ユキウサギ


「銀兄っ、雪!雪が積もってるよ!」

寒い真冬の早朝、めずらしくテンションの高いその声に薄目を開けた。
が、心地良い布団のぬくもりを手放すつもりはなく、銀時は上掛けを頭まで被る。

「銀兄、早く起きて!」
「…後でいーだろぉ……雪は逃げねーよ…」
「雪はとけちゃうよ?」
「んなすぐ、とけねーよ……松陽先生は…?」
「先生は正月のあいさつ回りに行ってくるって出かけちゃった」
「……んじゃ二度寝すっから…先生帰ってきたら起こしてくれ…」
「うううー……わかった…」

三つ年下の妹はしょんぼりと寂しい声を出して部屋を出ていった。
しばらくして銀時は起き上がる。

「…ったく、仕方ねーな」

可愛い妹をひとり雪の中にほっぽり出しておくわけにもいかないだろう。



北国から遠く離れたこの地でも、毎年雪が降り積もる。いつも正月を過ぎた頃にドカッと降る。といっても膝下半分くらいだが。
銀時が雪靴を履いて玄関から外に出ると、辺り一面銀色世界。朝とはいえ反射光がまぶしくて、寝起きの目には痛いものだ。
 
「あいつ……どこ行ったんだ…?」

積雪の中、小さな足跡を辿って屋敷の庭まで回ってみたが姿はない。さらに辿っていくと母屋の離れ、講義室の縁側に座っている妹を見つけた。
ザクッ、ザクッ、と雪を踏んで近づくと、にっこりと笑顔を向けてくる。

「銀兄、これ見て」
「あん?」

妹は奥にあった盆を手前に出す。

「ん?……雪で作った…ウサギ?」
「そう、雪うさぎだよ」

盆の上には小さな雪像。
雪を固めて作った胴体に、南天の葉っぱを耳に、赤い実を目に見立てたうさぎが二羽のっていた。一瞬、白い饅頭に見えたのは腹が減っているせいだろう。

「ね、可愛いでしょ?…これが銀兄」

言って、小さいほうの雪うさぎを指差す。

「なんで俺?ちいせーのはお前だろ?」
「小さいのが銀兄で、大きいのが松陽先生。わたしのは…作ってない…」

何で自分のを作らないのか、銀時は訊こうとしてやめた。かわりに足元の汚れていない雪をすくってギュッと丸め、それに庭木の南天の葉と実をむしって付ける。

「ハイ、コレお前な」

盆にのせたそれはお世辞にも上手いとは言えない。それでも妹は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「銀兄、ありがとう。……これ、すごく小さくて…わたしそっくりだね」

同時にいくばくかの悲しみも垣間見えて、ハッと気づく。
盆に並べた三羽の雪うさぎ。それは家族のように佇んで、妹にとっては死んだ両親を思い出すかもしれない。そもそも最初から、二羽の雪うさぎは父と母だったのではないか。そんな風に思えて仕方がない。

「…ちっさくて可愛いのがお前の特徴だからなぁー」
「そうなの?」
「早く成長してほしいような、ほしくないような…」
「なにそれ?」
「…こっちのハナシ」

銀時は妹の冷たい手を取って握りしめた。
たとえ血の繋がりがなくても、今は俺と先生がお前の家族。俺も、お前も、ひとりじゃない。

言葉にできない想いなら、ぬくもりに込めて手渡せばいい…


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