恋心天の川銀河。数千億ともなる星々が煌やかに光の帯を形成している。
その銀河系の、とある惑星のターミナルにて。編み笠を被り、膝丈の外套に身を包んだ小柄な女がサービスステーションを訪ねていた。
「快援隊、坂本辰馬様宛てに宇宙商業組合からの通達と、地球からのお手紙が一通ございます」
宇宙通信局窓口での受付嬢の言葉に、女は無表情のままに頷く。
「転送を頼む」
「かしこまりました。少々お時間がかかりますので、番号が呼ばれるまでお待ちください」
整理券を受け取り待合室の長椅子に座ると、女はやはり無表情のままに小さく息をつく。艦隊が停泊する度に、通信局で郵便物を確認しなければならない…それが面倒だった。
しかし、面倒と言えど部下に押し付けることもできないのだ。けして部下を信用していないわけじゃない。商いにおいての機密事項…密書を最初に受け取るのが、組織のナンバー2である自分の役目だからだ。面倒だが仕方ない。
「坂本、おまん宛てに手紙が来ちゅうぞ。地球から」
「おう陸奥、ご苦労さん。地球ぅ?アッハッハッ、おりょうちゃんからのラブレターかぇ〜?」
振り向いたグラサン男はモジャモジャ頭を掻きながら陽気に笑う。艦隊『快臨丸』の船長、商業組織『快援隊』のリーダー、坂本辰馬である。
女…陸奥は坂本の副官であった。ちゃらんぽらんなリーダーのおかげで、いつも気苦労が絶えない。
「…桂小太郎からじゃ」
「おおっ!?ヅラから手紙が来ゆうとは久しぶりじゃの〜、どれどれ…」
『前略 坂本辰馬殿
ヅラじゃない桂です。お元気ですか?蓮蓬篇以来ですね。実は重大な知らせがあり、ご連絡した次第です』
「ふむふむ……」
そのまま読み進めていく坂本の手が小刻みに震え出す。
「!!……かたら…かたらが生きちょったがかっ!?」
桂の手紙には、かたらとの再会について綴られており…かたらの記憶喪失、現在の立場、成長した姿がどうであるかなど、事細かく書かれていた。
『銀時(金時じゃない銀時だぞ)は自分との関係、過去の真実を告げずにかたらが自然に記憶を取り戻す日を待つそうです。致し方なく俺も同意することになりました(哀)
もし、坂本が地球に戻ったときにかたらに会うようなことがあったら過去には触れず接するよう心掛けてください。
また連絡します。 草々
桂小太郎より』
「ヅラ…わしのために手紙ば……」
『P.S. ヅラじゃない桂だ』
「……ヅラァァァァ!!知らせてもろーて…まっこと、まっこと感謝ぜよォォォ!!」
坂本は涙を流しつつ手紙をたたんで胸元の内ポケットに仕舞い込んだ。それから陸奥に向き直る。
「陸奥…今までおまんには黙っちょったけんども…昔、わしには好いた女子がおってのう…」
急に真面目くさって語り出されても、陸奥の表情はジト目のままである。
「攘夷戦争時代、わしを支え、わしの背中を押してくれた女子じゃ。戦争終結後に死んだと聞かされちょったが、奇跡的に一命を取り留め生きちょったらしくての〜過去の記憶を失っちゅうようじゃが…たとえ、わしを忘れていようともかまわんき…」
ここで拳を握る。
「わしゃ、その女子に会いに行くぜよ!今すぐにっ!!」
「何を言うちゅう、商談は明日じゃ…今から地球へ行って帰って間に合うと思っちゅうのか?きさんは」
「商談時間までには戻るき、心配いりゃーせん!」
言って司令室を出ようとする坂本の前に、陸奥は立ち塞がった。間に合う保証なんてどこにもないからだ。
「許すわけにはいかん。商談が成立するまで勝手な行動は控えてもらおう」
「ちっくと出掛けてくるだけじゃき〜」
「百歩譲って、この星のキャバクラへ行くことなら許す」
「陸奥ぅ…ここの星の女はわしには合わん。人型ゆうても触手がわらわら生えちょる女はお断りやき。ほがなモンと惚れた女を天秤に掛けるバカはおらんぜよ。ほいたら留守は任せたっ!」
「あっ…待て、坂本っ!く…誰かそのバカモジャを捕まえろォォォ!!」
逃げる坂本を乗組員たちが追う。
「かたらはわしの心を盗んだ女子じゃあああっ!わしゃ、それを取り戻しに行くぜよォォォォ…」
ひらりと追跡をかわすその声が遠ざかっていく…きっと捕まらない。
陸奥は溜息を漏らしながら坂本を見送った。このような光景は珍しくはない、いつものことだった。
「……無責任艦長めが…」
だから然して気にしない。商談時刻に間に合わなかったら、そのときに鉄槌を下せばいいのだ。
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