「……銀兄…?」

かたらの声は雨音に掻き消される。

「あ?何か言ったか?…つーかアンタ、人間だよね?天人じゃないよね?もしかして、ここの所有者か?だったら、しばらく雨宿りさせてもらえりゃ、ありがたいんスけどぉ…」

だるそうに喋る口調と声質は紛うことなき銀時で、かたらはホッと安堵して武器を下げた。

「銀兄、私だよ」
「え………かたら?…かたらっ!?おま、何でこんなとこにいんだよっ!」

言って、銀時も刀を鞘に戻す。

「ちょっと迷子になっちゃっただけ。…銀兄だって道に迷ったんじゃないの?」
「バッカ、俺が道に迷うワケねーだろぉ?こんな嵐の中、撤退場所まで行くのがだるいっつーか…クシュッ……風邪ひいたら困るっつーか…」
「あーはいはい、分かったからこっちに来て」

かたらは小さく溜息をついて、銀時を呼ぶ。戦ではめっぽう強いのに、風邪に弱い体質とは如何なものか。

「…真っ暗で何も見えねーんだけど」
「入り口から左奥に進んでみて」
「おう……」

ギシギシと床板が軋む音が近づき、目前で止まる。

「それじゃ、濡れてる服ぬいで…こっちに来て」
「なにオマエ、誘ってんの?」
「…誘ってません。ここに毛布があるから一緒に暖を取ろうって言ってるの」
「ああ、肌と肌で温め合うアレね…やっぱ誘ってんじゃねーか」
「………銀兄って、めんどくさい」
「あ゛?」

ふたり、毛布に包まって少しだけ寄り添う。
絶対いやらしいことをしてくると思ったのに、銀時は手も出さない。先程言った「めんどくさい」発言が悪かったのだろうか…と、かたらは小首を傾げた。

「……銀兄、怒ってる?」
「あ?…べつに怒ってねーよ…」
「うそ、機嫌わるい声してる…銀兄の感情は声で分かるんだから」
「怒ってねェ、つってんだろ…」
「ホントに?…それじゃ、…どうして私に……」

何もしてくれないの?…という言葉をぐっと飲み込む。してこないの?ならともかく、希望系にしたらこっちが欲求不満に思われてしまう。

「何?ナニかしてほしいワケ?かたらは」

飲み込んだ言葉はあっけなく見透かされた。

「ち、違うよ…っ……」

かたらが黙ると、銀時がフッと笑いをもらす。

「…あのな、べつに押してダメなら引いてみろ、とかじゃねーからな?それに、メンドクサイ男ってェのは自覚してるしィ、つーか俺から言わせりゃお前もメンドクサイ女だしィ」
「う…」
「しっかし、普段ベタベタすると嫌がるくせによぉー、素っ気なくするとお前も不安になるのなー。放置プレイしたら、お前どうなっちゃうの?誘い上手になる?」
「……なりません。銀兄、積極的な女はキライなんじゃなかったの?」
「あー…誘い上手じゃなくて、おねだり上手な。放置プレイっつーのは調教の一種だから。今度、試してみるか…」
「試さなくていいからっ…というか、銀兄が私を放置できないと思うけど」
「そーだな、お前を放置したら不安でさみしくて泣いちまいそーだし?」

ここでようやく銀時はかたらに体を寄せて、腕に抱きしめる……が。

「ひゃ、つめたっ…ぁ…!!あぅ…銀にぃ、なんでこんな…っ」

銀時の手があまりにも冷たくて、かたらの体がビクンと強張った。

「ハハッ、すっげェ冷てーだろ?寒くて手の感覚ねーんだわ」
「!…なんでもっと早く言わないのっ?」

かたらは銀時の両手を掴み、自分の胸元に引き寄せた。

「こんな冷てェ手で触ると、お前が冷えちまうだろ…」
「もうっ、ヘンなところで気を遣うんだから…ほら、横になって。私があたためてあげる」
「そーやって甘やかすとアレだよ?俺、調子に乗っちゃうよ?」
「乗っちゃだめ。大人しくしててね」

寝台に横になり、向かい合わせに身を寄せて、かたらは銀時の額に手を当てた。

「まだ熱は出てないか…でも、すぐ体をあたためないと絶対に風邪ひいちゃう。銀兄よわいから」
「バカじゃねーから風邪ひくんだよ」
「そうじゃなくて、体が冷えると免疫力が低下するから風邪になりやすいの。えっと、…手をあたためるには…ここが一番、手っ取り早いんだよね…」

言いながら、銀時の手を自分の股間に招き入れる。

「あの…かたらちゃん…誘ってんの?欲求不満?」
「違いますぅー。…股間って大動脈に近いから温度が高いの。あったかいでしょ?」
「そりゃ確かにあったかいけどよ…手が疼くっつーか、指が勝手に動くっつーか…」
「ん、っ……銀兄、動かさないで…ヘンなことしたら、怒るよっ」
「なにこれ…蛇の生殺しじゃね?」
「いいからいいから、もう寝よっか…おやすみ、銀兄」
「イヤ、おやすみじゃねーだろ」
「わかった…おやすみのちゅうしてあげるから、大人しく寝ようね……」

かたらはギュッと抱きしめながら、口付けを落とす。銀時の唇を軽く吸って、離して、それからクスクスと笑った。
何が可笑しいのかというと、これから銀時がどう出るか予想できてしまうからだ。

「……お前さぁー…俺を煽っといてタダで済むと思ってんの?手っ取り早く体をあたためる一番の方法なんてなァ……ひとつしかねーだろがァァァ!!」

そうして、いつものように赤頭巾ちゃんは狼に食べられてしまうのでした。


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