||| plus alpha


自分でも、かなり女々しいと思った。
気づけば目で追っていた。いつの間にか立場は逆転していた。
代わりに彼は、自分のことをあまり見なくなった。

最後の大会が終わり、無事引退を迎えた俺たち三年生は、もちろん受験勉強につきっきりだった。
それでも、今でもふ、と思い出す時がある。ボールの感触、シューズの心地、体育館のにおい。
バレーを続けるためにも、志望校に受からなくてはならない。
岩ちゃんと一緒に牛若を倒すためにも。
なのに思い出してしまうのだ。
彼の視線と一緒に。

「ねぇねぇ、岩ちゃん。」
「なんだよ、部活なら行かねぇぞ」
「ひどい!」
このやり取りも何度目になるだろう。彼曰く、部活に行くと勉強に熱心になれなくなるらしい。
なんでだよ。
「後輩の様子気になるでしょ」
「それもまぁそうだけどな」
「行こうよ!」
「お前一人で行け」
なかなか頑固な岩ちゃんに、これ以上の説得は無理だと悟った。
諦めて立ち上がり、次の授業に備えて自分の席に戻ろうとしたときに、ぼそっと言われた。
「それに、俺とお前じゃ目的が違うだろ」

「図星だよ…岩ちゃん」
部活もない。学年も違う。家も近くない。
こんな状況で、会いたくならない方がおかしい。
そう、俺は思ってるのに。
肝心の相手は、そうでもないのだろうか。
唯一顔を合わせる場所と言えば、廊下しかなくて。それなのに廊下であっても会釈だけで終わってしまう。
「あんなに、俺のこと見てくれたのにね…」
突き刺さるような視線を、今でも覚えている。
天才肌のくせに、怖いくらい努力家で、ことあるごとに質問してきた。
それが若干、嬉しかった。
自分のことを、認められてるような気がしていた。
こんな自分の思考に、改めてびっくりする。
「思ってた以上に、大好きなんだよね」
「誰が、ですか。」
空耳かと思って、振り向くのをやめようとした。
「及川さん」
あぁ、何ヶ月ぶりだろう。思うほど、昔の話ではないのだろうけど、まるで何年もその声を聞いてないみたいだった。
振り向けば、少し眉間に皺の寄った、愛しい後輩の姿がそこにはあった。
「とびおちゃん」
「こんなところで、なにをしてるんですか」
時間は7時くらい。自分は部屋着姿で、下駄箱に立っていた。
間抜けだな、この姿。
「及川さん?」
「ねぇとびおちゃん」
ぽろぽろと、言葉が溢れ出す。
「とびおちゃんてさ、多分人生で一番わけわかんない人種だと思う」
「は?」
「ほんとにわけわかんないなぁ…自分がよくわからなくなっちゃうね」
「及川さん」
勉強のしすぎで頭沸きました?
なんて、ひどいことをいいながら彼は靴を履き替えた。
「今、部活終わった?」
「はい。自主練してました」
変わらない。ストイックなところも、自信満々に話すところも、何も変わっていないのに、どこか取り残されてるような、そんな居心地だった。
「及川さん、本当になにしてるんですか?」
「うーん、わかんない。…一つ質問していい?」
「?いいですけど」
自分でも整理がついていない脳内から、無理矢理言葉を引っ張ってきた。
「とびおちゃんは、寂しかった?」
「は?」
ぽかんと、大きく口を開けるとびおちゃんすら可愛いと思えるなんて、なかなかどうかしてるね、自分。
「ごめんね、なんでもな「寂しかったですよ」
言葉を遮るように、彼はしゃべった。
「…寂しくならないわけないじゃないですか」
「簡単な日本語しゃべって」
「…!!だから、及川さんに会えなくて、寂しかったです!」
少しムキになって彼は言った。
その後も、なにかを言い訳するような、そんな勢いで彼は続ける。
「俺だって、会いたかったんですよ。だけど、受験の邪魔するわけにはいかないし、及川さんは部活に顔出さないし」
「うん」
「……及川さんて、人気あるじゃないですか。」
「否定はしないよ」
「少しはしてください。……だから、俺なんかが相手されてるのが夢みたいで、だからいつ捨てられるか心配になってるのに、なのに及川さんなんの連絡もくれないから、よけい怖くなって話しかけられなくなるし」
あぁ合点が言った。
そして安心した。
俺だけじゃ、なかったんだね、とびおちゃん。
「だから、」
「もういいや、とびおちゃん」
「え?」
「なんか、恥ずかしくなってきた」
自然と、笑いがこみ上げてくる。
「とびおちゃん、好きだよ」
「…なんで、この流れでそうなるんですか」
「思ったことはすぐ伝える主義なんだよ」
伝えたら、真っ赤になったとびおちゃんの腕をつかんだ。
数ヶ月で、すこしたくましくなっている。
「帰ろ、飛雄」
「…っ、はい。及川さん」
そのまま歩き出して、唐突に思った。
「俺、受験終わるまで部活行かないことにした」
「えっなんでですか」
「なんか、やっぱりけじめつけようと思って」
だからね

及川と、影山の唇が触れる。

「ちょっと、待ってて」

いつの間に、俺はこんなに、彼に夢中になっていたんだろう。
それが少し悔しくもあったけど、真っ赤になった彼の顔がやっぱりかわいいから、それでいいことにした。




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うおおおおおすみません
遅れたのになんか消化不良感がやばい…
ううん…久しぶりに甘めなのを書いたからかな…
ゆるしてちょんまげ




May 26, 2013 19:50
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