやと眠っていた。彼──退の姿を見るのは久しぶりだ。
今日は休みで、つい夜更かしをしてしまったわたしが昨夜寝付いた時間はそこそこ遅い。きっと退がきたのはそれより更に遅い時間なのだろう。遅くまで働いて、疲れているだろうにわたしが今日何もない日だと知って時間を作って来てくれたことがありがたい反面、もう少しわたしが起きていればと惜しい気持ちになる。もしかして来てくれたってことは、退も今日は非番なのかなあと着流し姿を見て思う。

「疲れてる……よね」

夜這いでもしてくれたら起きたのにな、と思ってしまうけど、そうしないのが退だよなぁとも思う。
指で頬を撫でると、そこに唇を寄せる。

「しばらく起きないかな」

寝ている時特有の、少し高い体温に心臓が高鳴る。別に大したことをしている訳じゃないのに、なにかいけないことをしてる気分になる。それはきっとわたしが邪なことを考えているからなのかもしれない。既に、退に触れたくてむずむずと体の奥が疼いている。
前回会った時というとそれは1ヶ月近くも前に遡る。しかしその時は嫌がらせのようにタイミング悪く来てしまった、1ヶ月に1度くるそれ──正直に言えば酷く欲求不満である。
わたしはそっと部屋着の下、パンツの中に手を伸ばした。

「……っ、ん……!」

僅かながら湿ったそこは滑りがよく、少し撫でただけでもびりびりと痺れるように甘い感覚が襲う。何かにしがみつきたくて、ゆるく縋るように退の着流しの袖を握る。これではバレてしまうかもしれないのに、手を止められずに小さく呻く。できるだけ喉をぎゅっと絞めて、声を漏らさぬように。

「さがる……っ、ぅ……」

袖口を握る力が強くなってしまう。今退が起きたら死ねる、なのに陰部をなぞる指は止められない。
膝の裏や太ももの付け根から汗が滲む。もっと、と身体が求めるままに手を動かせば、絶頂が近いことを知らせるように体の芯から熱を帯びてゆく。

「っっ、ひぅ……ん、く!」

びくんびくん、と控えめに腰が震えて頭の中が白い靄でいっぱいに広がる。ふぅ、とひと息ついて身体の力が抜けていく。
そしておもむろに退の顔を再度見やる。先程と違ってぱちりと開いた三白眼がこちらを見ている。──見てる!?!

「……起きて早々、良いもん見せて貰っちゃったな」
「ひっ……、!」

そう言われて一部始終を見られてしまったことを悟り、その事実は変えようがないのに逃げようと起き上がって後ずさる。さすがに一時の欲望に身を任せ過ぎた。こんなの、バレないわけがなかったのだ。少なくとも袖口なんかじゃなくて、シーツでも握ってれば違ったかもしれないのに。わたしって、ほんとバカ。

「逃がさんよ」

今度は退に手を握られ、逃れられぬよう腰に跨られる。流石そこは武装警察、一切無駄の無い動きで逃げようとするわたしの身体は封じられてしまう。
そのままねっとり唇を塞がれ、絡みつく舌がいやらしく口腔を蹂躙する。

「んんっ……っは、ぅ……」
「ちゅ……なまえ……っ、む」

キスだけで、先程達したばかりの入口が更に蜜を垂らすのが解る。やがて退の唇が耳元へ移ると意地悪く囁いた。

「俺の隣で、名前呼んでオナニーして……気持ちよかった?」
「ちがっ、……ぁ、ん!」
「違わないでしょ。こんなにぐちゃぐちゃに濡らして……乳首勃たせてさ」

退はわたしの部屋着のシャツを捲りあげるとツンと上向いた蕾を食み、指で下着の上から滲む蜜を掬う。役割を果たしていないと判断したのかパンツまで取り去ると、満足気に笑う。

「こんなに濡らしてんだし、もう良いよね? まだイけるでしょ」

寝間着の前をくつろげながらわたしを見下ろす顔にあまり表情はない。ただ、それでもなんとなくわかる。わたしのこと、めちゃくちゃにしちゃう気なんだって。
きっと今わたしは、物欲しそうな目で見つめてしまっているのだと思う。ぶるりと現れた大きく堅い塊にもう釘付けだ。

「欲しいなら上乗れよ」

いつもだったらそう強く言われても恥ずかしさで実行に移せない。ただ今回は違う。恥じらいよりも余裕で欲望が上回り、ゆっくりと起き上がる。横になった退の腰に今度はわたしが跨ると、熱く勃ちあがったそれで中を埋めていった。先程達したばかりのそこはなんの妨げもなく飲み込んでいく。

「っあぁぁ……、っう、んん!」

いきなり攻められると弱いところへハマって、軽く達してしまう。退の大きさではいい所全てに当たってすぐに良くなってしまう。それを察したのか、下から抜き差しせずに奥へぐりぐりと押し付けるように動く。
感じすぎて怖いのに、腰をしっかり掴まれては逃げることも出来なくてひたすら喘ぐしかできない。自分で動くことさえ、叶わない。

「んっ、だめ、あぅ……しきゅ、突いちゃ……いや、っ!」
「欲し、かった癖に……っ、う、く……っ」
「あ゛ぁ、っ、ずっと……イってる、っ気持ち、イイの……ん゛ぅ」
「っあ゛ー……すげ、よっぽどタマってたんだ……ここ、なまえの本気汁で真っ白……」
「やだ、っみ、見な……で……っ!」

恥ずかしさで結合部を隠すように手を伸ばす。するとその手はそのまま陰核に触れるように(いざな)われる。

「指はここ……ね?」
「なん、で……っ、んぁ、!」
「さっきみたいにこのまま、自分でしてごらん?」

誘惑するみたいに妖しく甘く、ぴたりと動きを止めて囁く。

「きっと……もっと、気持ち良いよ」

笑ってる。心底楽しそうに。わかってる、退の言う通りだって。中の気持ち良いとこを刺激され続けながら、自分で外側も──恥ずかしいけど、良くないはずがない。とはいえ先程その恥ずかしい行為を見られてしまっている以上、開き直ってしまえる気がした。言われるがまま、少しずつ指の腹でそれを優しく撫で上げる。それと同時に、退も下から律動を再開し始めた。あ、すごい……これ、もっと……。

「やん、っあ゛……! だめ、むりぃ……ぅ、ん」
「っぁは、……すげぇ締まる……ぅ」
「う、ぁ……っ、んぅ、あ゛!」

感じっぱなしで訳分からなくなりながらも、夢中で指を動かし続ける。中を打ち付ける杭も先程より質量を増して、お互い終わりが近いことを悟る。
予感の通り、出る、と短く告げた退が思いきり奥へ先端をめり込ませるみたいにした瞬間どくりと大きく脈打つと生温い体液が流れ込む。それに応えるようにわたしもびくん、と感電したみたいに反応した。

「……はぁ、ぁ……ぅん」

わたしは浅く呼吸を繰り返すと、退にもたれ掛かる。汗ばむ肌と肌が合わさり、まるで溶けていくみたいに熱い。
その体温を重ね合う今を、満ち足りた気持ちで味わう。最中も勿論好きなんだけど、こういう時間も好きでたまらない。

「ねぇ、……俺がいない時も、ああやって名前呼ぶの?」

指先でわたしを上向かせながらそう尋ねる。もうわたしはそれに答えることを思うと、照れ臭さで下を向きたい。正直その通りだからだ。きっと退は答えるまで許してくれない。
答える代わりに唇を重ねてみても、「キスで誤魔化すなって」と一蹴である。

「でもね、なまえも俺と同じことしてて……嬉しくなっちゃった」

ふふ、と妖しく笑う口許が、「え? そこ詳しく」と言おうとしたわたしの唇を誤魔化すように塞ぐまで、あと少し。



20190809


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