※前作の事後、ご本人登場して3Pする話





朝が来ればこの、大胆にイメチェンを施されてしまった退は元通りになると思っていた。ジャンプだって来週になれば大破した建物すら元通りなんだもの。
だからわたしは、最悪の場合の言い訳を一切考えていなかったのだ。

「……なにしてんの?」

不快そうに眉を顰める見慣れた黒髪の退と、隣でぐしゃぐしゃと頭を掻き回すヤンキー──信じられないことに彼も退を名乗っている──が、今この場に揃っている。
ぐったりと倒れるように眠ったあとの回りきらない頭で、状況を整理する。あの後気絶するみたいに眠りに落ちたせいで、わたしたちは裸だ。この状況を見たほぼ全ての人類は、「事後」と形容するだろう。

「退、これはちが」
「見間違いじゃなけりゃ、すげェ忘れたい顔がそこにいんだけど」

浮気がバレた女の様式美とされる台詞が途中まで出かかったところで遮るように見慣れたほうの退は言った。
どうやら退はこの金髪の姿に見覚えがあるらしかった。ということは彼が勝手に退の名を騙っているという可能性が薄れていく。

「なんだこの地味な野郎は、あん?」
「その台詞もれなく自分に帰ってくるからな、お前も俺なんだよ」
「一緒にすんなや、あん?」

わたしを置いてけぼりにして言い争いを始めるふたりはそれでも、少なくともわたしよりずっと冷静に見えた。

「ま、昨日の晩なまえは俺ので散々イキまくってたけどな」

金髪の退──ややこしいので以降「退´」とする──が昨晩を彷彿とさせる艶かしい手つきでわたしの肩へ手を回すと、躊躇いもなく見せつけるように唇を奪う。ぬるり、と侵入する舌先がわたしのそれを絡めとるまでは早く、抵抗することも忘れるほどだった。もし目を閉じていたらわたしは、これがどっちの唇か当てることができないだろう。

「うわ、俺なんだけど寝取られてる気分……なんなのコレ」
「そこでマスかいて見てろよ、俺はなまえと目覚めの1発シケ込むからよ」
「はァ?! お前何考えてんのォ!!?」
「それともアレか、一緒に楽しむか? ん?」

わたしの意思とは無関係に退´が勝手に話を進めようとする。昨夜あんなしたっていうのに起き抜けにまだする気があったとはたまげた。
黒い退──こちらを無印の「退」とする──は下唇を噛むと意を決したようにわたしたちのいるベッドへにじり寄る。まさか退´の言う通りにしようとしてるのではあるまいな、と我が恋人の知能指数がサボテン以下になっていないことを祈る。
退のことだから、わたしが目先の快楽に弱くちょろすぎるあまり退´に流されてこんなことになっているのかはお分かりだろう。それと同じように、退が今わたしを手酷くふたりで嬲り散らかすだけの理由がでっち上げられる状況かどうかを考えたであろうことがわたしにも分かった。正当な理由でなくていい。理不尽でいいから、退´の誘いに乗るだけのもの。

「浮気されたまんまじゃこっちも目覚め悪いからね、いいよ」

そう言い捨てる退はきっと、浮気された、なんて思ってない 。された気分にはなっているかもしれないけど。
わたしが「退の姿が変化してこうなったと勘違い」して、「元の姿の退が同時に存在していると思っていなかった」からこうなったであろうことまできっとわかった上でそう言っている。

「そうこなくっちゃ、せっかくだから楽しもうや」

風貌だけ異なった全く同じ顔が、ニタリと妖しく笑ってみせた。



「あ、っやぁ、!」

ろくな前戯も無いまま背後から突き立てられているのがどっちのものか分からないけど、いまわたしの口に咥えさせているのが退´だからきっと退のものなのだろう。
たまに意地が悪いだけでいつもなら気を使いすぎるくらいに優しい退が、わたしの首根を掴むと無遠慮になかを潰してしまうみたいに動いてる。それだって無理やり熱を上げさせられて焦れた身体には充分すぎるほどの快楽で、もちろん退´のを咥える行為に集中なんてできていなかった。

「おら、もっと喉締めろや。あん?」
「ごめんね、俺のが気持ちよすぎてあんたの相手できねェってさ」
「ンなこと言ってねェだろーがよ」
「んん、っさが、あっ、〜〜〜っ」

喘ぐしかできないわたしを介さず小競り合いを続ける彼らはある意味息が合っているのかもしれない。本人同士だからあたり前か。
名前を呼んだところで、わたしがどちらを呼んだのかふたりには解るのだろうか。

「いつもより感じてる? こんな淫乱だったっけ」

退が息を乱しながら言う。否定したいところだが、全ての感覚が鋭敏になっていると感じる。

「ひっ、ん、んぐ、……っ、ぁが、!」
「いー顔してんなァ」

退´がわたしの頭を掴んで上を向かせる。喉の当たりどころが変わって噎せそうなところをなんとか堪えた。退´が目を細めて笑うのが色っぽくて、これがその場限りかもしれないことが惜しくなった。彼のそれもかろうじて咥えているがわたし自身はどこも動かしてなくて、彼が自分で動いているだけだった。

「ずるいな、俺見えないんだけど」
「あん? 俺が見てんだからお前が見たも同然だろが」
「どういう理論だよ……、っ」

わたしを無視して進む会話を聞きながら喉も膣も奥深くへ挿し込まれ、目の前が白く飛ぶ。熱い発作が込み上げ、奥が慄いた。口が塞がっているためにろくになにも言えないまま、シーツを握りしめる。

「……く、っあ、今イった?」
「あーらら。アンタの女、乱暴にされたほうが好きなんじゃねェか? あん?」
「なまえ、今まで優しくしてたのまずかった?」

まずくない、と首を小さく横に振った。全然まずくないけど、確かに昨晩そういうふうに退´に抱かれて目覚めてしまったような自覚はある。優しい退はそれはそれで違った良さがあるよ、と言いたいところだけど、今の退にそれは火に油のような気がしてやめた。

「つーかはよ代われや、あん?」
「俺より歳上の癖に……もーちょい辛抱ならんのかよ、っ」
「2年じゃンな変わんねーよ」
「……っ、く、2年でそんだけナリ変えといてよく言うよ」

ふたりからそれぞれ後頭部と腰を抑えつけられて逃げられない中、知らない感覚を知ることが怖いはずなのに、その恐怖心が余計に陥穽の中へ落ちていく心地がする。身体のすべてを犯し尽くされて、熱く籠もっているものが開放を待ち望んでいた。

「んん、ぅ」
「……なまえ、出るから……っ飲めるな?」

退´の問には咥えたものから口を離さないまま、今度は首肯した。すると後ろから腰を掴んでいた退が腕を回して抱き締めてくる。「俺もイきそう」と耳元で小さく囁く掠れた声と、背中に落とされたあつい唇ははわたしの熱を更に煽る。
「お熱いねェ」と楽しそうに呟く退´が低く呻いて、わたしの後頭部をさらに抱き込むと喉奥に吐精した。遠のいていく恍惚のなかで、退もそれに続いて奥で身震いしたのが解った。一気にだるさが全身に宿り、今までだって自分で動いていないというのにこれ以上動けないと感覚で識った。



それからの記憶はほとんどないけど、自力で動けるようになったときには退は最初からそうだったようにひとりしかいなかった。
ただ朧気な余韻と共に、中身のなくなったアメリカンスピリットの箱と残り香──退は吸わないはずだ──だけが部屋に残っている。退がすべて憶えているなら、今度こそ浮気(?)の言い訳を考えなければいけない。



20220920


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