秋雨秋暑し。いつまで残暑が続くのかと思えば十月を目前に控え、急に肌寒くなってきた。朝の雨音に目を覚ますと、隣には彼氏がいて、まだ寝息を立てている。
一回り年上の彼氏。寝顔が小さな子供みたいに可愛くて、ついつい頭を撫でたくなってしまう。くるっとはねた銀髪の感触を楽しんでいたら、彼が「ん…」と薄目を開けた。
「ごめんね銀ちゃん、眠り妨げちゃって」
「……もう…朝?…なんか暗い…」
いつもだったら朝日がカーテンを透けて眩しいのに、今日は違う。
「雨だからね」
「………」
雨と聞けば露骨に嫌そうな顔をする。何故なら…彼は雨が大嫌いだから。
「昨日見た天気予報だと、今日は一日中雨だって」
「………」
寝惚け眼で眉をひそめたまま、返事もしてくれない。そして再び目を閉じてしまった。
「銀ちゃんってホント、雨が嫌いだよね。そんなに髪の毛くるんくるんになるのイヤなの?」
「………」
やっぱり返事がないので、腹いせに銀髪をわしゃわしゃと撫で、指に絡めてみる。
「私は雨、好きなのになぁー…銀ちゃんは嫌いかぁー…」
「………」
「あのね、銀ちゃんと付き合う前、ひとりだった頃はね…雨の日は読書、って決まってたの…」
雨音を聞きながら、のんびりリラックスして本を読んだり、時には勉学に勤しむ。多少の湿気はあれど、家の中でまったり過ごせる雰囲気が好きだった。
「でもね、銀ちゃんが隣にいる今はね……雨の日は銀ちゃんと一緒にゴロゴロする日、なんだよ?」
と、今決めた。言ってから、ちょっと恥ずかしい台詞だったかも…と頬が熱くなる。
「……なーんてね…」
笑ってごまかしつつ、目を瞑っている彼が再び眠りに落ちていることを願った。
『…………』
けれど、彼の意識は起きていて、その頬が微かに赤く染まっているのを確認……そのまま雨音が沈黙を埋めていく。
「……雨がやむまで…お前んちにいるわ俺…」
しばらくして彼はポツリと言った。
「…そっか……えへへ」
「………」
「銀ちゃん…雨の日、好きになった?」
そう訊いてみたけど返事はなく、代わりにぎゅっとされた。
触れる肌と肌、体温があたたかくて心地好い…今日はずっとこうしていたい。
秋涼し、秋雨の朝、とある恋人の情景
2012/09/25
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