「オイ坂本、生きちゅうか?」
陸奥は扉の前で呼びかけた。商談成立後、自室に引きこもってしまった上司の様子を見に来たのである。
「オイ…いつまで飲んじゅう、いい加減にしろ」
ズカズカと勝手に入って、机に突っ伏している坂本の前に水を置く。
「…おぉ…すまんの……飲みすぎて…きもちわる…おぼろろろr」
「まったく、毎度毎度吐きおって」
「ふ、船酔いじゃなか…二日酔いじゃ…うぷっ」
「頭のおまんがいつまでも飲んだ暮れておったら皆に示しがつかんろう」
「何をゆうちょる…わしが飲むんはいつものことやき」
「皆が噂しちゅうぞ、おまんが失恋して自棄酒喰らって…」
「な…わしゃ失恋なんぞしちゃーせんっ…!」
「ならば恋泥棒から恋心を取り戻せたか?ん?」
珍しく陸奥がニヤリと笑っていて、坂本は何ともやるせない気分に陥った。
「……ダメじゃった…取り戻すどころかまた奪われてしもうたがや…わしの心は昔も今も、あの女子に囚われたままじゃき…アッハッハッハッ、おえぼろろr」
「そうか…」
「…今は別にそれでかまわん…恋心はあの女子に預けとくんじゃ…けんども、いつかは取り返しに行くぜよ…わしゃ…!」
ゲロ袋に顔を半分突っ込みながら言うと、どんな台詞も残念な感じである。
「そうか、まだ失恋と決まったわけじゃなかったか…わかった、その旨を皆に伝えておく」
「え、陸奥……今なんて?」
「だから皆に伝えておくと言うたんじゃ」
「なっ、なしてわしのプライベートでデリケートな部分を部下に報告するがかっ!?恥ずかしい!ほがなことヤメテェェェ!」
「それが嫌なら早う支度して司令室に来い」
スッと立ち上がり「五分以内に」と付け加えて、陸奥が部屋を出ていく…
「陸奥!おまん余計なことゆうたらいかんぜよ!プライバシー侵害で訴えちゃるきにいいいぅぼろろr」
次に会えるそのときまで、恋心は預けておこう。
2012/11/15
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