すうっと目が覚めて暗闇を見つめれば、そこに見慣れた天井が現れた。銀時は数回瞬いて我に返る。

「………夢、か…」

久しぶりに昔の夢を見た。まだ攘夷戦争に行く前、松陽先生も存命していた頃の…不穏な情勢ではあったが慎ましく暮らし、日々の生活の中で小さな幸せを感じていたあの頃の、かたらとの思い出…思春期特有の甘酸っぱい青春…それをつい最近も実感したような気がして銀時の口元が緩んだ。昔のかたらも可愛いが、今のかたらも同じく愛おしい。想いはずっと変わらない、きっとこれから先も…変わることはないだろう。

ごろりと寝返りを打って覗いた目覚まし時計は午前一時半を過ぎていた。もうすぐ草木も眠る丑三つ時に入るところで、何だか目が冴えて眠れそうにない…銀時は起き上がると和室から居間に出て台所へと向かった。冷蔵庫を開けても酒の類は入っていない…別に飲みたい訳じゃないが、一杯だけ飲んで渇いた喉を潤したいような…否、喉を潤すだけなら水道水で十分で…しかし頭にビールが浮かんでしまってはビールしか飲みたくないような…でも外に出るのは面倒だし…でもでも不味い水よりビールが飲みたいし…でもでもでも面倒だし…

葛藤の末に寝巻きからいつもの衣装に着替えた。とりあえず一階のお登勢の店に行って客が空いているなら一杯もらう、騒がしいようだったらコンビニにでも行って缶ビールを買えばいい…と決めた。

「うげ…雨降ってら……」

玄関を出て雨に気づいた。小雨でもないのに、やけに静かに降る雨だった。一瞬、出掛けることに躊躇いが生まれたが、せっかく整えた身支度が無駄になってしまう。

「えーと傘は…確か…」

階段下の鉄骨にかけておいた筈だ。
一階に下りた途端、お登勢のスナックからどっと笑い声が聞こえた。この時間帯はすでに酔っ払った客が店をハシゴしてやってくるから騒がしい時もある。その中に割り込んでまで飲む気になれず、銀時はコンビニへ行くことにした。

傘を差して道を進む。雨の所為か人気がなく、辺りは静寂に包まれていた。傘に落ちる雫の雨音さえ静かに控えめに響いている。普段なら鬱陶しいと思う雨も、何故か心地よく感じて…不思議な気分だった。もしかしたらそれも、かたらの夢を見たからかもしれない。夢でかたらに会えたから…

「……!…」

ふと視界に人影が入って歩みを止めた。その足元を見れば女だと分かる。ゆっくり傘をかしげると、雨に霞む淡い街灯の光に照らされたその姿があらわになった。

「…オイオイ嘘だろ…俺ァまだ夢でも見てるってェのか…?」

夏の夜雨に濡れた夕色の髪は垂れ下がり、袴もずぶ濡れの濡れ鼠だった。

「かたら……?」

それがまぼろしか本物か、確認するために銀時は一歩、二歩と前に進んだ。間近で視線が合っただけじゃ分からない、触れて存在を確かめなければ分からない…銀時が手を伸ばした瞬間に、それは胸に飛び込んできた。受け止めた弾みで片手に持っていた傘が滑り落ちる。
銀時は両手をその背中に回して確かめた。冷たい…けれど、しっかりと鼓動を感じられる。これはまぼろしなんかじゃない、本物だと…

「…かたら、お前……」
「坂田さん……っ」

視線を上げたかたらは一瞬泣き出しそうに顔を歪めるが、堪えて唇を動かした。

「わたしを……わたしを受け止めて…くれますか…?」

その台詞が意味するものは…

「…抱いて…ください……わたしをあなたのものにして…!」
「!!……っ…」

迷うより早く瞬発的に体が動いた。かたらの手を掴み駆け出していた。
雨に打たれながら裏路地の奥へと進み、目指すところは連れ込み宿…少し離れたラブホ街まで行かずとも近くに旅館風の建物があることを思い出した。道はうろ覚えだったがどうにか辿り着き、運良く空いていた一部屋の鍵を受付で貰って、ふたりは離れ座敷へと入った。
先に敷居を跨いだ銀時はかたらに背を向けたままに訊ねる。

「何があったか知らねーが……覚悟は決まったんだな?」
「……はい…」
「何があったか、今は問いただすつもりはねーよ……ただお前の望み通りにお前を抱いて、俺のものにする…後で後悔すんじゃねーぞ?絶対にな」
「後悔なんてしません……絶対に…」
「ならいい」

木刀とベルトを外した銀時の肩から着流しが滑り落ち、畳を湿らせていく。

「お前も脱げよ」

そのまま残りの衣服を脱ぎ去って振り向けば、かたらも生まれたままの姿で…銀時はその体を引き寄せて抱き上げた。
小上がりに敷かれた布団にかたらを降ろし、覆いかぶさってその顔を覗き込む。すっと目尻からこぼれた涙を指で拭って、その唇を塞いだ。やさしく一度啄ばんで、囁く…

「…かたら……かたら……」

愛してると告げるより、愛しい存在の名前を繰り返す。

「っ……さかた…さん…」
「コラ…こーいうときは下の名前で呼べって…俺の名前は…?」
「ぎん、とき……銀時…さん…」
「さんって……まァそれでもいーか」
「…銀時、さん…っ」

恥ずかしそうに名前を呼ぶかたらに、やっと笑みが戻った。一体何があって、こういう心境に至ったかは分からない。けれど言葉で慰めるより今は、こうやって体で慰めたほうがいいのだろう。そうかたらが望んでいるような気がした。

「かたら……」

再びその柔らかな唇にそっと吸い付き、何度も啄ばむように口付けを落とす。それから舌を差し入れ歯列をなぞり、口腔内を愛撫していく。互いの舌先と唾液が絡まって、その蕩けるような感触に脳が痺れていく感覚…それに懐かしさを覚える必要はなかった。今存在するかたらを全身全霊で感じたかった。

首元から胸へと唇で触れながら、尖った先端を見つけて口に含むとかたらがピクンと震えた。その形のよいふくらみを手と指で弄れば、小さな唇から吐息が漏れる。

「あ、っ……はぁ…っ…」

甘い声…それをもっと聞きたくて片手を下に滑らせた。細い腰、横腹に残った傷痕を撫でてから指先で恥丘を探る…もうすでに濡れそぼつ秘部の中心に中指を立てゆっくり埋めていく。

「んっ……ふ……あぁ、っ…!」

ナカで指を回すように動かして、親指で芽を押し撫でていると、次第に快楽に呑まれたのか、かたらが悶え始めた。腰を浮かせてもっと奥へとせがむように身をくねらる…そのぎこちなくも、いやらしい反応が堪らない。もう我慢できなかった。
銀時は高揚して頬を染めるかたらの口を塞ぎながら、その内腿を開き、己の熱り立つそれを中心にあてがって…一気に貫いた。

「ああ、ぁ……っ!!」

かたらは苦しげに息をつき、震えた。緩やかな律動を繰り返せば、その細い腕が銀時にしがみつく。背中に回された手がギュッと食い込み、もっと激しさを求めていた。

「っ…かたら……」

少しずつ速度を上げていく。吐息が触れる距離でかたらの表情を眺め、その嬌声に耳を傾けて、時折だらしなく開いた唇に口付けを落とす。
射精感を抑えるのもそろそろ限界だった。もちろん一発で終わらせるつもりはないが、もっと長く…できることならずっと繋がったままでかたらを感じていたかった。

「あぁ…っ、わたし……もう、っ……!!」

絶頂を迎えたかたらのナカが肉茎をグッと締め付けて、銀時も限界に達する。その瞬間に素早く引き抜き、かたらの腹にぶちまけて、鈴口から数回に分けて吐き出された体液のぬるりとした感触に、銀時は溜息まじりに呟く。

「っ……はぁ、っ………本当は…お前ん中に…出してェ…けど…」

言いながら唇を合わせると、かたらが濡れた瞳を向けてきた。

「……あなたが…望むなら…」
「バカ…んな簡単に言うんじゃねーよ」
「わたしはもう…あなたのものなんです……だから、銀時さんの好きにして…」
「オイかたら、そーじゃねェだろ?お前から俺を求めたんだ…だったら最後まで遠慮すんじゃねェ…お前が望むことを俺が叶えてやる、分かったか?…お前が俺を好きにしていいって言ってんの」
「っ………」
「なあ、俺はお前に何をすればいい?ほら言ってみろって…」

何となく予想はついていた。
かたらは心の隙間を埋めてほしくて繋がりを求めた…それはある意味現実から目を逸らし逃げたかったのかもしれない。銀時を求めたのも、銀時の想いを知っているからで…でも、それでもいいと思った。もし利用されているとしても、今かたらを満たすことができるのは自分だけだった。

「銀時さん……もっと、あなたを…ください……わたしを愛して……!」


3 / 4
[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -