七夕


花いっぱい、という看板が掲げられた店先にひょっこり現れた銀髪天然パーマ男に驚き、元お庭番衆・脇薫は清掃中の手を止めた。

「あら、アンタ珍しいわね〜春のお彼岸以外でうちの店に来るなんて〜」
「ちょっとな」
「もしかしてアレかしら、恋人の一人や二人でもできたのかしらん?」
「うるせーよ。つーか、いつもの花くれ」

銀髪天然パーマ男もとい坂田銀時はぶっきらぼうに言って手のひらを出してきた。

「は?アンタにいつもの、って言われても分かんないんだけど、そういうのは店の常連になってからにして頂戴」
「だから〜アレだよアレ、黄色いヤツ」
「はぁ?もしかして黄水仙のこと言ってんの?」
「そーそー黄水仙。つーか、いつもので通じてんじゃねーか」
「バカ言わないで、あるわけないでしょ〜時季外れの花なんか置いてないわよん」
「!?」

目を見開いたまま固まる銀時に追い討ちを掛けてみる。

「残念だけど、多分どこの花屋に行っても水仙の花はないと思うわよん」
「……ウソ…だろ……そんな…」

まるでこの世の終わりみたいな顔をするから、ちょっとだけ哀れに思えてきた。ビンボーでちゃらんぽらん、こんな情けない男でも毎年誰かのために花を手向けているのだ。おそらく黄水仙の花には何か強い思い入れがあるに違いない。
脇薫は一旦店内に入ってすぐに戻り、ショックで跪いている銀時にあるものを差し出した。

「ホラ、生花はないけど造花ならあるわよん」
「!!」

目の前には黄色の水仙。少々煤汚れてはいたが、造花にしては本物に見間違うほど出来が良かった。

「これならタダでアンタにあげるわ」
「マジで!?いいの??」
「持っていって頂戴。黄水仙は気高い花…アンタには似合わないけど、捧げる相手がいるなら…その人はアンタにとって尊い人なんでしょ」
「!……すまねェ、恩に着る。事が上手くいった暁には毎月花を買ってもいい、約束するぜ」
「?…よく分からないけど、期待しないで待ってるわん」

黄水仙の造花を仏壇に供えて、それで一体何が上手くいくのだろう?銀時の背中を見送りながら考えてもやはりよく分からない。脇薫はホウキを取って再び清掃作業に戻った。





かたら誘拐事件が落着してから十日ほど過ぎた。
銀時は沖田仲介の下かたらに会うことを許され、たった今屯所の門をくぐったところだ。待ちに待ったかたらとの面会、やるべきことは分かっている。これはかたら奪還計画と銘打ってあり、必ずかたらの暗示を解き、この男臭い檻から救出して万事屋に連れ帰るのだ。いつになく真剣な面持ちでキリリとしていたら出迎えに来た沖田に開口一番「気持ち悪っ」と言われた。

「旦那、ついて来てくだせェ。葉月はあっちの離れにいるんで」

大人しく沖田の後に続き中庭を突っ切って歩いていく。昼過ぎの屯所内はやけに静かだった。隊士は外回りに出ているのか、それともどこかで事件でも起こったのか…とにかく土方の顔を見なくて済むなら何でもよかった。
頼みの綱の沖田は渡り廊下があるというのに渡らずに、その先の小さな離れ屋敷まで向かう。風情も何もあったもんじゃない。

「ここでさァ、旦那。帰りは葉月が見送るそうなんで…じゃあ後はお若いお二人で〜」
「お見合いみたいに言うんじゃねーよ」
「けど旦那ァ、緊張してるんじゃねーですかィ。額に汗が…」
「べっ別にキンチョーしてねーし!何か蒸し暑くない?今日暑くない??」

銀時は咄嗟に額の汗を袖口で拭った。沖田に指摘された通り、手に汗握るほどに緊張しているのだ。

「…何企んでるかしりやせんが、間違いがあっちゃあこっちも困るんで一応コレ渡しておきまさァ」

スッとさりげなく手のひらに乗せられたモノ、小さなパッケージには極うす0.02ミリ(3個入)と明記されており、どこからどうみてもオカ○トのコンド○ムである。銀時はグシャッと握り潰した。

「あれ、ダメでした?やっぱ新商品の0.01ミリのほうがよかったですかねィ」
「0.01ミリ!?…じゃなくて!ヤるわけねーだろ!!こんなところでできるかァァァ」
「まーまー落ち着いてくだせェ、ただの冗談でさァ。それより旦那、愛を告白するなら早めにどーぞ」
「!…オイオイ沖田君、それどーいう意味?」
「こっちは土方さんがいつ痺れを切らすかヒヤヒヤしてんでさァ、そろそろ攻めの姿勢に転換してもおかしくありやせん」
「…イヤ先に攻めに入るの俺だからね?今日はかたらを連れて帰るつもりでここに来てんだよ俺ァ」
「お客さん、かたら嬢のお持ち帰りはご遠慮くだせェ」
「風俗嬢みたいに言うんじゃねーよ!つーか、もういいから持ち場に戻って沖田君、ホント感謝してるから!ありがとう沖田君!」
「ハイハイ分かりやした。ま、ゆっくりしてってくだせェ……さてと、昼寝…間違えた公務に戻らねーと」

言いながら内ポケットから取り出したアイマスクを額にスタンバイしつつ沖田は去っていった。残された銀時は大きく深呼吸して、離れの戸口に立つ。これからかたらの記憶を取り戻す…ようやく会えるのだ。同じ時代を生き抜いてきた伴侶に…


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