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宮城と東京


俺はあまり東京に行ったことがない。これを岩ちゃんに言ったらかなりびっくりされた。どうやら都会慣れしてる雰囲気があるらしい。
宮城は言うほど田舎ではない。東北のなかでは仙台が一番都会だと思ってる。住んでるところは街中とは呼べないが、少し車を走らせればなににも困らない都心が広がっている。
とはいえ、都会慣れと東京慣れは全然違うものだ。
「暑い!」
新幹線を降りて、その暑さにびっくりした。びっくりなんてもんじゃない。とにかく暑い。
先ほどまで新幹線の、完璧に気温調整された空間にいたからか、その暑さは余計見に染みた。降りて間もないのにだらだらと汗が流れてくる。試合のときの汗とは違う、なんともじめじめとした不快な汗だ。
ホームに降り、辺りを見回す。実感もなくふと見上げた看板でやっと、ああここは東京なんだと理解した。
どうやら目的の人物は改札でまっているらしく、携帯を開くとメールが一通受信されていた。とにかく人の多い構内を、まさに掻き分けるように進んでいく。これだけの人がいるのにぶつかることがないのがかなり不思議だ。
ずるずるとキャリーケースを引きずりながらメールを頼りに進んでいくと、やっと改札口がみえた。切符を取り出して改札を通り、駅をでるとまたしても人の山、山、山。昼間に着いてしまったのだから仕方ないかと思いながら進んでいくが、なかなか見つからない。ふらふらと当てもなく歩くと、突然肩を掴まれた。
「え!?」
ぎょっとして振り向くと、3.4p上に少し不機嫌そうな恋人の顔があった。
「恋人っていうな、恥ずかしい」
「人の心読まないで!?」
照れてるクロちゃんもかわいいけど。
「なんで若干怒ってるの?」
「普通駅で待ち合わせっつったら改札で待つだろ、出口いっぱいあんだから」
「それは東京ルールだよ…」
お前がでかいから見つけやすくて助かったわ。
そう呟いて俺の荷物を持った。
あいかわらず変なところで紳士だなとおもいつつ素直に預ける。
「めんどうだけど、向こうから回るぞ」
そう言って歩き出した。
おとなしくついていった方がよさそうだ。スポーツ選手らしい、広い背中を追いかけた。
いくつかの電車を乗り継ぎ、駅からしばらく歩くと民家が目立ち始めた。そのうちの一軒の前でクロは足を止める。
「ここ」
と、ただ一言だけ言って扉を開けた。
「おじゃましまーす」
「あ、今親いないから」
「へぇ、靴ここでいい?」
「あぁ」
見回すと綺麗に片付いた家だった。あまり大きなものではないが、絵なんかも飾られている。両親の趣味らしい。
クロちゃんの部屋にお邪魔すると、ベッドに感動した。
「いいなーベッド。俺こっちで寝ていい?」
「いいけど、そんなに珍しくもねぇだろ」
「俺の部屋畳だからね、布団でねてるんだよ」
「…意外だな」
どこがどう意外だというのだろう。
「ここは割りと涼しいね」
「?なにが」
「駅着いたとき暑すぎて死ぬかと思った」
伝えるとクロちゃんもああ、と頷く。
「近くに川があるからかもな」
「へえ」
「ほら」
クロちゃんは窓を開けて手招きした。
指差した方向をみると、うっすらと光を反射している。どうやらあれが川らしい。奥に見えるのは橋だろうか。
だらだらとトランプやらゲームやら、バレーボール談義に花を咲かせたりしていたらいつのまにか夕飯に頃合いの時間となった。
てっきり一階のダイニングで黒尾ファミリーと一緒に食べるのかと思ったら突然外に食べに行こうと言われた。
「え、いいけど」
「んじゃあ決まりだな。なに食いたい」
突然強引になるのをなんとかしてもらいたいが、もしかして単純に思春期やら反抗期からくる親への反発かと思ったら、より一層クロちゃんに親近感がわいた。確かに俺も、親の手料理をクロちゃんに食べさせたいとは思わない。
手近な店に入り、パスタを食べた。おいしかった。
チームメイトとはまず間違いなく来ない店だろう。クロちゃんといると不思議とどんな背伸びも当たり前のように感じてくる。
「めんどくさいから単純な割り勘でいい?」
「あ、お前は払わなくていいから」
そう言うとさっさと二人分の代金を支払って店を出てしまう。
「いやいや、クロちゃんどうしたの」
「なんでもない。…お前は交通費とか払ってるから、夕飯ぐらいだしてやる」
なんだか今日はやけに紳士だ。びっくりするほど優しい。いつもならどうしただろうと考え始めたが、クロちゃんとごはんを食べるのは初めてだときづく。
いつもメールやSNSのやりとりが精一杯でまともに会うのなんてこれが初めてかもしれない。
「クロちゃん、川行こ」
「…蚊多いぞ」
「平気」
微妙に口角をあげて笑ったのは見間違いではないだろう。
なんだかんだクロちゃんも楽しんでるのかと思ったらとても嬉しかった。
「明日いつ帰るんだ」
「えーっと、16時56分の新幹線」
「意外と遅いんだな」
「うん。せっかくだし」
やっぱりどこか嬉しそうだ。
しばらくして眼前に川がみえた。思ったよりも、川幅はひろく深さもあった。
「…及川」
「ん?」
「お前あれできる?石投げてチャポって跳ねるやつ」
言いながら石を差し出してきた。
目の前の石とクロちゃんの顔を交互に見つめながら口を開く。
「まぁ、できなくはないよ。あんまり上手くもないけど」
「俺できないんだけど」
「うっそ!!!!なんで」
「うるせぇ!」
「クロちゃんに教えてあげようか」
そう言って手頃な石を探し始めた。
「こういう、少し平たい石の方がうまくいくんだよ」
「へぇ」
「よっ」
ピュっ
風を切り、水面を飛んでいく。僅かに三回ほど跳ねた。
久しぶりにしてはなかなかの及第点だろう。どや顔で振り返ると驚いたようなわくわくしたようなクロちゃんの顔があった。
「すげえな」
「小学生のとき教えてもらったりしなかった?」
「いや、教えてくれるような人がいなかった」
なるほど、文化の違いがここにもあるのか。
その後も水切りに興じているとふとクロちゃんの携帯が鳴った。
「電話だ」
「誰から?」
「研磨」
ああ、あのプリン頭の幼なじみ君か。
するとなにを思ったのかクロちゃんは電源ボタンを押す。
そのボタンは。
「えっ切っちゃったの!?間違えた?」
「んなわけあるか」
「なんで切ったの」
及川がいるから。
済ました顔で言わないでほしい、と心から思った。
「なにこの少女漫画展開」
「お前読んだことあるのか」
「ないけど!!」
にやにやとこちらを見てくる顔に腹が立った。
それでも、やっぱり嬉しくなるから仕方ない。
「そろそろ帰るぞ」
時間を見ればもう8時を回っていた。
気づけばほぼ日は沈んでいて、心なしか蚊も増えている。
歩き出したクロちゃんの背中に、声をかけた。
「クロちゃん、キスしてよ」
ピシッと、音が聞こえるようにクロちゃんは凍りついた。
「…なんで」
「だって、初めてこんなに一緒にいれたから嬉しくて」
ぽりぽりと頭を掻きながらクロちゃんが近づいてきた。薄暗いからよくみえないがきっと顔が赤いのだろう。
「もしかしてクロちゃんってシチュエーションにこだわるタイプ?」
「んなわけあるか」
「じゃあいいね」
「目閉じろ」
「いいよ、しっかりと目に焼き付けてね俺の顔」
「嫌でも覚える」
初めて触れた唇は思ったよりも優しくて、3.4pの差がとても心地よかった。
「今さらだけど」
「なに」
「こんな街中で男同士がキスしてたらおかしいだろ」
「周りの視線なんてどうでもいいじゃん」
唐突に、これが幸せかと思うと同時にひどいバカップルだと思った。もしも男女だったのならなんて安い恋愛映画だろうか。
風呂をお借りし、身体中の汗を洗い流す。持参したシャンプーを取り出そうとしたが、ふと辺りをみるとシャンプーボトルが2つあるのに気づいた。明らかに女物と、男物である。
特に理由があったわけでもないが男物であろう、黒いボトルへと手を伸ばした。
手に少し出すと、先ほどまで一緒にいたクロちゃんの匂いがした。
「クロちゃん、風呂上がったよ」
部屋に戻ると、ベッドにもたれ掛かって足を投げ出したクロちゃんがいた。
どうやら寝ているらしい。
一応客人が来ているというのに部屋で寝てしまうクロちゃんの奔放さといったら。おもわず笑みがこぼれる。
「クロちゃん」
再び声を掛けるとパチリと目をさます。
「悪い」
「大丈夫」
するとなぜか鼻先を押し付けてきた。
「え、なにしてんの」
「違う匂いがする」
犬か。いや、むしろ猫だろうか。
なにも学校名を体現しなくてもいいのに。
「嫌だった?」
「いや、別に。…なんか変だな」
「そう?」
その後クロちゃんは風呂に行ったが、予想以上に早かった。
「俺が早いんじゃなくてお前が遅いんだろ」
「そんなことないよ!」
「いつ寝んの?」
「決まってないよ、なんだったらオール?」
「やだ」
ここでやっと気づいた。クロちゃんの髪が逆立ってない。
「あれっていつもつくってんの?」
「なにを」
「髪型」
「あれは寝癖」
「えっ」
寝癖?
「どうやって寝てるの」
おそるおそる尋ねると、クロちゃんは枕を取りだし、うつ伏せになるとまるで枕で頭を包むように押し付けた。
なにこれ。
「それ絶対苦しいでショ」
「いや、別に」
やっぱりどこか変だと思う。
時間は11時40分をまわり、もうすぐで日付が変わる時間になった。
「ちょっと待ってろ」
「え、うん」
クロちゃんは立ち上がり、部屋を出た。手持ち無沙汰になった俺は部屋を見回す。
フローリングの床、ベッド、かかる制服、しまわれている教科書や参考書、全て俺の部屋とは違う。違っているはずなのにどこの場所よりもひどく落ち着く場所で、まるで俺がここにいることが当たり前のようなそんな心地さえしてくる。
感傷に浸ってると突然扉が開いた。
別に変なことをしていたわけではないが慌ててしまう。
扉の前に立つ人物に目を向けると、手にはケーキがあった。
「?クロちゃんなにそれ」
「なにって、ケーキだろうが」
「なんで?」
思わず黒尾の口からため息がこぼれた。
「明日、つか10分後、7月20日」
「え?」
ああ、なるほど。
俺の誕生日か。
「でも夜中にケーキって」
「雰囲気のためだ」
だからか、いつも以上に優しくて、会いたいっていったのはクロちゃんだもんね。
「いいよ、一緒に食べよ」
俺が言うと、クロちゃんは嬉しそうにやってくる。
「誕生日おめでとう、及川」
「ありがとう、クロちゃん」


君と過ごせて嬉しいよ














いつも以上にグダクダですみません_(┐「ε:)_

Jul 20, 2013 23:43
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