迷霧


七夕祭りも終盤に差し迫る中、土方は人込みを掻き分けかたらを捜していた。その後ろを新八と神楽が必死に追いかけていく。縁日の賑わいから離れ、神社の本堂の脇を通って裏手に出たところで土方は足を止めた。

「……てめーら、ハメやがったな…最初からこういう算段だったんだろ?葉月と万事屋を二人きりにするための…」

振り向かず背後の子供たちに問う。その声音に怒りはなく、どこかあきらめの境地に至ったかのような哀愁を帯びていた。

「土方さん、すいません…僕たちは…」
「頼まれたんだろ?…別に怒っちゃいねェし、謝る必要もねェ」
「でも、…これは僕たちが望んだことでもあるんです。だから…すいませんでした!」
「新八!何謝ってるアルか!謝ることないネ!銀ちゃんとかたらがふたりきりになって何か不都合でもあるアルか!?元鞘に戻って何が悪いネ!!」
「ちょ、神楽ちゃんんん!」

慌てて新八が神楽の口を押さえるがもう遅い。土方は別段驚きもせず着流しの袂から煙草を一本取り出して火を点けた。ひとつ紫煙をくゆらせて呟く。

「……なるほどな」
「!…土方さん、もしかして…知ってたんじゃ…」
「葉月に対する万事屋の執着っぷりを見てりゃあ嫌でも気づく……お前らは縒りを戻してやりたくて協力してたんだろ?別に無粋な邪魔立てをするつもりはねーよ、安心しろ」
「…土方さん……」



***



今思えば最初から違和感があった。土手沿いの河川敷でかたらを挟んで対峙したとき、銀時は過去の記憶を失っていたかたらにどう接していいのか戸惑い、心の中で葛藤していたはずだ。その場で言いたいことも言えず叫べず、先にかたらの手を離したのは銀時だった。
かたらが攫われたときは酷く青ざめた顔で、おそらく昔に一度かたらを失っているが故のフラッシュバックを起こしたのだろう。そして命をかけてかたらを救出した銀時はあろうことか土方に心配をかけたと謝り、かたらを託した。そこから窺えるふたりの関係は思っていた通り過去にあったのだ。
昨夜の七夕祭り、横目で見た銀時の…かたらを見つめる瞳、それは遠い昔を懐かしむような、愛しい者を慈しむような眼差しで、ふたりを結ぶ強い絆が、運命の糸さえ見えた気がした。

「………」

いつもより早く目覚めた朝、頭は妙に冴え、起きて早々に思考を巡らす。土方は自室前の縁側で煙草を吸い、溜息とともに紫煙を吐き出した。一体いつまでかたらのことを考えれば気が済むのか自分でも分からない。

『わたしには結婚を約束をした恋人がいたみたいなんです…』

その台詞から、かたらは昔の恋人の存在を知ってはいるが、それが銀時だと気づいてない様子だ。何故、銀時はかたらに真実を告げないのか…推測するならば、無理やり記憶を植え付けるより自然に記憶が戻ることを望んでいるのだろう。どちらにせよ、今ふたりはチャイナ娘が言ったように元鞘に戻ったのかもしれない。記憶を取り戻さなくても再び絆を繋ぐことはできる。
では、自分のこの想いはどこへやればいいのか…かたらへの想いをどこに捨て置けというのか…

「副長、おはようございます。今日はお早いですね」

今まで自分がしてきたことは横恋慕に過ぎない。かたらと銀時、ふたりが昔からの恋仲ならばそこに自分の入る余地などありはしない。
こんなに近くにいても触れることさえ、想うことさえ、もう許されないのか…


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